フェリー港にて
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この作品はフィクションです。実在の人物や地名、団体などとは関係ありません。
「ところで君のお母さん、水上 理子さんはお元気かな?
そして・・・君のお父さんは何をしておられる方なんだい?」
郷子の父親の言葉は玄狼に二つの感情を同時に引き起こさせた。
一つはこの人は何故、母の名前を知っているのだろう? という好奇心。
もう一つはどうして自分の父親のことを訊くのだろう? という警戒心。
玄狼にしてみれば初対面のこの人物と状況に対してあまりに判断の基準がなかったのである。そこで彼は浦島秀次郎の問いかけに同じく問いかけで応えた。
「母を知っているのですか?」
男は柔和そうな笑顔を浮かべた顔で彼に言った。
「ああ、知っているとも。小さい頃からよく知っている人さ。僕の父と理子さんの母は姉弟なんだ。つまり彼女達は僕等の従妹ということになる。」
「彼女達? 僕達?」
「ん? ひょっとして君は何も知らないのかな? 僕には優一郎という一つ違いの兄がいて理子さんには真子さんという双子の姉がいるんだが・・・聞いたことはないかい?」
「いえ・・初めて聞きました。」
「え! 本当に? じゃ、僕の兄と彼女の姉が夫婦であることも勿論知らないだろうね。」
「はい・・・知りません。」
「はぁー・・・驚いたな。お父さんやお母さんは君に親戚や家系のことを何も話してくれなかったのかい?」
「僕は父に一度も会ったことがありません。母の身内についてもそうです。僕の家族は今まで母だけでした。」
玄狼の返事を聞くと郷子の父は何とも言えぬ表情になって黙り込んでしまった。暫くして彼は気まずい様子で口を開いた。
「君はうちの娘から僕達親子が巫無神流神道の関係者であることを聞いていた筈だね。その話をお母さんにはしたんだろう?」
「ええ、話しました。」
「転入生の名字が浦島であるということも?」
「はい、確か話したと思います。」
「それで・・理子さんは何も言わなかったのかい?」
玄狼は郷子の親が夜鵺会の関係者で名字が浦島であると聞いた時の母の奇妙な反応を思い出した。あの時の母は身内に蠢く剣呑な何かを抑え込もうとしているかのように見えた。
だが果たしてそれをこの人に話していいものだろうか? 彼は少し迷った後で、感じたままを話すことにした。
母の従兄弟だというこの人物がそれ程、危険な人物には思えなかったからだった。
「特に何も・・・ただ、ちょっといつもとは違ったような気がしました。何が違うんかまでは分からんかったけんど。」
秀次郎は「そうか・・」と小さく呟くと苦々しそうな表情を見せた。
「これは少しばかり余計な事を言ってしまったかもしれないな。まさか自身の子にさえ何も明かしていないとは思わなかった・・・・・迂闊だったよ。
だが一旦、口に出してしまったことはもう仕方がないさ。
興味があるなら君自身がお母さんに聞いてみると良い。ただちょっとやばいかな、これは・・・
虎の仔を愛でようとしてうっかり寝ている親虎の尻尾を踏んじまったってところか。」
彼は軽く自嘲じみた笑い声をあげると玄狼に言った。
「君とゆっくり話をしてみたいが今日のところはそういうわけにもいかないようだな。僕はどうやらお友達に警戒されているらしい。
そういうわけで今日はこれで失礼するよ。また今度、ゆっくり話をしよう。
ああ、だから結論から言うと君と郷子はイトコの子供同士、つまりハトコと呼ばれる関係になる。
僅かながら血の繋がりがあるわけだ。ぜひ仲良くしてやってくれたまえ。では!」
郷子の父が軽く手を挙げて車に向かった直ぐ後に、いつの間にか傍に来ていた郷子が玄狼に身を寄せてそっと囁いた。
「どうだった? 私のお父さんは? 優しい人でしょ。」
「ちょっと話しただけだからな。あんまりよくわかんないけど・・・
まぁ、悪い人じゃないって気はするかな。」
「ほんと? 良かった! いきなり玄狼さんのところに行っちゃったからちょっと心配しちゃった。
でもお父さんも貴方のこと、気に入ったみたいだし今後も上手くやっていけそうで安心したわ。
あ、お父さん待ってるからもう行くね。それじゃまた、明日。」
郷子はそれだけ言うと彼女の父が待つ車に向かって駆けていった。その際、彼女が玄狼の背後にちらりと視線を向けて意味ありげな笑みを投げかけたことを彼は気づかなかった。
『今後も何も、郷子の親父さんと会うことなんかそうはないだろう?
何言ってんだか?
だけど俺に伯母さんがいたとは初めて聞いたぞ。
おまけに郷子の伯父さんと結婚しているだなんて・・・どうして母さんは何にも言ってくれなかったんだろうな? なんか不味いことでもあったんだろうか?
