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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

しらたまさんとるるさんの小説その1

作者: 黒石*馨胡

「また明日」

そうやって手を振る彼に胸を締め付けられる。

また明日か…

明日になればこの思いは届くのか?それとも明日になればこの思いは消えてくれるのか?

今はまだ何も分からない。


「しらたま行こーぜ」

大抵朝は先にるるが呼んでくる。

「今行くー!」

真面目な性格のるる、いい加減な性格の俺は正反対でも仲良い友達であり、部活ではレギュラーを争うライバルだ。

歩く道は緑がむせ返る様に木々が葉を揺らしており、蝉の声が暑い夏を演出する。

「あちー!」

「道着着ると更に地獄だよな」

「エアコンいい加減付けて欲しいよな」

「外に的があるなら意味無いだろ」

意味のない話をしながら学校に向かう。

朝練はいつも1年が先に来る。弓道部はそういう上下関係の伝統色が濃い部活だ。

朝の少し水の香りがする空気の中、射法八節をする1年。まだまだ可愛い盛りである。

弓を引く体勢に入れば考えることは何一つない。ただ的を見て中身を空っぽにする。

矢が的に当たる音を聞いてふと我に帰る。前では同じ様に無心で矢を番えているるるが見える。

(負けてられるか)

心の中で色々なモヤを振り払い、再び的を射る体勢に入る。


同じクラスなのでお昼ご飯も自然と一緒に食べることになる。

そういや、るると一緒に昼ご飯を食べなかったことが数えるだけの回数しか無いような気がする。

「調子どう?」

「まぁまぁかなー」

「まぁまぁってどれくらいだよ」

「んー?半分くらい?」

「だいぶ当ててるじゃねーか」

「いや勘だから」

「記録ちゃんと見ろよ…」

そんな会話をしてるうちに昼練が始まる時間になる。だから基本的には食べるだけの日が多い。


居残り組は基本的にはるると俺だけ。もちろん、部活としての時間はあるがそれ以上に練習するのは2人だけなのだ。

「んー…」

「調子良くない?」

「悪くはないんだけど」

「どっちだよ」

一旦弓を置いて座るとるるの方を見る。

真剣な顔つきで夜の闇の中で矢を番える、るる。

弦がしなる耳障りな音が聞こえる。

いつもと違うるるがそこにいた。


「また明日」

家の前で別れる。別れても考えることはるるのことばかり。

(いやだって幼なじみだし!)

でもここまでるるのことばかり考えるのは初めてのことだ。

家は隣なのに。

(離れてるの辛い…)


次の日もまた次の日も普通に来た。いや、お互いにとって1日1日が大会に向けての貴重な日にちだ。

その貴重な1日をだいたいるるのことを考えて過ごしている。

(るる…ごめん…)

るるにとっては俺はライバルであり、仲間。その関係性が崩れたら…

(考えたくもない)

そして「また明日」が来る。


レギュラーが発表される日が来た。正直自信はある。るるのことで集中できない分練習量は積んだつもりだ。

先鋒、中堅、と順に発表されるがどちらにも自分の名はない。

残るは大将のみ。

「大将、るる」

顧問の声が響くと周りがざわめく。

まさか…レギュラーから落ちた?

半分信じられない気持ちでるるを見るとるるも呆然とした表情をしていた。

顧問は「それ以上の話はない」という感じですぐに去ってしまった。


頭の中に色々な考えを浮かべながら帰路に付く。もちろん横にはるるがいる。

「大丈夫…?」

震えた声でるるが聞いてきたが、答えないで別のことを聞いた。

「なんで俺たち幼なじみなんだろうな」

「え?」

「俺さ、こないだからずっとるるのことばっか考えてるんだよ」

「なんで…」

「なんで?るるが言う?」

頭の中で何かが切れた。

足を止めてるるに向かい合うと、その唇に自分の影を落とす。

「好きなんだよ、わかれよ」

立ち尽くするるを置いて1人逃げる様に帰った。


しらたまの気持ちに気づかないのも無理はないと思う。それだけ2人は近すぎた。

ただキスをされて思ったのは

(なんで?)

