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12:40-13:20 上空


 森の上空。


 そこに、悠馬、アネリア、そしてユニを含む六体のハーピーを乗せた自転車ガイアの姿があった。


 ガイアの背後、プロペラの下方に一台のリアカーが接続されている。そこに、いずれも紺色の三体のハーピーが乗っている。

 またリアカーの上には、悠馬とアネリアの靴が、小規模の水魔法ウォーターボールによって泥汚れを洗い流した状態で天日干しにされている。水に濡れた靴下も車体の適当な所に縛り付けられており、悠馬とアネリアは二人とも裸足になっている。

 これらはアネリアの発案によるものである。意外……と言っては失礼だが、彼女の生活能力の高さが垣間見えた一幕である。



《お……!》



 ハーピー達の飛行魔法フライによって、ゆったりとした速度で進む。やがて彼らの前方に、巨大なが、切り立った崖から流れ落ちる様子が見えてきた。

 轟々と大量の水が流れ落ち、跳ねる水滴に虹が浮かぶ。まさに大自然ならではの光景が展開されている。



「あれハ、ボクたちが『スケイルフォール』って呼んでる滝だネ。魚だけじゃなくテ、でっかいトカゲなんかも時々落ちて来るんだヨ! 確かこの下の川ハ、君たちの砦の近くの川にも繋がっていたカナ?」



 得意気に解説する少女は、ハーピー達のうち最も派手なパッションピンクの一体──ユニである。



《これが滝という奴か! 話に聞いた事はあったが見るのは初めてじゃ。……実に雄大な景色じゃのう。のう悠馬よ!》


「あーそうっスね。確かにスゴいっすね。……ハァ」



 ガイアはハイテンションで歓声を上げる。それに対し、悠馬は気だるそうにため息を返す。



《む、どうしたんじゃ悠馬よ? 何だか元気がないぞい》


「腹が減ったんスよ。ガイアは自転車だから、空腹の辛さなんて分かんないっスよね」



 悠馬は空腹を訴える。先の『田んぼ』の岸まで戻れば昼食があったと聞く。その帰還を果たせなかった今、悠馬は目の前で昼食を取り上げられたような、やさぐれた気持ちになっているのである。


 ちなみにハーピー達に連行された当初、悠馬は地上からの高さに大騒ぎしていたが、その高さについては慣れつつある。ただし、その際に無駄に興奮した事も、現在の空腹感に影響している。



「ゴメンねユウマ。着いたらスグにゴハンお願いするかラ、もうちょっと我慢してネ?」


《あー、確かに『空腹の辛さ』というんは儂には分からんの。けど生きてるっちゅう証拠じゃから、良い事なんじゃないかのう?》



 ユニではなくガイアの発言に対し、悠馬は目くじらを立てる。



「ちょっと、空腹が『良い事』って何っスかそれ。腹が減ったら辛いに決まってるじゃないっスかッ!」



 そう怒るが完全に八つ当たりである。今の悠馬は空腹が災いし、些細な事にも気が立ってしまうのである。



「全く、アネさんからも何か言ってやって……あんた何食ってるっスか」


「ハムハムハムハム───」



 悠馬が振り返ると、そこには巨大な骨付き肉を片手で掴み一心不乱に咀嚼そしゃくするアネリアの姿があった。

 そのままごっくんと飲み込むと、ジロリと悠馬を睨み返す。



「…………エルフが肉食って何が悪い」



「へ? いや、良いんじゃないっスか別に。エルフが肉食っても」




 アネリアの妙に気迫が込もった呟きに、機嫌が悪かった悠馬は一瞬で素に戻る。その肉の塊が一体どこから出て来たかが悠馬は気になったが、今は他に言うべき事がある。



「けどそれ、美味しそうな肉っスね。できればちょーっと自分にも分けて頂けないかと」



 その肉のご相伴に与れないかと、交渉を開始したのである。



「ユウマ……あなたは良い人。けど、それはそれこれはこれ。肉が欲しくば相当の対価を要求する」



 アネリアは交渉に応じる構えを見せる。ただしはっきりと対価を要求するあたり、彼女の中での肉の価値は、希少品であったはずのマナポーションよりも高いらしい。

 しかし対価と言われても、悠馬には心当たりがない。財布にはある程度の現金が入っているが、異世界である。財布の中の現金が、この世界の通貨としてそのまま使えるわけがない。



