プロローグ 夢と庭園
綺麗な庭園。静かで爽やかな風の音、咲き誇る色とりどりの花々、雲一つない澄み切った蒼い空。そして目の前に女性がいる。
今まで生きてきて一度も見たことが無い程の綺麗な人だ。でも、どこか近寄りがたい雰囲気というか、謎の多そうな感じが漂っている。そして、どこか高級で汚れのなさそうな衣服を身に着けている金髪の女性。
俺は当然その人は初めて見た。
ああ、これは夢か。そうだな、そうに違いない。確かこの訳のわからない場所に来る前に俺はベッドに入って眠ったはずだ。別に断じて、ああ、俺死んだのかな?なんて感じで眠ったはずは無かった。
でも、久しぶりに夢の中でこれが夢だと認識出来たな。かなり珍しい事だけれど、今までも気づいた事は何度かはあったし、なくはない事だ。それでも、この感覚は一体何時ぶりだろう?等と思っていると目の前の女性が話し始める。
「はじめまして、私はフィル。単刀直入に申します。貴方にお願いがあります。とある世界を救ってほしいのです。」
「え、あ、はぁ……」
なんだろう、この人。夢は記憶の整理整頓と言うくらいだから、最近やったゲームの記憶のだろうか?うーん、そんな感じのゲームやったかなぁ?それとも小説かな?いや、漫画か?駄目だ、いまいち思い出せないな。
折角だし、どんなゲームか小説かだったかを思い出したいし、夢とはいえ人にあまり不躾な態度をとるのもどうかと思うし、少し話を聞いてみるのも悪くないか。
「えっと、その世界はどういう世界なの?」
「剣術や魔法技術が主流である世界。あなた達の世界で言うファンタジー世界です。今、この世界では十年後に世界を揺るがす大戦が起ころうとしています。それも、このままではこの世界の未来は、最終戦争となってしまい滅びを迎えるだろうと予見されています。理由はあなた達の世界でいう核戦争のような事になり、生命は死に絶えます。わかりましたか?」
「あ、うん。とりあえずは。」
えらい唐突に一気に色々教えてくれたな……ファンタジー系のゲームならやった事はあるけど。他にも戦争系のアニメとかゲームも見たりやった事はあるからそれらが色々混ざっているのか?
「わかっていただけたなら、では早速そちらの世界に送らせて頂きます。」
「わー!待って待って待って!」
「? まだ何かあるのでしょうか?」
落ち着いた雰囲気してる割に、打って変わって行動力あり過ぎだろこの人。なんだか夢だって事を忘れて、完全にこの人のペースに乗せられる所だった……まぁ、夢なら楽しい方がいいから、もう少し話をするくらいならまぁいいか。
「でも、俺一人を送ってその世界の何が変わるんだ?そもそも、その世界で俺は何をすればいいんだ?」
「大戦をそもそも始まらないようにしていただいても、どちらかに加勢して最終戦争になる前に決着をつけていただいても、両国を和平させていただいても、第三軍として戦争を止めていただいても、全く別の方法でも、世界の破滅さえ防いでいたたければ結構です。わかっていただけたなら、早く送りたいのですが……」
ひょっとして、この人馬鹿なのか?普遍的な一市民の俺が戦争をどうにか出来るとでも思っているのか?
とりあえずこれは流石に無理だな。俺はただの大学生。軍人でもなければ、ネゴシエーターでもないし、はたまたどこかの少年兵だったという過去がある訳でもない。これは丁重にお断りしよう。
「いや、流石に俺には無理です。なんの能力もない学生に戦争を止めろなんて言われてもどうしようもない。そもそも魔法のある世界に行って、魔法も使えない俺がどうにかできるわけ無いでしょう。原始人が第二次世界大戦を止めろって言ってるのと何ら変わりませんよ。それに俺が、その世界を救っても俺には何もないじゃないか。」
「そこは心配いただかなくても、そちらの世界に行くなら、私が貴方にも魔法を使えるようにしておきます。それにそちらの世界で必要になるであろう、最低限の物は渡しておきます。後、無事達成さえしていただいてれば、私に出来る事なら何でも一つ願いを叶えます。」
え、俺が魔法使えるようになるの?それは凄く興味をそそられるな。それにすっかり忘れていたけど、よくよく考えればこれは夢なんだし、ちょっと位安請け合いしても、目が覚めればすぐに元通りなんだよな……報酬に関してはどうせ覚めたら忘れる上、結局夢の中のものだしどうでもいいんだけど。
……まぁ、夢なんだから深く考えることでもなく、現実ではまずありえないそういった体験が出来るんなら…やっちゃってもいい……感じ?夢なら別に責任も何もないし、楽しんじゃえばいいよね。
「……本当に俺が魔法を使えるようになるんですね?なら、わかりました。俺に出来るところまではやってみます。」
「ありがとうございます。魔法を使える体にしておくのでそこは信用していただいても大丈夫です。では、送らせていただきます。無事世界の滅びを止めていただければ、お迎えに上がりますので。」
その言葉を聞いて、俺の意識はどんどん薄れ、遠ざかっていった。
……あれ、夢なのに、こんな意識が遠ざかっていく感覚になるものなのか?大丈夫だよ……な?あぁ、もう意識が……




