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8/28

13:10-13:30 遭遇

サブタイトルの時刻表記は誤記ではありません。前話から少しだけ過去にさかのぼります。


 悠馬達がその鳥の異形──バケガラスの集団に気付いたのは、悠馬が食事を終えた時の事であった。眼下に広がる森の中から現れてギャーギャーとけたたましい鳴き声を放ちながら、空を進む悠馬達を追って来たのである。



「あれはバケガラス。腐った肉でも平気で食べる。クチバシには毒があるので注意が必要。……けど、見ての通り動きは早くない。落ち着いて対処すれば、うちの見習いでも十分に撃退は可能」



 アネリアが説明したように、バケガラス達の飛行速度は鳥にしては遅い。でっぷりとだらしなく垂れる腹の肉が重荷になっている。



「じゃあ何とか追っ払えるっスか? あんま手荒なマネはしたくないっスけど」


「イヤそれなんだけどネ。今っテボクたち、ちょっと動けなくテ……」


「私にも無理。ここはガイアに任せたい」


《ちと儂にも厳しいぞい。すまんがの》



「…………えっ?」



 結論から言うと、鈍重とされるバケガラスの集団に有効な対策を取れる者が、この場にはいなかったのである。


 まずユニを含めたハーピー達は、悠馬達を空に浮かべる飛行魔法フライの制御のため、この場から離れる事ができない。魔法による遠距離からの攻撃も不可能である。



「そう言えバ、この辺りは奴らの縄張りだったネ。普段はボクらのスピードに全く着いて来れないもんだカラすっかり忘れていたヨ。アハハ」


「はぁ……」



 次に優れた魔法使いであるアネリアだが、攻撃魔法に関しては『土』のものしか使えない。地上から遠く離れた上空では、当然発動させる事はできない。先程のように水魔法ウォーターボールを放つことも一応は可能だが、水の無い所ではバケガラスの集団を呑み込む出力を得られない。

 ちなみに風魔法を得意とするエルフの中にあって、アネリアは風魔法を全く使う事ができない。野菜や豆、果物ではなく、肉を好むという食の嗜好も、エルフの中では特殊である。



「さすがに私も空中戦なんて想定していない。そんな想定ができる人なんてこの世にいない。よって、私は悪くない。……と思う」


「そっスか……」



 最後にガイアだが、遠距離攻撃の魔法に関しては一切使えないとの事である。



《鉄砲やミサイルなんかが呼び出せれば良いのかもしれんが、そんなん無いしの。飛び道具なんて無粋ぶすいじゃ、無粋》


「じゃあどうしたらいいっスかッ! あいつら、明らかにこっちを狙って来てるっスよ」



 三者三様の言いわけに、悠馬は憤る。どう見ても決して友好的とは思えないバケガラスの集団が、ゆっくりと、しかし着実に距離を詰めて来る。そんな状況で求められるのは、言いわけなどでなく打開策である。



《んなもん古今東西決まっておる。『三十六計逃げるにかず』じゃ! ほれ悠馬、しっかり漕がんと追いつかれるぞい!》


「えぇー……」



 現実は非情である。ガイアに急かされ悠馬は渋々といった様子でペダルを漕ぎ始めた。背後に接続しているプロペラが回り、飛行速度を徐々に上げていく。



「ちょっと失礼致しますゾ」

「お邪魔するでゴザル」


「……?」



 悠馬の両腕に二体のハーピーが移動してきた。うち一体は、リアカーに干していた悠馬の靴を器用に両足に引っ掛けている。

 さらにアネリアの所にも、彼女の靴を抱えた残りの一体が移動してきている。



「あのネ、ガイア。後ろに付いてるアノ鉄の箱……リアカーだッケ? アレ重たいから外してくれないカナ? そしたらボクたち、もうちょっと早く飛べると思うんダ」


《なるほど、良いぞい。それなら……うむ。では行くぞい!

