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瀬戸内少年鵺弓譚  作者: 暗光
海坊主
51/90

さくら貝

※ 一ヶ月ぶりの投稿となってしまいました。

  そのせいかかなり長めとなっております。

  読み専やってたら楽だし面白いしやめられんかった。




瀬戸内海に浮かぶ奥城島の沖合、午前五時半過ぎ。


真っ暗な闇が夜明けに追いやられて白々とした朝靄の彼方へと消えていく。同時に鉛を呑んだような暗灰色の海が薄い緑色を帯びた深青色に色合いを変え始める。

まだ海鳥達すら目覚めていないこの時刻に一艘の舟が波間をゆらゆらと漂いながら進んでいた。


それは全長約六メートル程のFRP製の船体に船外機を備えた小型の漁船だった。

操縦者はまるで何かに憑りつかれたかのようにぼんやりと船の舳先だけを見詰めながら時折、ラダーを切るだけでほとんど身動きらしいものをしなかった。



『 ・・・聞こえる。 誰か・・誰かが・・・儂を呼んどる。

これは・・こら、この声は? ・・あの子じゃが・・あの子に間違いないが!


何処じゃ? 何処におるんぞ?

すぐに・・・直ぐに行くけんの! 待っとれよ!』



船外機がヒュゥゥーンと烈しく風が哭く様な音を立てた。軽油や重油を燃料とする内燃機関のそれとは違った駆動音であった。おそらくエレキモーターとバッテリーで動く電動船外機なのだろう。


魚船の後部が一瞬だけ海面にグッと沈む。その直後、船は白波を蹴立てて蒼黒い海面に漂う朝靄の中へと消えて行った。




― ― ― ― ― ― ― ― ―




海沿いに広がる白い砂浜に小振りの雨が降っていた。普段は数えるほどの人すらいない島の海岸線に今は百人近い人数の集団が群れるように歩いている。


それはゴム製の長靴ブーツとナイロン製の雨合羽レインコートを着込んだ大人と子供達だった。

その内訳を大雑把に言えば三分の一が大人、もう三分の一は中学生と高学年の小学生、残りの三分の一は低学年の小学生以下からなる子供達といった具合である。


火ばさみ(トング)やゴミ袋を手に持ってワイワイ、ガヤガヤと騒ぎながら海岸をうろつく集団の後を一人の少女が歩いていた。少女はターコイズブルーのジャージの上下を着てその上から半透明の乳白色のレインコートを羽織っている。


雨に濡れて額に張り付いたベリーショートの前髪が少年のような凛々しさを彼女に与えていた。制服ジャージと使い捨てレインコートという無粋な組み合わせにもかかわらずハッとするような美しさを持ったその少女は田尾 志津果であった。


志津果は波打ち際に転がる空き缶や木切れ、ビニール袋等を拾うとそれをゴミ袋に入れていく。

午前十時半頃から始まった今回の海岸掃除は本土の鷹松市にある某NPO組織が主催して行っているものだった。


本来なら夏の海水浴シーズンが終わった八月下旬に実施される予定であったのだが例の七十年前の幼女行方不明事件の再燃によって今日まで延期となってしまっていた。

この海岸掃除には城山小学校の六年生をはじめとする全生徒が参加していた。


彼女は海岸に打ち上げられた雑多なゴミを振り分けて拾いながら時折、前を行く人の群れの一部を見ていた。

彼女の視線の先には中学生か高学年の小学生であろうと思われる女子の集団があった。


現在、日本における一般的な兆候として人が集まれば女性の比率は男性のそれに比べて二倍から三倍になる。集団が構成される理由、動機如何では五倍、十倍となることもそう珍しくはない。


この海岸掃除に付いて言えば男性は運営スタッフに含まれる地元の大学生数人と本土から参加した中学生と小学生を合わせて十名ほど、そして城山小学校の男子生徒が十三名であった。

子供たちの保護者は全て女性であったから総人数約百名の内、四分の一が男、残りの四分の三は女ということになる。


そのせいかパッと周りを見渡しても目に付くのは女子、又は大人の女性ばかりである。しかし志津果が見詰める女子の集団の中には一人だけ中学一年生ぐらいに見える男子らしき姿があった。