「そこを何とか! 別に肉じゃなくても良いっス! もう腹が減って死にそうっス!!」



「……………………貸し一つ」



 ひたすら情に訴える作戦が、一応の功を奏したようである。アネリアはやれやれと肩をすくめながら、自らの懐から新たな食べ物を取り出した。



「おおーー!」



 半円形にカットされた平べったいパンをベースとし、断面の切れ込みに小間切れ肉と野菜がたっぷりと詰め込まれている。この新たに出てきた食べ物──『肉野菜サンド』が、キレス砦で制式採用されているメニューの食事である。パンと肉と野菜のバランスの良さが、身体が資本である騎士やその見習い達に推奨される理由である。片手で簡単に食べられる点もポイントが高い。


 今のアネリアのように、肉だけの食事というのは砦内では特別な事情がない限りは許されない。彼女は食の好き嫌いについて小言を言ってくる人間ジェームズがいない現状を満喫している様子である。



「有り難いっス! 頂くっス!!」



 悠馬は早速その『肉野菜サンド』に飛びつくと、嬉しそうにかじりつく。もぐもぐと咀嚼してそれを飲み込むが、微妙そうな顔になる。



「いや美味いっスよ? けど、なんっスかね。もの凄く惜しいというか、パンチが効いてないというか」



 素材そのものの味わいがあり、塩もしっかりと効いている。ただし、それだけである。食に関しては充実している現代日本で生きてきた悠馬にとって、若干物足りない味なのである。



「そうっス! 確か良いものが……ユニさん、ちょっと失礼するっスね」


「ン、なにナニ?」



 悠馬はユニが乗っている前かごに手を伸ばすと、その中の自分のリュックを開き、そこから赤い液体の入ったガラス瓶を取り出した。そして瓶を太腿に挟み、蓋を開けて赤い中身を『肉野菜サンド』にかける。

 悠馬はそれをスーツのポケットにしまうと再度リュックに手を伸ばし、今度は黒い粉末が入ったプラスチックケースを取り出した。先程と同様に、その中身をパッパと振りかける。