という思いが正直なところだ。

ずっとライバルであり、仲間だった。人生の友でそれはずっと変わらないはずだった。

(好きってどういうことなんだ…)

夜の風が少し涼しくなってきて、月が重い腰を上げて登ろうとしている。


大会を迎えた。補欠にはなれたので、応援席でるるを見る羽目にはならなかった。

1回戦いきなりの激闘が始まった。

こちらの先鋒が勝ち、向こうの中堅に負けた。こちらの中堅は向こうの中堅に勝ったが、向こうの大将に負けたので、大将対決になった。

いつものるるなら勝てる。

はずだった。

なぜかるるの矢は1本も的に当たらず、1回戦を落とした。

夏が終わった。


帰り道は相変わらず2人だった。正直、大会を落とした日には関わりたくないのが本音だったが、いつもの習慣とは怖いものだ。

黙り込んだしらたまが横を歩いている。

「そういや、ここの家のみかんよく取って怒られたよな」

無理矢理話題を作ってみるが振り向きもしない。

「弓道始めようって言ったのしらたまが先だったよな。俺なんも決めてなくてバンドでもやろうかと思ってたよ」

「…バンドは似合わなさそう…」

ようやく口を開いたしらたまにホッとして立て続けに喋り出す。

「やっぱり?メガネかなぁ。でも今更コンタクトにできなくて。でもバンドやるって俺が言ってもしらたまは付いて来そうだけど」

「どうだろ」

…また黙り込んでしまった。

でも実際ついて行くのは俺の方なんだよな、とは思う。小学校の時には野球やりたいとしらたまが言ったので付いて行ったし、中学生の時は弓道をやりたいと言って付いていった。高校まで珍しく弓道にハマったしらたまにずっと付いて行って。

(大学はどうなんだろ)

想像も付かない。

(でも…)

なぜか一緒にいたいと思う。そばで笑っていて欲しいと思う。

「また明日」

手を振って別れる。いつもの光景だ。

「また明日」

夜はなかなか眠れなかった。


部活も無事終わり(顧問は怒ったが)進路を決めなければならなくなった。

「しらたまどこ行くの?」

「○○大学」

地元の国立大学だ。成績的にはそんなところだろうな、とは思った。

「るるは?」

いきなり聞かれて少し驚いた。いつもなら「るるも一緒だからな!」で終わるからだ。

「正直決めかねてる…」

何を決めかねてるんだか分からないがそう答えておいた。

小さく息を吐いてしらたまが自分の弁当に戻ったのを確認すると、密かに机の中に入れてある自分の進路の紙を見る。

「○○大学」

しらたまが言った地元の国立大学が書かれていた。


帰り道はまた2人だ。

そういえば、2人で帰りが一緒では無かったことがない。

(いつもこっちを引っ張るくせに付いてくる時は付いてくるんだよな)

「進路さ」

突然しらたまが話し出したので少し肩が揺れた。

「上京とか考えてんの?」

「どうだろ」

実際のところはほとんど考えてないのだが、先日のことで言い出しにくい。

小さく息を吐き、またしらたまは黙りこくった。

「また明日」

いつまでこの言葉を言ってくれるのだろう。

気づけば家の前にいた。


「ごめん、今日一緒に帰れない」

しらたまに言われて一瞬目を見開いてしまった。初めてのことだったからだ。

「あ、うん」

そりゃ高校生にもなって付き合ってもない男2人がずっと一緒に帰るのも、考えてみればおかしな話だ。

(初めて1人で帰るのか…)

正直落ち着かない。一緒に帰らないことだけでこんなに授業が長いとは。

あれからキスはされてない。それどころか「好き」とも言われてない。

(今でも俺のこと好きなんだろうか)

好きでいて欲しい自分がそこにいるが、あえて見ないふりをする。

「るるー暇ならこの資料、資料室に運んでくれー」

考えごとをしていたら担任に頼まれてしまった。

(まぁ、今日は1人だし)

夕焼け空がもうすぐ迫っている。思えばあれから日がだいぶ短くなったものだ。

ふと窓の外を見る。

見慣れない女子としらたまが裏門に居た。

(あれって…)

何やら2人で盛り上がっている。

(なんなんだよ…)

見ないふりをして資料室に逃げるように走った。


次の日も一緒に帰ることは叶わなかった。

(これって確実に…)

