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10話 新たな出会い

 アランとクロエと別れて、寮の部屋また一人だけになった俺。

 二人がいなくなるだけで、なんだか急に静かに感じるようになったな。でも、初日にあんな親切な人達に会えて良かった。

 もしも、出会えてなければ間違いなく始業式からの参加は出来なかっただろう。


 そうやって感傷に浸りながらも、静かになった部屋だから故に聞こえる廊下の音で俺は実感させられた。この寮には当然、別の人もいるという事を。

 ヤバい。見つかったら晒し首とまではいかないが社会的にぶっ殺されるな、それも確実に。

 大人しく部屋に籠もっていよう。それが一番だ。他の女子にも悪いし。


 そう思うと俺は部屋で書類を読み込み始めた。ただ、それをしっかりと読もうとすると、ものの数行読んだだけで気持ち悪くなってきた。

「なんだ、この文字は……なんで今まで俺はこんな文字を普通に読んでたんだ……」

 それは、今まで見た事もない文字だった。正直こんなミミズがのたくった様な字まみれの書類を普通に読めていたのか分からない。でも、今となって俺の精神が落ち着くまでは、この世界に来たことに混乱していたのもあって、その事に全く気が付きもしなかったし、余裕もなかった。

 だが、今現在進行形で俺の頭の中に読み方と意味が勝手に思い浮かぶ。

 それこそ日本語を見た時と同じように感覚で。何だか意識はともかく、体がこの言葉を理解しているかのように。


「う、うげぇ……気持ち悪……」

 何だか俺の脳を誰かに無理やり弄られた様な感覚に陥る。もう、吐き気が凄い勢いで押し寄せてくる。

「うっ……もう無理……トイレ行こう…」

 今の言葉は日本語で言った。良かった、日本語を完全忘れた訳じゃなくて、意識すれば話せるみたいだ……


 トイレに着き次第、目についた最寄りの個室に入る。

「ゴホッ、ゴホッゴホッ、ゴホッ、カハッ!」

 苦くて酸っぱい味の物が喉の奥底から込み上がってくる。これ胃酸だ。そりゃそうか。俺この世界に来てから何一つ食べてないから吐ける物も胃酸しかない。

 ふぅ、それでも吐けるだけ吐いたらまだ少しは楽になった気がする。


「あの、そこの人大丈夫ですか?」

「え!?」

 トイレのドア越しとはいえ、急に話しかけられると流石に体がビクッとする程には驚いた。っていうか吐きそうになったせいでそこまで頭が回らなかったけど、女子寮のトイレだった、ここ……

「あ、いえ……大丈夫です。お気になさらず。」

 そう言って俺は、トイレの個室から水は流し外に出た。


「あっ。」

 そうして外に出ると、俺の方を見つめている人がいた。

 それは、透き通るような蒼い髪を後ろで一つに束ねたフワッとしたポニーテールと、ピコンと跳ねてる癖っ毛が特徴的な、髪と同じ色の眼をした、今の俺と同い年位の少女だった。

「あれ?初めて見る子だよね?どこの子なの?」

「えっ、えっと……明日からスペラルーチェ学園3年生に転入するサクラ・オリーヴェです。」

「え、そうなの!?本当なら明日会えるはずの子に今会えるなんて私、超ラッキー!それに同じ私と学年だし!っとと、まだ名乗ってなかったね。私はエレナ・ミラージ。よろしくね!」

 と、ニコニコと無垢な笑みを浮かべながら、俺に話しかけてきた。これまた凄い元気そうな子だなぁ。


 でも、学校で話せる子がいるのはいい事だ。

 俺みたいな特殊な例の人は、精神的に女の子と話し辛いし、肉体的に男の子と話し辛い。

 下手すると学園で永遠に孤立する事も、正直簡単に想像できただけに、ある意味救いだ。

「はい、よろしくお願いします。ミラージさん。」

「もう、同い年なんだから敬語は止してよ。なんだかむずむず痒くなってくるんだから!どうせならエレナって呼んでよ。私もあなたの事サクラって呼びたいし!」

 ここで敬語禁止令が出たか……正直、女言葉を使いこなせるとは思えないが、ボロは出したくない。

 それでも、やってやろうじゃないか、為せば成る!

「わかった、よろしくね。エレナ。」

「うん、よろしく!」

 女口調はやっぱり駄目だったけど、これくらいなら女でも違和感ないだろう、多分、きっと。流石にクロエみたいな話し方は全く出来そうとは思えないし。


「サクラってこの学園の事はどれだけ分かって

る?」

「多分……あんまり?学園から貰った書類を読んでたら気分が悪くなったから……」

「えぇ!それって大丈夫なの?しょうがない、なら私が教えてあげる!」

 それは正直助かる。学園の事は学園の人の方が間違いなくよく知っているし、それを直接聞けるのは情報収集の観点からしても良い。

「でも、いいの?」

「うん!皆今夕御飯を食べに行ってるのに、サクラは行ってないから知らないのか、しんどくて行けないのか、どっちだったとしても心配だよ?」

 実際は、俺よりも小さい子に心配かけさせてたのか。なんだか悪い事したな。


「心配かけてごめんね。私はもう大丈夫だから一緒にご飯食べに行こう?」

「サクラが元気なら良かったよ!なら、私もお腹空いたし、行こう行こう!食堂はこっちだよ。」

 そして俺は、エレナと一緒に食堂へ向かう。今日は、アラン、クロエにエレナにも色々助けられっぱなしだ。

 幾ら精神的に年上でも、何も知らない場所に来たら、何も分からないひよっ子と同じなんだ。

 今の俺に出来る事は、しっかり学んでいく事だ。俺も頑張らないと!

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