彼女と同じくターコイズブルーのジャージのうえから使い捨てレインコートを纏ったその少年は雨に濡れた艶やかな黒髪を白く繊細な指で無造作に掻き上げている。


すらりとした華奢な体つきとショートボブに近い髪型が相俟って一瞬、女の子かと錯覚しそうになるほど綺麗な顔立ちをした少年であった。

もう少し背が低ければ周りの女子達に埋もれて誰も男の子とは気が付かないかもしれない。


少年を取り巻くように並んで歩く女子達はキャアキャアと声を立てて騒ぎながら彼に次々と話し掛けていた。

その状況に戸惑ったような笑みと表情を浮かべながら必死に返答しているその少年は水上 玄狼だった。


そんな玄狼の様子を視ながら後ろを歩いている志津果の眼が時折、鋭く細められる。



「お気に入りのお供を取られて姫さんはどうやらご機嫌斜めのご様子やな。」



ひょっこりと斜め後ろから顔を出した亜香梨が彼女にそう囁いた。



「な、何よ、いきなり・・玄狼やかし(玄狼なんか)お気に入りとか違うしうち、そんなん関係ないし!」


「えー、そうなん? 何か虎でも射殺いころせそうな眼付でメッチャ睨んどったような気がしたけんどなぁ・・・うちの気のせい?


ところで玄狼君、なんかこの頃、背ェ伸びた思わへん? この間までうち等よりちょっと高いかな言うぐらいやったのにいつの間にか賢太や浦島さんとそう変わらんぐらいになっとるように見えるんやけど・・・」



言われてみれば確かにそんな気もしないではない。六年生になった頃はまだ少し自分の方が高かったような気がしたのに今では完全に玄狼の目線の方が上にあった。


だから何かの拍子に彼の傍に近寄ったりすると見上げるようなその感覚に思わず新鮮な逞しさのような物を感じる事がある。

それは言い得て妙であるが心地良い威圧感とでも呼ぶべき感覚だった。



「うちら毎日、一緒におるから空気みたいになってしもて気が付かんかったけんどように見たらそらあのお姉ちゃん等がああなるんも無理ないかもわからんわ。


スタイル良うて女の子みたいに綺麗な顔しとって人当たりも柔らこて・・その上、背までたこなって男の子らしさも増してきたとなったら・・・

そなな男子は本土の方にもよけはおらん(たくさんはいない)やろしな。」


「そ、そなんこともないやろ。単に同じ年代の男子が少ないきんちゃう?

ほら、賢太や団児やったって囲まれとるやん。」



志津果の指差す先には女子小学生の集団の中に立ってゴミ拾いをする二人の男子の姿が見えた。只、玄狼と違うのは彼らの周りを取り囲んで騒いでいるのが低学年の小学生と就学前の幼児達が殆どであるという点であった。



「あー、まぁ確かに人気者にはなっとるみたいやけどな、あら全然、意味が違うわ。その証拠に周りにおるんは子供ばっかりやがな。


賢太と団児の周りにおる女子は、言うたら動物園のふれあいコーナーとかで牛とか豚に跨らせてもらって喜こんどるみたいな感覚なんやろな。


ほんで玄狼君に対する女子達の態度は間違いなく推しのアイドルに対するファンクラブの会員のそれやん。

やっぱり ”人は見た目が八割” 言うんは真実を突いた名言ちゅう事なんかな。」


「・・・・牛と豚て・・それもう人と違うやん。」



ワイワイガヤガヤとさざめきながら人並みは砂浜沿いに進んでいく。掃除が始まってから既に四十分程が過ぎていた。もう二十分もすれば掃除は終了となる。


次に集めたごみを仕分けして分類する。分類したごみの集計が終われば結果について主催者側からの報告が行われる。そしたらそこで昼食を摂った後、解散となる予定であった。


志津果はその時、海岸掃除の集団が進むのとは反対側の方向から一つの影がやって来るのに気付いた。

それは引き潮によって波打ち際と漂着ゴミとの間に空いた幅数メートルほどの砂浜をゆっくりと歩いてくる。


海岸掃除の参加者達は砂浜に帯状に伸びた漂着ゴミを挟むように歩きながらそれを拾って行く。その影は志津果の前を行く人達より更に渚に近い濡れた砂地を歩きながら彼女のすぐそばを通り過ぎようとしていた。