 そうして出来上がった新たな食べ物を、悠馬は改めて口にした。



「んーー! これこれ、コレっス!」



 悠馬は満面の笑みを浮かべると、ガツガツとそれを食べ始める。




「良いナー。なんかそれスゴく美味しそうだナー。……ボクにも一口、分けてくれないかナー」




 声の方向に悠馬が向くと、前かごに立つ少女ユニと目が合った。彼女の潤んだ上目遣いの視線に、悠馬は喉を詰まらせる。



「ユウマ。オ・ネ・ガ・イ」


「ンン゛……しょうがないっスね。じゃあ一口だけっスよ。あ、辛いものは平気っスか?」


「平気平気! イタダキマーース!!」



 ユニは上目遣いをあっさり解除すると、悠馬が手に持つそれに噛りつく。



「んンーー! ピリっとしてて、オイシーーッ!!」



 ユニは歓声を放つと、二度三度と立て続けに連続して噛る。



「あっ! 一口だけって言ったじゃないっスかッ!」


「ゴックン。……だってコレ、すっごく美味しいんだもーーン。美味しいのがイケないんだもーーン」


「もーーン。じゃないっス! そんな可愛く言ったって許さな……あ、ちょっと! そんな寄って集って、だ、ダメーーっス!」


「リーダーだけうらやましイ! アタシも食べタイ!」

「拙者モ……」

それがしモ……」

「小生モ……」

「モ……」



 ユニの反応に触発されたのか、残り五体のハーピー達全員が押し寄せて来たのである。温かい羽毛の塊にもふもふと揉まれ、悠馬はたまらず悲鳴を上げる。



「分かったっス! 分かったっスからッ!!」


「「「「「 !!! 」」」」」



 この悲鳴をハーピー達は「了承」と捉えた。間髪を置かず、悠馬が手に持つそれに向かって一斉攻撃が開始されたのである。



「あッ、あ、あぁぁーー……ッ!」




 直前までまだ大きかった半円形が、悠馬の目の前でみるみる小さくなっていく。先に一口以上を囓ったユニも、何食わぬ顔でそれに参加している。


 結果、悠馬の手には端の欠片しか残らなかった。

 悠馬は悲しそうにモソモソとそれを食べ終えると、涙目になってアネリアに振り向く。



「……アネ……さん」


「……………………」



 ジットリとした半眼が待ち受けていた。悠馬はその視線に怯みながらも、ボソボソと再度交渉を開始する。



「申し訳ないっス。その、全部食われてしまったっス。……おかわりとかあれば頂けないかと」


「一つ訊きたい。ユウマがかけた、それは何?」



 アネリアが悠馬のスーツのポケットを差して問う。悠馬はああと頷くと、ポケットから赤と黒の中身がそれぞれ入った二つの容器を取り出した。



「こっちの赤いのがサルサソースで、黒い方はコショウっス。自分達の世界の調味料っスね。仕事の関係で、たまたま持ち歩いていたっスよ」



 これらの調味料は、悠馬にとっての現実世界──日本でレストランを経営するトニー氏が新作ピザに試したいとの事で、サンプルとして悠馬が確保していたものである。



「胡椒って、これが? 初めて見る」



 アネリアは胡椒の入ったケースを見て、真剣な顔つきになる。


 アネリアが在住するグルーナ公国において、胡椒とは、マナポーションを超える希少品である。国内で育たたいため南の大陸からの輸入に頼る他ない。それも、海の魔物達が跋扈ばっこする中での命懸けの危険な航海が伴うため、まとまった量が国内に入って来る事すらまれである。



「もし良かったら、試してみるっスか?」


「良いの?」



 この世界の流通事情を知らない悠馬は、気軽に首肯する。これを受けて、アネリアはおずおずと食べかけの肉の塊を悠馬に差し出した。


 悠馬は先程と同様に、その肉の塊にサルサソースとコショウとをかけていく。



「っと、こんなもんっスかね。あ、辛いんで気をつけて欲しいっス」


「分かった。いただきます……ーーッ!!」



 肉に噛り付いた瞬間、アネリアの瞳が──カッ! と開かれる。ゆっくりと咀嚼してそれを飲み込むと、彼女は何やら厳かな調子で語り出したのである。



「───確かに辛い。けど、ただ辛いだけでなく酸味と甘みも効いている。肉の臭みを消し、本来の旨味を殺すことなく引き立てている。まさに味の深淵。……これが、悠馬の世界?」


「社長と一緒に厳選したっスからね。品質には自身があるっスよ! アネさんの口にも合ったみたいで良かったっス」


「貸しが一瞬にして返されてしまった。悔しい」



 アネリアはむしろ満足そうな様子で呟くと、その懐から新たな『肉野菜サンド』を取り出した。


 種明かしをすると、アネリアの懐は特殊な魔法の収納具になっている。特にアネリアのものは、アネリアとジェームズによる改良……魔改造が施された一品である。約四畳分もの収容スペースを誇り、入れたアイテムの腐食や劣化を防止する機能をも備えている。



「恩に着るっス。改めて頂くっス!」



 悠馬はアネリアの手から再度『肉野菜サンド』を受け取ると、先程の調味料をかけて『サルササンド』を完成させた。それをもぐもぐと美味しそうに食べていく。今度こそ、ハーピー達の横槍を受ける事もない。



《ほらの。腹が減る事はやっぱり『良い事』なんじゃ。そうやって美味そうに食べられるわけじゃからの。……儂には物が食えんでの》


「んぐ! ガイア。……さっきは、その」


《ま、こればっかりはどうしようもない事じゃしの。こうして食事の雰囲気を味わえるだけでもありがたい事じゃ。ちゅうわけで、悠馬もじゃんじゃん食っとくれ! たくさん食わんと大きくなれないぞい?》


「……大きくなれないとか余計なお世話っス。遠慮なく頂くっスよッ! もぐもぐ」


「ハムハムハムハム―――!」



 食事を再開した悠馬とアネリアを乗せて、自転車ガイアのシルエットが滝の上空を進んで行く。


 彼らが次なる目的地に到着するのは、もう少し後の事になる。





《ところでアネリアさんや。あんたが時々投げている──ああそれじゃ。それは一体何じゃ?》



 ガイアが言うように、アネリアは球状の物体を、骨付き肉を掴んでいない方の手に持っている。


 これは『ペイント玉』と呼ばれる、中身に特殊な塗料が封入された代物である。塗料は探索用の魔法に反応を示し、遠くからでも塗料の位置が分かるような工夫が凝らされている。

