14話 魔法炸裂?
昼食も終えて、俺達は訓練場に行く。訓練場はだだっ広く、特に周囲には何もないまさに更地と言うべき場所に的が幾つも置いてある。これなら周囲への配慮もばっちりだろう。
さて、ここからは遂に魔法を実際に使う実技の時間の始まり。
午前中に使い方を教えてもらった基礎的な魔法であるファイアボールを実際にやってみるという授業だ。
まずは、先生が皆の前でお手本を見せてくれる。
「火よ、我が元から現れ、狙いへ飛び行け!ファイアボール!」
先生が簡単な詠唱をすると、先生の前に火の玉が現れ、そのまま的に向かって飛んで行き、的が炎上した。
「おお……」
これが魔法。本当に何もないところから火の玉が出て飛んで行った。
前に、アランとクロエに助けられた時は魔法を見ている余裕がなかったから、魔法を見たのはこれが初めてだが、やっぱ感動する。俺も早くやってみたい。
「じゃあ、皆もやってみて。先生は万が一の事態に備えておくから、出来た人は出来ない人に教えてあげるように。」
「はい!」
皆が、気持ちの良い返事をすると、あちらこちらから詠唱が聞こえ、火の玉らしき物が現れ始めた。
ちゃんと火の玉になっている物から、ぐちゃぐちゃに崩壊した形の物まで色々出来上がっている。
綺麗な火の玉が出来ている子は、おそらく元々魔法の練習していたのだろうな。
よし、俺もやるか!
まずは、教科書に乗っていたイラストの火を想像し、それから俺が今まで見てきた火はどんな感じだったかをしっかり思い出しながら、目の前にその火が現れるように念じる。
すると、俺の目の前に綺麗な火が出現した。
「これが……魔法。」
俺にも遂に魔法が使えた。この世界に来て三日目で遂に念願の魔法が使えた。
「でも、なんかショボいな。これ……」
俺の目の前にあった火は、綺麗ではあるが、先生の見本よりも一回りどころか二回りも小さい、マッチ棒の火とチャッカマンの火の間ぐらいの大きさの火だった。
そして、そう思った事でイメージがあやふやになったのか、火が揺らぎ消えた。
何でこんな小さいのが出来たんだ……あ、詠唱忘れてたからか。
「火よ、我が元から現れ、狙いへ飛び行け!ファイアボール!」
そう思い、次は詠唱を魔法を使って見るも、さっきのよりもほんの少しは大きくなったが、その代わりによれよれに大きく揺らぐ火の玉が出来上がり、それが飛んで行こうと少し前に進むと消えた。
「うわっ、悪化した……」
一体何が悪かったんだ……まぁ、練習不足が一番大きい理由なのは当然だろう。
でも、何で詠唱したらより出来の悪い魔法が出来たんだ。こうなれば原因を考えるしかない。
まず最初。あれはおそらく俺の記憶がイメージの大部分を占めていたので、ライターやマッチの火のイメージ通り出来てしまったのだろう。
次に二回目。これは逆に詠唱がイメージの阻害をしたんじゃないか?
そもそも、この世界の魔法は想像力が全てだ。つまり、少しのイメージの乱れは致命的で、そのまま魔法の出来そのものの乱れとなってくるようだ。
一回目はただひたすら火を想像する事に専念していたが、二回目は詠唱の言葉を思い出すのにも頭を使っていた。それに他の人の詠唱と混ざった詠唱はこの状況では、寧ろただのノイズにしかならなかったんじゃないだろうか。
なら、火そのものを想像せずに、火が出来る状況そのものを想像してみようかな。小さくとも火が轟々と燃える状態なんて正確に想像するのは難しいのならば、火が出来る条件さえ整えてあげれば、後は火に任せればいい。
火を起こすには、燃焼の三要素である酸素、可燃物、点火源があればいいんだ。
こうなれば、後は実験あるのみ。
まず目の前に空気を排除した直径50cm程度の球体状の空気の壁で覆われた空間をイメージする。
次にその中に可燃物を……可燃物は個体や液体より気体の方がいいだろうか。酸素と混合させるんだし。なら、水素でいいか。
水素と酸素を2:1の割合で混ぜ入れて、火花を起こして点火すれば……
ドォォォォォン!!!!
俺の目の前で、爆発を起こした。魔素で作った空気の壁なんてあって無いような物で、さも当然のように俺も強い衝撃を感じる。
俺は思わず後ろによろめき、周りの人らが、何だ何だとか、キャーとか、すっげぇ爆発だとか、好き勝手にざわめき出す。
「今の爆発、サクラ!?って、え、大丈夫なの!?」
心配してくれたエレナまで駆け付けてくれるし、最早クラス全体が軽いパニックになってしまった。
「皆落ち着け、もう普通に練習をしているだけなら爆発は起こらん。気を取り直して練習に戻れ。それと、オリーヴェはちょっとこっちに来い。」
とりあえず先生の一喝で場は落ち着きを取り戻し、皆練習に戻った。
「ごめん、エレナ。先生に呼ばれたからちょっと行ってくる。」
「サクラが大丈夫なら良いんだけど……戻ってきたら説明してよね!」
「分かった。じゃ、また後でね。」
これは、説教の時間かなぁ……今から怒られるって分かっているのに、怖さよりも何というか懐かしさの方が大きいな。