志津果はあからさまにならぬように気を配りながらチラリとその人物を見た。それは真っ白な蓬髪を無造作に纏めて後ろで結わえた大柄な老人だった。年齢はおそらく七十歳半ばを越えているだろう。

島の漁師だろうか、年齢に似合わぬがっしりとした体つきの老人だった。


黒い長袖のトレーナーの上からキャメル色のフィッシングベストを着て紺青色の作業ズボンを穿いている。

打ち寄せる波が老人の履いたモスグリーンの長靴の足跡を追いかけるようにゆっくりと消していく。


志津果が老人に目を向けた時、偶然であるかのように向こうも彼女を見た。およそ意志という物が感じられないどんよりとした視線が彼女を捉えた。

志津果は以前、これとよく似た視線を何処かで視た事のある気がした。


老人はのろのろと視線を前に戻すとそのまま反対方向へと去っていった。



「オン爺・・・」



去っていく老人の背中を見詰めながら亜香梨が不意にそう呟いた。



「知っとる人?」



志津果は亜香梨に訊ねた。彼女はコクリと頷くと話し始めた。



「あれはウチの近所の人で網田 音次(あみた おとつぐ)さんていう人なんやけどな。音次を音読みしたらオンジになるやろ。

やきん(だから)若い頃からオンジって呼ばれとって年取ってからはそのままオン爺 って呼ばれとんやけど・・・不運な人でな。


昔、小学生の孫をよう魚船に乗せて海に出たりしとったらしいんやけどある日、プレジャーボートらしき船と衝突して船は転覆、七歳やった孫は溺れて死んでしもてな。それからもう十年以上になるんやけどぶつけた方は逃げてしもてそのままわからんこや。


その事件のせいで息子夫婦は島から出ていってしもて奥さんが一昨年無くなってからは一人暮らしになっとるわ。」


「・・・今も漁師で生活しとん?」


「いや、今はもう引退して年金だけで生活しとるんやないかな。

船もほったらかしやしエンジンも錆びついて動かんのちゃう?


それに最近、ちょっとボケ掛けてきとるらしてな。ホラ、認知症いうやつ?

年寄りが一人暮らししとったらそうなることが多いんやて。

ほんだきんか(そうだからか)知らんけど時々、ああやってぶらぶら歩いとることがあるんよ。


ほんでそれがボケ老人の徘徊になって行方不明になってしもたらヤバいやん。

この島には民生委員なんて居らへんし自治会の皆で様子を見守るしかないきんな。

ウチの母さんも偶に様子を見に行ったりしとるわ。」



亜香梨の話を聞いて志津果は先程の老人の視線に対する既視感の原因に気付いた。


あれは父母と一緒に本土の老人介護施設に入居している父方の祖父に会いに行った時の事だ。

アルツハイマー性の認知症が進行した祖父は志津果の事が誰だか分かっていない様子だった。その時の自分を見る祖父の眼差しによく似ていたのだ。


それは己の眼に映る世界の全てに対して訝しさと脅えを覚えている瞳であった。彼女は祖父のその眼に哀れさと微かな嫌悪感を抱いたことを思い出した。



「オン爺、何処に行っきょんやろか・・・・?」



亜香梨がそう呟いた。志津果は既に小さくなりつつある老人の後ろ姿に何故か申し訳の無さのような気持ちを感じていた。




― ― ― ― ― ― ― ― ―




一方、志津果や亜香梨達とは別にもう一人、オン爺こと網田 音次の後ろ姿をじっと見ている者がいた。


話しかけて来る女子中学生達に対しうわの空で「ああ、はい」とか「ええ、そうです」とか適当な返事をしながら去っていく老人の背中をちらちらと振り返っているその人物は玄狼だった。


彼が注意を引かれたのは老人ではなくその右手の波打ち際から数メートル程、海に入った波の上に浮かぶ ”見えない大きな塊” であった。

ぶよぶよとしたそれは平たく長丸い形状をしていた。そして時折、背びれや胸びれのようなものを出したり引っ込めたりしながら老人の後を追う様に砂浜に沿って海面を進んでいた。


