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4話 サクラ・オリーヴェ

「炎よ、我が剣に纏え!ファイヤーソード!」


 俺が、命を奪われるその時を、失意の中ただ待ち続けていると、そんな叫び声が聞こえた。それと同時に聞こえた斬撃音と共に、俺の束縛が急に緩くなった。それと同時に俺の体に重力がかかってくる。


 うわ、落ちる。そう思っている内に俺の体の落下速度は止まらずに増えていく。

「風よ、かの者を受け止めたまえ!エアークッション!」

 その叫びが聞こえると、俺の落下速度は減少していき、地面のすぐ上くらいに目に見えないトランポリンでもあるかのように柔らかく着地出来た。これは……魔法?


 そして無事着陸した後は、ついさっきまで俺をえらい目に合わせてくれたの方を見ると、綺麗に両断されており、切り筋に合わせて、燃えたのか黒く変質していた。

 俺、生きてるのか?うん、確かにここにいる、まだ生きているという実感が湧いてきた。

 何とか、九死に一生を得たのか……良かった……そう思うと気が抜けたのか、地面にへたりこんでしまった。


「おい、お嬢ちゃん大丈夫だったか?あの、おーい?」

 その声を聞いてからツーテンポ程遅れて、俺に対して言っているのか、と言う事を把握して、声の方へ振り返った。


「そうそう、君だよ。何でこんな所にいるんだ?街の外には魔物もいる事は知っているだろう。子供一人では出歩くのは危ないだろう。」

「ちょっとアラン!いきなり責め立てることは無いでしょう?まだ年端も行かない女の子なのよ?大丈夫?怪我はない?」

 そう俺に向かって言っているのは、外見年齢は17歳位の男女二人組だった。


 男の人の方は、長剣を背中に抱えたアッシュブラウンのショートカットが映える爽やかな好青年といった雰囲気の人だ。

 女の人の方は、素手かと思ったら拳銃らしき物を腰のガンベルトに入れている。ブロンドのふわっとしたミディアムといった髪型をしていて、優しそうだが、芯を持っている人って感じがする。

 そして二人とも白地の上着にネクタイを付け、黒地のズボンやスカートを履いているといったような似通ったデザインの制服に、金属製の簡易的な装甲を着けた感じの服を着ている。


 俺が、二人を観察していていると、頭をポリポリ掻きながら、少し前屈みの姿勢になり俺と同じ高さに視線を合わせてきた。

「ああ、そうだったな。さっき怖い目にあった直後なのに悪かった。俺は、アラン。遊撃隊所属アラン・ストラーダだ。君は?」

 なにやら俺が、怯えていて返事出来ないでいると勘違いしたのかもしれない。


「お、私は、佐倉……」

 何やってんだ。俺は馬鹿か。急にバリバリの男口調で話す少女とか、秒で変わり者のレッテルを貼られるのは分かるだろうが。それに「俺は」と言いかけたのももう駄目だが、一応そう言うのを何とか修正して、「私は」と言い換えた所までは良かったのに。

 そこから何で、流れでもろに世界線外れてそうな日本人名で、俺が男の頃の名前を言おうとしたんだ……

 こんな初歩的なミス、小説とか漫画でしか見ないから……

 もう、こうなればやけだ。悩んでいると怪しまれるだけだし、急いでどうにか誤魔化すしかない。


「さ……サクラ・オリーヴェ……です。」

 とりあえず、もう口に出してしまった佐倉の部分は変えようがない。仕方ないから、もうサクラとして名前にしてしまうしかない。

 オリーヴェは最近読んだ小説に出てきたキャラクターからそのまま貰ってきた。パッと思いついた名前が、たまたまそのキャラだったからだ。でも、何故かは良くわかんないが、この名前がなんとなく良いとは思ったが。

「サクラちゃんっていうのね。私も遊撃隊所属、クロエ・ルナーレよ。よろしくね。ここにいたらまた怖い魔物が襲ってくるかもしれないし危ないから、私達と一緒に街まで帰ろっか。」

「はい、そうさせて下さい。よろしくお願いします。ストラーダさん。ルナーレさん。」

「俺はアランでいいよ。よろしくな、サクラ。」

「あっ、私のこともクロエでいいからね。」

「わかりました。アランさん、クロエさん。」


 俺は、今この世界の事をほぼ全て分かっていない。ならば、俺の正体を明かしてそれを信じてもらうより、この立場の利用した方が、何かと融通が効きそうだ。もし仮に、俺が逆の立場で同じ事を言ってきたとしても、信じるか怪しい。

 でも、女口調は使おうとするとこっ恥ずかしくてたまったものじゃない。

 でも、俺は年齢も低くなって、現に今この人らより年下なんだから、一人称だけ変えて、敬語使ってればいいだけまだ楽なほうか。年上に敬語使うのは、女だったとしても何もおかしくないし大丈夫だな。

 まぁ、心の中では親しみを込めて、アラン、クロエ呼び捨てにさせてもらおう。


 でも、やっぱり異世界でサクラって名前は無理があったか?でも、自分の名前を間違える人の方がよっぽどヤバい人だから押し通すしかないか。


 そんな事を考えているとアランから声がかかった。

「おーい、行くぞ。」

「はい!すぐ行きます。」

 俺はあの時に投げ捨てた短刀の鞘を拾って納刀し、急いで二人を追いかけた。

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