さて問題はこの事を母さんに訊いていいものかどうかだよなぁ・・・
あの精悍そうな郷子の父さんでさえなんか脅えてた気がしたし。
下手につついたらやばいかも?
まぁそれより何より俺と郷子が同じ親族の一員同士だっただなんて意外過ぎて現実感が無いや。
ああ、そうか! 今後も上手くやるってその事か。一応、親戚になるもんな。
じゃ俺の伯母さんと郷子の伯父さんって人の間にも子供はいるのかな?
もしいたとしたらイトコでもあるし・・ハトコとも言えるな。
どっちになるんだろ? ややこしいぞ。
出来たら、あんな腹黒女や狂暴女じゃない淑やかで優しいお姉さんだったら最高なんだけどなぁ。
俺の頭を優しく抱え寄せて胸の谷間に埋めてくれたりし・・アギャアァァッ!!』
薄桃色の願望に浸りかけた玄狼の尻に激甚な衝撃が炸裂した。叩きつけられたカエルの如く地面にへばりついた彼の横を少年のような堅さを残した小麦色の少女の足がすたすたと通り過ぎていった。
やや短めの制服スカートが無造作に揺れて跳ねる。その裾の下から中性的な青々しいエロティシズムを発散している足の主は志津果だった。
彼女は突然、臀部を襲った強烈な痛みに呻吟する玄狼の姿を一顧だにすることなく離れて行った。
遠ざかるその白い制服ブラウスの背中を見たとき彼は己の尻が四つに割れたかのような苦痛の原因が彼女の蹴撃によるものであったことを悟った。
彼は下半身の痛みに耐えてどうにか四つん這いの姿勢を取った。ぐっと奥歯を噛みしめて彼女の後姿を睨んでいると誰かが彼の腋の下に手を差し入れて上半身をゆっくりと抱き起してくれた。
温かく柔らかい手だった。思わず彼が肩越しに仰ぎ見るとそこには亜香梨の白く丸い顔とクリっとした愛らしい眼があった。彼女は申し訳なさそうな口調で彼に言った。
「ごめんな、玄狼君。志津果のしたことを許してやってな。あの子、真っ直ぐすぎて不器用やけん、こなん事するんや。」
「イ・・ヤ、許し・・てっく・れ言わ・・れてもッ・・なぁ。
なんぼ・・何でも滅茶苦茶っ・・過ぎるやろ。 フゥー、おぉ、痛ッ・・・・・・
マハトマ・ガンジーで・・もッ・・切れて暴れるレベルの仕打ちや思うぞ。
俺なんぞあいつに悪いことしたか?」
「ううん、玄狼君はいっちょも悪ない、悪ないんやけどな・・・志津果の気持ちもわかるんよな。
なぁ、玄狼君。なんで志津果があんたの後ろに来とったかわかる?」
「えっ、そら・・こないだの喧嘩の腹いせに俺のケツを蹴っ飛ばすためやろ。実際そうしよったわけやし。」
「やっぱり喧嘩しとったんやんか。なんちゃ無かった言うとったくせに・・・
ま、それは置いといてあの娘が玄狼君の後ろにおったんはそうとちゃうけん。
もしなんかあったら浦島さんのお父さんからあんたを護るつもりやったきんやと思うで。」
「護る? 俺を? あの強そげな親父さんからか? ようわからんな。
どして志津果がそなんことするんや?」
「どしてかは自分でゆっくり考えてつか。(考えて頂戴。)
何かを護りたいっちゅう時はどんな場合か考えてみたらええと思うよ。
それでもわからんのやったらそらまあ仕方ないけど・・・
ほんだけんどあの娘がそうしようとしとったいう事は忘っせんとって。」
亜香梨はそれだけ言って少し離れたところにいる高田先生達のところへ帰っていった。
その時、玄狼は浦島秀次郎が話の最後に ”僕はどうやらお友達に警戒されているらしい” と言った事を思い出した。
その時は何のことかよくわからないままだったがあれはひょっとして自分の後ろに居た志津果に向けた言葉だったのだろうか?
であれば亜香梨の言うこともあながち嘘ではないのかもしれない。だが一旦護ろうとしたものを今度は地面に這いつくばるほどに蹴り抜く理由とはいったい何なのだ?