 

 つまりアネリアは、キレス砦のジェームズや騎士達が追跡できるように『ペイント玉』を定期的に投げていたのである。



「…………」



 今の所、アネリアの行為がハーピー達にとがめられる事はない。かといって、ハーピー達の前で堂々と言える話でもない。



「……ないしょ」



 アネリアは素気無く答えると、左手に持つ『ペイント玉』を、眼下へポイと放り投げたのである。




■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■

■■




 魔王軍第六師団駐屯基地。


 そこは、人口百人程の川辺の村──タルタス村に併設された仮設の基地である。


 村の近くを流れる川は、先にユニによって『スケイルフォール』と称された滝まで続いている。また、村の入り口を少しでも離れると、そこには広大な森林が広がっている。

 村の入り口に皮製の簡易的なテントとが点在しており、各所にて雑事をこなす人々の姿が確認できる。

 さらに森の近くには、鉄の鎧や兜といった武具一式を身に着けた集団の姿か確認できる。それらの武具のデザインは、キレス砦の騎士達が身に着けていた物とは大きく異なっている。



「──次ッ!」



 凛とした女性の声が響く。


 声の主は確かに女であるが、背丈があり、鎧の袖から逞しい上腕二頭筋が覗いている。周囲の厳つい男達と比べても何ら見劣りしない。

 しかし女の腰から臀部にかけては見事にくびれ、鎧の胸部には豊かな膨らみが形成されている。兜の下から覗く顔の造りからも、大層な美人である事が覗える。


 その女性の前に今、三人の男が立ちはだかっている。二人は剣を持ち、一人は槍を握っている。対する女も丈が短い二本の剣をそれぞれ両手に握っている。何れの武器も、刃先が潰された訓練用の模造品である。



「……始め」


「うおぉーーッ!!」



 離れて立つ壮年の男の合図とともに、剣を持った男が襲いかかった。十分な気迫が籠もった上段からの振り下ろしである。



「……」



 女は後ろに飛び剣の射程から離れる。その剣筋の後から槍の先端が突き出され、切っ先が女の胸元に迫る。



「フッ」



 女は身を屈める事によって切っ先を躱す。直後、屈めた膝のバネを活かして前に跳んだ。



「ハッ!」


「うぉッ!」「ぃつッ!」



 剣を引き戻す男の大腿を左手の剣で薙ぎ、さらに槍を突き出した男の腕を右手の剣で叩いたのである。



「―――ハァッ!」


「む!」



 女の打ち終わりを第三の男が狙っていた。女の胴に、突き出された剣先が迫る。



「ーーッ!」



 ギィンと金属同士の当たる鋭い音が響いた。女の左手の剣が、突きの軌道を遮ったのである。



「グ……!」



 女の左腕の力で男の動きが止まる。にわかに鍔迫り合いが行われるが、次の瞬間、男の剣から弾かれたように女の身体が回転した。その回転の勢いで、男の胴を右手の剣で打ち払ったのである。



「グハッ!!」



 ガツンとの打撃音と共に男は吹き飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がった後に何とか上体を起こそうとするが、足腰が震えて立ち上がることができない。