彼女が出来たってことだよな…と思いたくない自分がいる。

1人で帰る道がこんなにも寂しいのは思いもしなかった。


「一緒に帰ろうぜ」

何食わぬ顔で次の日を迎え、なんでもない顔で誘われた。

(彼女いるくせに…)

とは思いつつ、誘われる嬉しさにまたいつもの2人で帰り道につく。

しらたまはなぜか浮ついていて、これが彼女効果か…と思わずにはいられなかった。

「また明日」

家の前でいつもの挨拶をする。

「あ、待って!これ!」

慌てた様子でしらたまはカバンから小さな箱を出す。

「これって…」

「誕生日プレゼントとちゃんとした告白してなかったから」

そういえばしらたまのことばかり考えていて自分の誕生日を忘れていた。

「開けていい?」

緊張した面持ちでしらたまがうなづいたのを見て箱を開ける。

「これ…」

中には華奢なペンダントが入っていた。女性的な作りだが、男性用にちゃんとチェーンが長い。

「好きな人に送るの指輪がいいか、って聞いたら『そんな重いもの送ってどうするんだ!』って怒られたよ」

(まさか…)

「昨日と一昨日帰れなかったのって…」

しらたまが大きくうなづく。

「後輩の女子にさ、頼んだんだよ。プレゼント選んでくれ、って。それで指輪がいいって言ったらペンダントにしろ、って文句言われて」

見慣れないと思ってた女子が、後輩の女子だったことに素直に驚く。それだけ自分の視野はしらたまで埋まってたのか。

「付き合ってください。ずっと好きです」


自分でも今人生で1番臆病になっている瞬間なのが分かる。ずっと仲間でライバルで幼なじみで誰よりも近くにいて。

だから怖い。ここで断られたら一生傍にいられないだろうから。

「これ持って」

渡した箱を渡された。一瞬返されたと思ったがるるを見ると両手で自分にペンダントを付けているからだった。

「似合う…かな?」

そう言ってはにかむるるは誰よりもかわいい。思わずしゃがみこむ。

「え?どうかした…?」

「可愛すぎて…」

「ねぇしらたま」

肩を持って立たされる。

「実は女子と楽しそうに話してるの見て嫉妬した」

思わず呆然としてしまった。

「他にもずっと横で笑って欲しいって思ったし、ずっと好きでいて欲しいって思った」

初めて気づいた時はかっこいいと思った。それからずっと好きだった。

今かわいいるるを見てまた好きになった。

「一緒にいてください」


結局同じ大学学部に行くことになった。けれど学科は違うのでこれからずっと一緒でいることは無さそうだ。

「サークルどうする?」

そう言うるるの手には捕まって渡されたサークルのチラシが山になっている。

「また弓道部かなぁ」

「へー意外…飽きないんだ…」

「やっぱりるるに初恋したきっかけだから」

「じゃあ俺も弓道部行く」

「いいの?」

「昔から付いて行くのが当たり前だから」

後ろからしらたまに抱きしめられた。

「これからも?」

「これからも」


人生を共に歩く上で欠かせないことがある。

目の前のるるは真面目に今日の復習をしている。

(部屋には数えきれないほど入ってるけど…)

実はこんな気持ちになったのは初めてではない。最近は部屋に行けばずっと同じことを考えている。

(真面目だからなぁ…)

健全な身体には健全な魂が宿るとはよく言ったものだ。

(こんな時に健全でどうするんだよ…)

「しらたま?」

目の前で明らかに勉強に集中できてない様子が気になったらしい。

「いやー…」

今日こそ言うべきなのだ。いつかは言わなければいけないのだから。

「ちょっと暑いなーと思って」

言えなかった。

そりゃ大好きな人だ。大事にしたいし絶対嫌われたくない。

しかしるるはこちらをずっと見てくる。

「長い付き合いだから分かるんだけど…もしかしてしたい?」

心臓が跳ね上がった。

「したいって?」

「だから…」

真っ赤になった顔がかわいくていじわるを言ってみる。

「何がしたいと思う?」

「…」

真っ赤な顔をさせたままうつむいてしまった。

(ヤバい…かわいい…)

これはもう我慢できない。

机の上を超えて思いっきり押し倒す。

「痛かったら言って」

優しくまぶたに唇を落として言うと、るるは小さくうなずいた。

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