 ───【リリース】!》



 ガイアの詠唱で、車体の後ろに接続していたリアカーが後方へ吹き飛んだ。リアカーは回転するプロペラの下を抜けて、バケガラスの先頭集団に突っ込んだのである。



「ブッ!!」「ギャッ!!」「グギッ!!」


「や、ヤッタッ!」「「「オォッ!」」」「……!」



 巻き込まれた数羽のバケガラスが落ちていく。それを見ていたハーピー達から歓声が上がった。



「ギェッ、ギェッ!」


「ギャッ」「……ギャー」



 難を逃れたバケガラス達の騒ぎが大きくなる。すると、悠馬達とバケガラス達との間の距離が開きだしたのである。



「……少し遠ざかったっスか?」


「さっきの攻撃で警戒したんだと思う。今のうちに」


《さっさとずらかるかの。ん、あれは……》



 悠馬達の視界に、長らく続いていた森の切れ目が見えてきた。実質的に自転車ガイアの方向を制御するハーピー達は、その切れ目に向かって高度を下げて行くようである。



「ヤット見えてキタ。あそこに着陸出来れバ、後は何とでもなるヨッ!」


「了解っス! あれは……村と、人っスか?」



 悠馬の目に柵の奥で軒を並べる木製の家屋と、その手前に点在するテントのような物が見えてきた。さらに悠馬の視界は、テントの前で腕を組む鎧姿の金髪女性(・・・・・・・)と、その傍らに佇む壮年の男(・・・・)を捉えたのである。



「ほんとダ、ネーヴェ! モルド! オーーイ」



 その場に立つ二人に向かい、ユニは笑顔を浮かべて大きく羽を振り始めた。するとモルドと呼ばれた壮年の男は頭を抱え、ネーヴェと呼ばれた女──ネーヴェリアは頬を引きつらせる。

 「『オーーイ』ではないだろッ! 何なんだこれは!?」そう叫ぼうとしたネーヴェリアよりも先に割り込む声があった。悠馬の声である。



「そこの人ッ! 危ないっスよッ!! ちょっと離れてて欲しいっス!!」



 悠馬の切羽詰まった大声にネーヴェリアは目を見開くが、すぐに傍らのモルドと共にその場から離れて行く。

 それから間もなく、悠馬達が着陸を果たした。タイヤが横滑りに土を削り荒々しく停車する。



「っし! 着陸したっスよッ!!」

《ユニちゃんや!》


「任せテ! ───【ウインドカッター】!」


「───【ウインドカッター】!」

「───【ウインドカッター】!」

「───【ウインドカッター】!」

「───【ウインドカッター】!」

「───【…………ター】!」

「…………───【ストーンバレット】」



 魔法による一斉攻撃が開始された。幾多もの風の刃と矢のような鋭い石のつぶてが、背後に迫っていたバケガラスの集団に襲いかかったのである。



「プギャッ!」「ギャァアアアアッ!!!」「ギェッ!」「……」



 瞬く間に、その場に地獄が形成された。つい先程までバケガラスであった(・・・)モノが、次々に血の海に沈んでいったのである。



「……ムゴイっス」


《悠馬よ。こればかりはどうしようもない事じゃて》


「そうっスね。けど」



 目の前で展開される凄惨な光景に、悠馬は顔を青くする。



「ギ、ギャ! ギャア!?」


「ギャー」「ギャア」「ギャーッ!」



 辛くも難を逃れたバケガラス達が、怖じ気づいたのか身体の向きを反転させた。各々が喧騒を散らしながらバタバタと空に飛び立って行く。



「厶、追うヨッ!」

「「「オウッ!」」」「逃がすカッ!!」「……!」



「待て!」



 追撃に入ろうとしたハーピー達に、待ったの声がかかった。ネーヴェリアである。


 彼女はツカツカと自転車ガイアに近づくと、前かごから今にも飛び出さんとしていたユニの頭を鷲掴みにしたのである。



「ユニ……まずは説明が先だ。皆も落ち着け」


「ネーヴェ止めテ痛い頭割れるイタイ」



 ユニから悲痛な声が上がり、残りのハーピー達は震え上がる。


 ハーピー達が沈静化したことで、ネーヴェリアはユニの頭を開放する。しかしユニの息付く暇もなく、ネーヴェリアは羽の上から胴体を抱え上げた。その状態で壮年の男──モルドの方向に歩いて行く。




「で、どういう事か説明してもらおうか?」




 ネーヴェリアは優しくユニに語りかける。一応の笑顔を浮かべているが、その目は全く笑っていない。



「えぅ、アゥ」



 その迫力にユニは涙目になって冷や汗を流す。


 そうしたユニの後方で、悠馬の視線はネーヴェリアの顔に向けられていた。目鼻立ちのはっきりした健康的な美貌もさることながら、そこに現れているある特徴部分が、どうしても気になってしまうである。



「ガイア、アネさん。あの人って……」


《うむ、凄いのう。まさに御伽噺おとぎばなしの世界じゃ!》


「あの人のアレは、間違いなく高位の魔族の証。絶対に目を合わせてはいけない」



「…………聞こえているんだが」



 ネーヴェリアはユニから悠馬達に顔を向け、困ったように呟いた。その彼女の額では、一本の長い角が、艶やかな光沢を放っているである……。


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