波はまるでその物体を素通りするかのように通り抜けていく。色もなく音もたてず物理的実体すら持っていないかのようなそれは玄狼以外の念視能を持たない人間から見れば存在していないのと同じであろう。


今日は佳純と郷子が海岸掃除に参加していない。意識を集中しない自然体の状態で念を可視できるのは玄狼以外にはその二人だけである。

ところが偶然にもその二人ともが体調やら家庭の用事やらで来ていなかった。


玄狼自身も最初は目の錯覚かと疑ったがそうではなかった。念体としてではあるが確実にそれは存在していた。クラゲのように見えなくもないが余りに大きすぎる。

少なくとも三、四メートルはあるだろう。


だが特に危険な悪意のような物は感じられない。時折、波の上で体をくゆらせて老人の気を引こうとするかのような様は散歩の途中で道に寝転ぶ大型犬を思わせた。


『あれは何かの動物の念骸だろうか?

としたらおそらく海に住む動物だろうが瀬戸内海には小型のイルカのスナメリぐらいしかいないけど・・・

でもあんなに大きいのは海洋哺乳類ではゾウアザラシかセイウチ、トドぐらい?

どれも瀬戸内海どころか日本の近海にはいないよな。


まぁ念体だから大きさはあてにはならんけど・・・何であの爺さんに憑いているんだろうか?』


あれこれと推察する玄狼の耳元で突然、黄色い声が響いた。



「なぁ、水上君。聞っきょる?(聞いている?)」



驚いた彼は慌てて闇雲に返事を返した。



「エッ、あ、は、ハイ! 聞いてます!」



そこには上目遣いで彼を睨む女子の姿があった。白い細面の顔に同じく細い吊り上がり気味の眼、つんととがった高い鼻と上下の薄い唇が合わさった大きめの口、濡れ羽色とでもいうべき漆黒の黒髪を長く伸ばして一本の三つ編みにしている。


どことなく狐を思わせる顔立ちと細身のしなやかな体つきがエキセントリックな魅力を持った少女だった。

福田 安里紗(ふくだありさ)という名のその少女は本土の鷹松市にある松島中学の一年生であるらしい。


今日はクラス担任の女性教師が希望者を募ってこの海岸掃除に参加したとのことだった。どうやらこうした社会奉仕のボランティア活動に参加すれば高校進学の際に内申点に加算される制度があるらしくそれを狙って参加した生徒が多いと言っていた。


