表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/24

3話 儚き体

 鞄の中身はこんな物か……とりあえずしばらくの間の住居と食事には困らなさそうなのが一番の収穫だったな。

 ならとりあえず、そこに向かうとするか。今の俺はあまりにも知らない事が多すぎる。

 ……でも、俺にはこの学校は一体何処に向かえばあるのかすらも分からない。

 住所とかは書類に書いてあったものの、俺はその住所を見ても、あ、ここかぁ。とは全くならず、まるで海外の地名を見ている気分になった。


 周りを見ても近くには、野原や森、山位しかないし、当然案内標識なんて親切な物は無い。

 どうするんだよ、これ。と途方に暮れていると何だか森の方からガサガサと言う音が聞こえてきた。

 なんだろう。人か?それと動物か?と気が惹かれる。人なら話が通じれば道を教えてもらえるかもしれない。動物なら、どんな種類かにはよるが草食系なら無害の可能性が高いけど、肉食ならどうにかして逃げきるか、俺でも倒せそうな程弱いなら戦うしかない。

 鬼が出るか蛇がでるか、覚悟を決めて俺はそっちを見る。


 しかしそれは俺の予想を裏切り、元の世界で生きて動いている所を一度も見たことの無い物だった。


 それは俺の背丈を優に超える大きさで、茶色のゴツゴツとした円柱状の物から上に上がるにつれて細くなり増えていく棒。そして棒には緑色をした楕円形の薄べったい物が大量についている。

逆に円柱の下部には、鞭の様にしなやかに伸びる触手にすら見える物が大量に生えている。


 俺が見たもの。それは木だった。だが、どう見てもただの木ではない。森から確実に出てきて触手の様な根を使い、確実に歩いてこちらに向かってきている。


 おいおい、嘘だろ……ファンタジー世界のお決まりといえば最初の敵はスライムとかゴブリンとか、まぁその他もあるが、基本はそう言ったものだと相場が決まっているはずじゃないのか?

 最初っからドラゴンと遭遇的なお決まりは御免蒙るが、だからといって何で木なんだよ!色々言ったが、正直今はどれにも遭遇したくない。

 が、それでも木はないだろうが!自分を追いかけて襲ってくる木なんてマジで怖い!

 それにデカい!俺が小さくなったって言うのもあるだろうが、元の俺でも対して変わらなく見える位デカい!10mは普通にあるんじゃないのか?


 なんて言ってる場合じゃない。とにかくこの体と短刀一口如きで敵う相手な訳がない。ならもう、逃げるしかない!森はこいつの同族とかがいて危険そうだから、とりあえず野原の広がる方に逃げるしかないか。そう思い、俺はバッグをサッと拾い、走り出した。


「くそ、しつ……こい!いい加減諦めてくれても……良いだろ!」

 ハァハァハァ……まだ5分位しか経ってないだろうにもう完全にバテてきた……滝のように流れてくる汗を拭いながらも、俺は今の自分の持てる全ての力で走り続けた。

 どうやら、あの木もそんなに足は速くないみたいだ。だが、速度がそこまで変わらない様だから、スタミナは幾らでもありそうだな。

 今はまだ何とか逃げられてはいるがこのままでは時間の問題だ。

 でも体力なさ過ぎだろ、この体……足がどんどん動かなくなってきた。最初にあったリードもどんどん詰められてきた。

 畜生!もっと動けよ、俺の足!止まったら間違いなく殺されるぞ!動けっ!

 そう思っていると体が軽く宙に浮いた。


「あっ……やば……」

 視界に地面に急速で接近してきてぶつかった。

 無理が祟ったのか俺の足が縺れて転んだのだ。

「いったぁ……」

 そう言ってもじっとしていられるわけでもない。


 だが、もう一度立とうとした時にはもう遅かった。

 俺の頭上が急に暗くなった。その後はもう逃げる暇もなく、すぐに捕まってしまった。

 どうやら俺は木の根を腹部に、絡みつかされたらしい。こうなればやけっぱちだ。

 俺はまだ手が使えるうちにバッグから短刀を引っ張り出した。鞘から刀身を出し、鞘を適当に投げ捨てた。


「離しやがれ!」

 俺は、そう叫び気合を入れ短刀を木に向かって思いっきり突き刺した。

 が、流石に相手は木だ。硬すぎてとてもじゃないが突き刺さらない。

「うう……離せって……言ってる……だろう……が!」

 俺は諦めずに同じところをめがけてそのまま何度も何度も刺突し続けた。

 硬いものに刺突し続けるなんて、刀に良くない使い方なのは考えなくても分かるが、今の俺にはこれしか方法はない。

 すると流石に少しづつではあるが、木にも傷がついているところが見えた。このまま足掻いてやる。


 が、そんな攻勢も簡単に終わりを迎えた。遂に木も無駄に抵抗し続ける俺に嫌気がさしたのか、俺の腕も縛られたからだ。

 俺は振りほどこうと足掻いたが、このか細い腕でいくら抵抗しても、木はビクともしない。

 締め付けられている部分がギリギリと痛い。この体なら腕も足も、胴体ですら簡単に折れそうなくらいか細いのに……


 こうやって縛られて抵抗する手段まで失うと、思考回路すら弱気になってくる。俺、この世界に来て、女の子になって何も出来ずに死んでいくのか…異世界死亡RTAなんて、全くやりたい訳無かったのにな……


 ああ、体がなんか凄く持ち上げられてる感じがする。縛られている感覚はあるものの、無理やり宙に浮かされる感じに近いかな。

 なんとなく下を見ると木の上部が綺麗に二つに裂けていて、そこに俺を放りこもうとしているように見える。あそこが口みたいな部位か。

 そこに入れられたらもう死ぬしか無さそうだな。俺の本能がそう感じている。


 どうせ死ぬんだったら、なんの意味も無いこんな犬死じゃなく、せめて何かのために死にたかったなぁ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