「ウーム、分かったようでよう分からんな・・・」
彼はそう呟くと生まれたての仔馬のようによろよろと立ち上がった。
そして未だズキズキと疼く尻を両手で擦りながらみんなのいる所へノロノロと歩いて行った。
― ― ― ― ― ― ― ― ―
グォーン、グォーンと響く排気ブレーキの重低音とともにバスが減速した。軽い慣性Gによって体が前のめりに傾く。
昨日の出来事の回想に捕らわれていた玄狼は慌てて窓の外を見た。そこには県念能総合センターの異様な外観がそびえていた。
周囲を頑丈な塀と鉄柵で囲まれたその施設は鷹松市郊外の水田が緩々と広がる風景の中にあった。
その敷地内には消炭色の外壁で統一された大小さまざまな研究棟らしき四角い建物がいくつも並んでいる。
しかしやはり目を引くのはそれらの中央に鎮座する同じく消炭色の巨大なドーム状の建物、そしてそのドームの中心部から天に向かって伸びる高い塔であった。
まるで異国の由緒ある宗教建築物を彷彿とさせるその威容はこの施設の特殊性を訪問者に認識させる意図があるかのように見えた。
センター施設内の駐車場に降り立った城山小学校六年生一行はセンターの係員に案内されて早速、念能力の測定場所へと向かった。
測定場所は例のあのドームの中だった。外から見ると非常脱出口以外に採光や換気のための窓らしいものが殆ど見当たらない閉鎖的な外観を持った建物だが内部は驚くほど明るく湿度、温度ともに空調設備によって快適な状態に維持調整されていた。
志津果、亜香梨、賢太、団児、玄狼の五人は長いソファーが数列並んだ以外、何もない殺風景な部屋で測定の呼び出しを待っていた。
個人医院の待合室のような雰囲気の部屋だった。引率の高田先生は別の部屋へ案内されたらしい。
暫くすると部屋のドアが開いた。いよいよ測定かと思ったらそうではなく部屋の中に入ってきたのは郷子だった。
「あーぁ、思ったより道が混んでて遅くなっちゃった! 間に合わなかったらどうしようかと思ったわ。
なんたって自分の将来のステータスを決める重要な検査だもの。
あ、ここ空いているね。では、よっこらしょっと・・・あ、ごめんね、古志野君。」
彼女は団児と玄狼の間に空いていた三十センチほどの狭い隙間に無理やりねじ込むようにして体を押し入れた。
当然、郷子の体によって押しのけられたような形になった団児と玄狼だが二人とも文句は言わなかった。
それは無理もない話であった。大人の女性へと変化を始めた女子の体を押し付けられて思春期の少年達が文句を言えようはずもない。
柔らかく吸い付くような弾力性を持った未知の感触に彼等は顔を赤らめて戸惑うばかりだった。
おまけに郷子は半身をひねるようにして座りこんだ。よって堅い垂直な背面を向けられた団児とは違い、たおやかな曲面で構成された前面を押し付けられた格好の玄狼は途轍もなく気まずい思いをする羽目になった。
彼女は右掌を彼の左肩に乗せ、左掌を彼の左肘の部分に掛けるように置くとそっと囁いた。
「昨日の夜ね、お父さんがすごく驚いていたよ。素晴らしい才能だって。
念触媒を使わずに念を実体化できるなんてって。」
「自分の娘だって同じことが出来てるじゃないか?」
「あら、あたしのは超精霊合金鋼の力を借りてこその事だもの。あなたみたいに自身の生体念能だけで発現できるわけじゃないわ。
・・・それでね、これから玄狼さんに色々教えて貰いなさいって言われたの。
玄狼さんのお母さんの水上理子さんって祓い師の世界では伝説になるほどの存在なんですってね。
巫無神流神道の創始者の玄孫として夜鵺の頂点に立つはずであった女性・・・・
その女性の才能と技を受け継ぐあなたと一緒に磨きあえば最高の未来が得られるだろうって言ってたわ。
ねぇ、私、玄狼さんのお母さんに会ってみたいの。今度、帰り道に神社に寄ってもいいかな?」
その二人の様子を反対側のソファーの少し離れた位置からねめつける様な眼で見ていた志津果がダンと立ち上がった。
郷子がフェリー乗り場で彼女に向けたあの勝ち誇った微笑みを目にした時の焼けつくような感覚が再び胸によみがえって来る。
親指だけを鉤づめのように曲げ、他の指の先をわずかに内側に曲げることで堅い張りを持たせた手刀を背中に隠して玄狼達に近づく。
オロオロした様子の亜香梨が慌てて伸ばした手が一瞬遅れて届かずに空を切った。
その手刀が玄狼の体にしなだれるように寄り添った郷子の左右の手を振り払おうとした刹那、控室のドアが開いて若い女性職員の声が響いた。
「はぁーい、皆さん!
長い間、お待たせしてごめんなさいね。それでは今から測定を開始します。
名前を呼ばれた順に一人ずつ廊下に出てきてくださいね。」
それぞれの思いを胸に抱えたまま、ここに念能力統一測定が始まった。
※ 次回は念能力の測定途中に玄狼が引き起こす衝撃的な事態です。
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