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第三章 エピローグ2 〜竜と虎を飼いならせ!〜

 会議終了の号令は、まだ出されない。

 一般の臣下たちは、呆けたような表情半分、ニヤつき半分で、舞台上を見守っていた。


  * * * 


 ひとしきり笑ってスッキリしたのか、しゃがみこんで腹を抱えたなんとも情けない姿勢のまま、国王はサラを見上げた。


「それにしても、腹が痛いな……さすがはサラ姫、いや黒騎士か」


 「それは単に笑いすぎただけでは?」と思う臣下たちだったが、当然何も言わない。

 だんだんと、この状況が面白くなってきてしまったのもある。


 今まで神と恐れていた国王をはじめ、天使だ悪魔だ妖精だと噂し、遠巻きに見つめてきた王族たちが、初めて同じ人間として素の表情を見せているのだから。

 内心「このまま今日の仕事が流れたら楽だな」と思っているフトドキモノもいたとかいないとか。


「そんなの、さっさと魔術でどーにかしたらいいだろ……」


 1人、癒しの魔術を使えないリグルは、悔しそうに呟いた。

 今、目の前の3人の誰かに「腹を治してくれ」とは言いたくない。

 ライバルに塩を送らせるなど、騎士道に反する。


 それにしても、とリグルはあらためて自分の腹を見つめた。

 本当に、涙が滲むほどの痛みだ。

 さすがにここで上着を脱ぎ、シャツをめくるわけにはいかないが、きっとその奥にはひどい痣ができていることだろう。

 あの日、訓練場で剣をかわし合ったときと同じ……いや、それ以上に容赦ない攻撃だった。


「この痛み……サラ姫の愛情の重さとして、俺は受け止めよう」


 リグルがぽつりと言ったその言葉は、騎士たちのバイブルである『騎士道〜その愛と精神〜』の一節をもじったもの。

 その台詞が、残りの3人の心に火をつけた。


「悪いが一番痛いのは俺だ。この痛み、あえて青痣として残す覚悟だ」


 本当はもうちょっぴり癒しの魔術を使いかけていたエールが、さも痛くて堪らないといったていで、奥歯を噛み締めてみせる。


「一番痛いのは、僕だってば。普段お腹なんて鍛えてな……いや、サラ姫の愛が相当こめられてたしねっ」


 サラ姫は僕の嫁だし、という決め台詞と共に「イテテテ」と唸るクロル。


 張り合う3人の息子たちを見て、冷静さを取り戻した国王は、さりげなく手のひらを3人に突き出した。

 国王の無骨な指にはめられた指輪が、空の蒼を映し出すように色を深める。

 次の瞬間、巨大な水球が発生し、3人の王子へと襲い掛かった。


 それは無詠唱で発せられた、強力な癒しの魔術。

 エールの中で、尊敬してやまなかった偉大な人物が、年甲斐も無く張り合ってくるオッサンへと変貌した。


「くっ……させてたまるか!」


 とっさに手のひらを突き出し返すエール。

 うっすらと冷気の煙をまとう、消して解けない氷の盾が現れて、水球をブロックする。

 氷の盾は、水の膜を張る防御魔術の最終進化形だ。

 目の前の水球に押されつつも、決して穴を開けることは無い。


 ほぼ同等の力でぶつかり合った魔術は、しばしの膠着を経て、パシンと乾いた音を立てながら消えた。


「エール、この俺にはむかうとは……覚悟はいいな?」

「ああ、今のあなたは、もう国王じゃない……ただの幼女趣味のオッサンだ!」


 ひくり、と口の端を引きつらせた国王。

 捕まえかけたサラをまんまと逃がしてしまった、あの夜の失態を思い出す。


「お前が犯人だったのか……許さん!」


 丁寧に櫛で整えられた焦茶色の髪が、ゆるゆると宙に浮かんでいく。

 その体から放出される魔力の量が、膨大な数値へと跳ね上がった。


 何のことか分からないエールは、一瞬眉をひそめたものの、すぐに素早く呼吸を整える。

 いつの間にか立膝でそろりと自分の背後に回った弟たちが「エール兄、殺れっ!」「エール兄さんガンバレー」と、柔と剛を織り交ぜた声援を送る。


 互いの手のひらが触れ合うギリギリの距離で繰り広げられる攻防は、熾烈を極めた。

 その圧倒的な力を見せ付けられ、臣下たちはやはり彼らが神の域にいる存在なのだと知る。

 襲い掛かる国王の水球は竜のようにうねり、受け止めるエールの盾は虎のように吠える。


 まさに、竜虎の戦い。

 息を呑む臣下たちの前で、国王とエールは同時に瞳を輝かせた。



 ――これが、最後だ!



 双方、持てる限りの魔力を注ぎ込む、最後の魔術。

 生み出された水色の光は、太陽光をも蹴散らし、その場を青く染めた……。


 と思いきや。


 するりと伸ばされた、細い腕が2本。



「……遊びはここで、終りにしようぜ?」



 黒騎士の声と共に、固い豆が残るその細い指先が、2種類の水に触れる。

 同時に、何もかもが消え去った。


 魔力を使いすぎたせいで、靄がかかる目を凝らして、2人はその手の先にあるものへと視線を移す。

 見つけたのは……悪魔の微笑み。


 じりじりと膝で後退していく国王たちに、「息の根止めて……」と詰め寄りかけた黒騎士サラは、ハッとしたように瞳を見開く。

 その白く細い両手を、2人に向けて伸ばしたまま、取り繕うようにお姫さまスマイルを浮かべた。



「すとっぷ・魔力の無駄遣い!」



 両手を広げて笑みを浮かべるサラは、まるで神殿に飾られる壁画の女神のよう。

 争っていた2人だけでなく、見守っていた全員、胸のドキドキが止まらない。

 「これが吊橋効果ってヤツなのかな?」と、トキメク胸をおさえながら、クロルは呟いた。



 その後、再び侍従長火山が噴火し「ゴメンナサイ」と頭を下げる4人。

 竜虎の戦いは、こうして決着したのだった。


 臣下たちの1人、サラのキノコ姿を描いた騎士は、後に『竜と虎を従える女神』のイラストを描いた。

 そのイラストが予想外の人気を博し、王城内のタテワリ解消に一役かったのはナイショの話。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











 予告に反して、バカバカしいネタをもう1個。本当はこのシーン、3行だったのに……。どうやらアホな話を書きたいという欲求が、予想以上に溜まっていたようです。ストーリー進行妨げて、申し訳ありません。第三章スタート時は、大黒柱4本がこんなにアホなキャラになるとは思わなかったです。でも良く考えたら、国王様は若い頃やんちゃな下町暮らしだし、クロル君以外はみんな田舎育ちだし、そのクロル君も兄の影響受けまくりだし……こんなもんでしょう。ここで宣言しますが、これ以上重要キャラ増やしません! なぜなら、書き分けに限界を感じているため……この件は全て無謀なチャレンジの結果として、真摯に受け止めさせていただきます。今回のネタ補足「遊びはここで終りに〜息の根止めて」の台詞ですが、爆竹というミュージシャンの歌から。あの曲、衝撃的でした。

 次回こそ、クロル君主役の短編スタートです。このやり取りの直後から。もう本当にお笑いはナシ……いや、極力ナシで進めますので……。

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