玄狼の周りにいる女子達はみな同じクラスの仲良しグループで彼女はその中でのリーダー格のようであった。



「ほんま? なんかしゃん(なんか知らん)さっきから後ろの方ばっかり見てうわの空みたいな気がするけんど・・・」



そう言って安里紗は後ろを見るとハハァーンという表情になった。



「あの二人のうちのどっちかが水上君の好きな娘と言うわけやな。二人とも可愛らしいやん。特にあの髪の短い娘の方はごっつ綺麗な娘やな。

ほんでどっちが本命なん?」


「はぁ? いや、どっちもそななんとちゃいますよ。二人とも只の同級生やし。」


「その割にはさっきから随分と気にしとるやん。」


「イ、イヤ、それはあの二人の事を見とるんとは違うんで・・・」



二人の会話を聞きつけた他の女子達もそばにやってきて訊ねる。



「来年は水上君もうちらの中学に来るんやろ?」


「え、まぁ、多分・・・そうなると思うけど。」


「奥城島から通う子は皆、松島中学に来ることになっとるけんな。同級生にも何人かおるわ。」


「その子らが言うとったんよ。来年の新入生にはメッチャ綺麗なイケメンの男子がおるって。」


「へっ・・そうなんですか? 誰やろ、そなん事言うたんは?」


「そう。そやきん、今日の海岸掃除には参加しとる筈やって聞いて我意がいに(すごく)楽しみにしとったんよ。」


「うん、最初に城山小学校の生徒が前に並んで挨拶があったやろ。あんとき一発でわかったわ。ああ、この子がそやなって!」


「うちも! あれはちょっとした感動やったわ。」


「は、はぁ・・・・・・」



ワイワイとかまびすしく声を上げながら彼女達のおしゃべりはその後もしばらく続いた。玄狼は年上の少女達に揶揄われながらもゴミ拾いにいそしんだ。

面映ゆしくはあったが同世代の異性に好感を示されて悪い気はしなかった。


やがて終了の時間が来て昼食の後、解散となった。

フェリー乗り場へと向かう少女達は口々に玄狼に別れの挨拶をした。

最後に安里紗が近づいてきて彼に言った。



「来年、入学したら学校の事色々教えてあげるきん。部活の事とか先生の事とかなんでも訊いてな。楽しみに待っとるわ・・・ほしたらまたな、バイバーイ。」



ほっそりとした白いうなじを傾けながら目尻の上がった細い眼を器用に片目だけ閉じてウインクすると白く華奢な手を大きく振って彼女は去っていった。

彼より一つだけ年上に過ぎないくせに思わずゾクリとするような大人びた仕草が様になっていた。



「何か白狐みたいな感じの先輩やったな。ちょっと・・・ドキッとしてしもた。」



そう独り言ちながら玄狼はくるりと踵を返した。少し離れた砂浜の上には昼食を終えた城山小学校の生徒達が帰りの準備の為に集まり始めていた。

そこへ向かって足を踏み出そうとした時、何か薄桃色の桜の花びらのようなものが砂地の上にあるのを見つけた。


手に取って見るとそれは袷になった二枚の貝殻であった。透き通るような撫子色ベビーピンクをしたそれは丁寧にマニキュアを施された女性の爪のようにも見えた。

玄狼はそれをそっとジャージのズボンの後ろポケットに入れると皆のいる場所に向かって歩き出した。




― ― ― ― ― ― ― ― ―




志津果は戸惑っていた。嬉しいような悔しいような表現のしようがない気持ちが胸の中に渦巻いている。

そっと左手を開いて手の平の中にあるそれを見た。先程からの不可解な感情はそれが原因だった。


亜香梨がそれを横から覗き込む。そして悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。



「それにしてもこら意外な展開やったな。ほんでもこれで時化になりかけとった姫の機嫌が一挙に秋晴れになったのはええこっちゃ。

ほんまラッキーやがな。ゴミ拾いに来て宝もん手に入れたやん。」


「や、やかましな、亜香梨! 

ウチは元々機嫌も悪ないしこなん物で良くなったりせえへんわ。何、見当違いなこと言うとん!」


「え、ほんならそれウチに呉れる? ウチそういうの結構、好っきゃし。」


「えっ、イ、イヤ・・それは駄目なん違う・・かな? 一応、ウチに呉れたもんやし・・・」





亜香梨のいう宝もんとは桜色をした二枚袷の貝殻だった。実は先程、玄狼が志津果のそばにやって来たかと思うと



「これ、さっきそこで拾ったんやけど志津果にやるわ。ピンクの貝殻やら男が持っといても似合わんし。」



そう言ってそれを彼女の手に押し付けて行ったのである。

少し離れた場所からそれを見ていた亜香梨がツツ―と近寄って来ると志津果の手の中に残されたその貝を覗き込んで言った。



「それ、さくら貝やん。男女がペアで持っとると将来結ばれるとかいう言い伝えがあるやつやない。

それを志津果に呉れたという事は・・・ついにビッグカップル誕生ゆう事!?」



亜香梨にそう指摘されて彼女は心臓の鼓動がグンッと早くなったのを感じた。


『い、いや、あいつがそなんロマンチックな仕業やら出来る筈ないわ。多分、何気なく拾てみたものの興味がないからウチにくれただけの話ちがうんかな?

きっとそうやわ・・・・それだけの事やわ。


・・・ほんでもそれやったら後で佳純ちゃんや郷子に渡してもええわけか? 

亜香梨やったって居るわけやし。

え! ほんだら何? これひょっとしてウチに対する・・・エッ、ホンマに?

いや、そんなわけ・・・エェーーーー、もぉ、どっちなん! 』


そして現在、志津果は悶々とした精神状態になっているというわけだった。


その桜の花びらのような小さな貝が近い将来二人の関係に大きな変化をもたらすことをまだ誰も知らなかった。



※ 次回の投稿は未定です。一応、話の大きな設定は

  見えてきましたので今回ほどは長く空かないとは思います・・・が


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