「───それまで」



 離れて観戦していた壮年の男が発する。女は剣を握ったまま背後を振り返り、自らが打ち倒した男達に向かって口火を切った。




「振り切った後の戻りが遅い! あれでは隙だらけも良い所だッ! 最後のは狙いは良かったが、剣を支える力が足りん。ちゃんと食っているのかッ!」




 今しがたの戦闘訓練の総括──もとい、お説教である。女の一喝に、大の男達が揃って下を向く。



「次ッ!」


「お嬢様、今ので最後かと」


「む。……では終わりにする! 休憩にして良い。ケガをした者はいるか?」



「…………」



 槍の男が手を挙げる。見ると確かに、腕の篭手に近い部分が腫れ上がってしまっている。



「ここだな。傷の癒しを──【ヒール】」



 女は男に近づき、患部に手をかざして回復魔法ヒールを発動した。その手のひらが淡く光り、男の腕から少しずつ腫れが引いていく。



「防具を狙ったつもりが、すまん。私もまだまだだな」


「いえ、俺……自分が未熟なだけです」


「そうか、互いに精進せんとな。と、こんなもんか。後でよく冷やしておけよ。痛みが引かぬなら今日は休んで構わん」 


「ッ! 俺は大丈夫です! 失礼しますッ」



 そう言うと男は走り去ってしまう。他の男達もそれぞれ休憩に向かったらしく、その場には女と壮年の男の二人だけが残された。




「なぁ、爺。なにもあそこまで恐がらなくても良いと思わないか?」


「お嬢様。あれは恐がっているのではなく、悔しがっているのかと。その悔しさ故に人は努力を重ねるわけで、決して悪い反応ではないかと」


「そうか、なら良いんだが。……いい加減『お嬢様』は止めてくれないか? 何度も言うが私も良い歳だし立場もある。さすがに恥ずかしい」


「お嬢様──我が主、ネーヴェリア・パラ・ヒューム様が良い人とちぎりを交わすまで、お嬢様の呼び方を変えるつもりはありませぬ。何度も申し上げますが、お嬢様のお子をこの腕に抱く事こそが、この老骨の悲願にして」


「…………」



 女は肩をすくめると、鉄の兜を頭から取り外す。その後を追うように波打つプラチナブロンドの毛髪が溢れ、その美貌が白日の元にさらされた。


 その女こそ、魔王軍第六師団の師団長を務めるネーヴェリア・パラ・ヒューム、一昨月に誕生日を迎えた御年二十五歳。……確かに『お嬢様』と呼ぶには微妙な年齢であるかもしれない。



「しかし、お嬢様に釣り合う男がいないのもまた事実。いっその事、魔王様のきさきの座に挑んでみるのも手かと」


「馬鹿な事を言うな。后など、それこそ柄じゃない」



 ネーヴェリアはそう言いながら、ゆっくりと整理体操を進めていく。肩を回しながら、とりあえず結婚うんぬんからは話を逸らす事を考える。



「ところでユニ達はまだ戻っていないのか?」


「戻っていないかと。そう言えば、今朝になって突然配置を変えたとか」


「ああ。本命・・の監視を弟のルダ独りに押し付けて、自分は残りのハーピー達を引き連れてオークの方に向かったらしい。『アッチから変わった気を感ジル!』……などと言っていたな」


「それっきり、昼の休憩にも戻らないと」


「ルダの方は一度戻って来たんだがな。さすがにもう行ってしまったと思うが。『ユニが昼食を抜くとかあり得ナイ。変な物でも拾い食いしたんじゃないカ?』……と真顔で心配していたぞ」


「拾い食いですか。確かにユニならあり得るかと。しかし他のハーピー達が止め……はしませんか。む!?」



 その時、爺と呼ばれた壮年の男は空を見上げていた。未だ戻らないユニ達──ハーピー達を心配しての事である。




「お嬢様。アレは、もしやユニ達ではないかと」


「アレとは……ああ。私にも見えたぞ。確かにユニ達のようだな。しかし、なんだアレは?」



 男の指し示した方向を見て、ネーヴェリアは怪訝そうに目を細めた。その目には、確かにユニを含むハーピー達が映っているが、その中には、見たことのない得体の知れない構造物(・・・・・・・・・・)と、それに跨って()()()()()()()()()()()()が含まれているのである。



「どうやら乗り物のようですが、見た事はないかと。ただ、アレに乗っているのは、恐らく人族の子供かと」


「その後ろにもう一人乗っているな。……待て、何かに追われているようだぞ!」



 ネーヴェリアが言ったように、その構造物の後方には数十もの黒い鳥の姿が続いていた。間もなく、彼等が見える方角からギャーギャーと耳障りな鳴き声が聞こえてくる。



「バケガラスかと。しかし、バケガラスなぞ数があってもユニ達の相手では……ああ」


「アレを空に浮かべるのに魔法の制御を取られているのだろう。アレさえ下ろす事ができれば……っと、降りて来るようだぞ!」



 ユニ達を乗せた構造物が、地表に向かって徐々に高度を下げていく。しかしその間にも、その構造物とバケガラス達との間の距離は、確実にせばまっていったのである……。



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