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第一章(7)アクシデント

一瞬だけ、ウニウニ系軟体モンスターが出てきます。軟体足無し生物苦手な方はご注意を。

砂漠でのラクタの旅は、過酷だった。

暑い日中と、寒い夜間に、こまめに休憩を取りながら少しずつ進む。

その方が、ラクタの体力の消耗が防げるらしい。


風が吹くときも、あまり進めない。

ラクタの目や口に砂が入ると、繊細な性格のラクタは進むのを嫌がるのだ。

しかし、進まなければ水も食料も補給できない。

サラは、空腹と喉の渇きを常に感じながらも、ぐっと我慢してラクタの背に乗り続けた。


お尻は擦れて真っ赤になっているだろう。

ラクタが1歩進むたびにチリチリと痛む。

緊張させ続けている、肩と腕と足の筋肉がつらい。


一方、サラより体力の無いリコは、自分の体が軽くなる風の魔術を使って耐えていた。

魔術というものは、自分にかけるより人にかける方が難しく、リコも自分にしかかけられない。

万が一のときのために魔術の消耗を控えておかなければならないためだ。


あまり魔力の無いカリムも、風の精霊の加護を受けた剣と指輪を持ち、ごく簡単な風の魔術が使えるらしい。

この旅でも、ラクタへの負担を軽くするために自分に魔術をかけている。


純粋に、自分の体力のみで旅をしなければならないのは、サラだけだ。

ほんの1ミりでもお尻が浮かんでくれたらいいのにと、魔術にまったく縁が無いサラは悔しく思った。


  *  *  *


今日はもう5日目だ。

サラは、カリムに質問した。


「進み具合は、順調なの?」

「順調かといえば、そうなのでしょう」


この問答は、毎晩の休息前に必ず行われる。


カリムの言う順調は、想定内という意味だろう。

3人とも疲れているとはいえ、体調は悪くないし、ラクタにも故障などトラブルは無い。

ただ、サラが聞きたいのはどの程度進んだのかということだ。


あたり一面、砂漠。見渡す限りの砂山。

何度砂山を越えても、緑色の物体は1かけらたりとも見当たらない。

全身砂にまみれてじゃりじゃりし、鼻の中も口の中も、当然じゃりじゃり。

いくら体をすっぽり覆うマントがあっても、いつの間にか砂が入り込んでくる。


肌もすっかり乾ききってガサガサだ。

口の砂は、唾液も出ないので吐き出せない。

会話をすると喉がいがらっぽく、咳き込みそうになる。


もし順調に進んでいて、10日で目的地の国境につけそうなら、もう少し水を飲んでもいいのではないか?

サラは、その台詞を何度も言おうとして、理性でおさえた。


カリムもリコも、砂漠越えは初めてだ。

知識として地形を叩き込み、太陽や星の位置から進行方向を確認するだけ。

今どこにいるかなんて分からず、サラの質問に答えられるわけがない。

何が起こるかわからない状況では、食料は節約して余裕を保ちながら進むのは当たり前だ。


  *  *  *


「ちょっと失礼してきます」


リコが2人から少し離れた。

おトイレは、サラもリコも、もう慣れた。

少し砂を掘って穴をつくり、そこにマントをかぶせるようにしゃがみこんで……


「私は寝る準備を」


カリムは、4頭目のラクタの背中から、3人分の寝袋を取り出す。

この世界にチャックなんてものはないから、もぞもぞとミノムシのように袋に入り込むのだが、重たいわりに保温性が悪く、夜はあまりにも寒くてちっとも寝付けない。

どうせなら、3人分の大きい寝袋を作って、身を寄せ合って眠った方がいい。


もしトリウムで無事に使命を果たして帰ることができたら、帰りの旅までにこの寝袋は縫い直そうとサラは思った。

いや、もしかして寝袋を縫い直すよりも……


「カリムって、筋肉あるし、体温高そうだよね」


サラは、思いついたことをそのまま口にした。


「ちょっと試しに、今晩一緒に寝てみない?」


寝袋を並べていたカリムが、一瞬固まった。

魔術師に打たれたアザの痛みも忘れて、サラはすっかり元の口調にもどっている。

もちろん発想も、深窓の姫君のものではない。


「あっ、それはずるいですサラ様!」


おトイレから帰ってきたリコが、砂に足をもつれさせながら駆け戻ってきた。

リコはかなり耳が良いらしい。

それとも、聞き耳も魔術のひとつなのだろうか。


「サラ様と一緒に寝るのはワタシです!」


リコは、カリムを睨みつけながら、ちょっとずれた主張をした。

カリムは無言で、寝袋の中に1人入ろうとする。


「待ってカリム、一緒に寝ようよ。寝袋破いてお布団にすれば」


そこまで言ったサラは、ぴくんと身体を振るわせる。

サラの表情を見て、カリムもリコも、すかさず周囲を見渡した。


  *  *  *


「誰っ!」


砂に楔を打って止めていたラクタは、既に足を折りたたんで眠っていた。

3頭はそのまま。

しかし、荷物を積んだ1頭は、首から血を流して息絶えている。

ついさっきまで生きていたのに。


その傍には、砂と薄闇に紛れるようにうごめく奇妙な物体があった。

ドラム缶くらいの大きさで、横に波打つように動いている。

少しずつ、砂の中に沈んでいくようだ。


「くそ、サンドワームだ!」


カリムが叫ぶと同時に、懐から剣を抜き出し、うごめく物体に襲い掛かった。

瞬きする間に、距離を一気に詰める。

ギョワッという怪物の声が響く。

断末魔の声だ。


「サラ様!大丈夫ですか!」


リコが駆け寄ってきて、サラの体を抱きしめたが、サラは放心してカリムを見つめていた。

剣先を振るって、怪物の体液を落とし、剣を鞘にしまうカリム。


サラは、恐怖に固まっていたのではなかった。

カリムの、あまりの素早さと太刀筋の正確さに見惚れていたのだ。

サラも道場で少し剣を習ったが、そんなものとは比較にならないスピードと威力。

これが、風の精霊の加護というものなのだろうか。


ペチペチとリコに頬を軽く叩かれて、サラはぷるっと首を振った。


「大丈夫、少し驚いただけ」


リコは安心したものの、ちょっと名残惜しそうにサラの頬から手をを離した。


「さっきの、あれはなに?」


戻ってきたカリムに聞くと、カリムは申し訳ありませんと苦い表情で呟いた。

どうやら、サラには黙っていたものの、この砂漠には巨大なミミズのような怪物が出るようだ。

しかし、本来ならその生物は暗闇を好むため、砂の中に深くに隠れたまま生きている。


「地下の水不足で、地上へ出てきたのでしょう。水を入れた皮袋は運よく他の荷物に紛れた1つを残して、残りの3つはすべて空ですし、それでも足りずにラクタの血液を飲んでいたようです」


サラもリコも、言葉が出なかった。


順調だった旅は、5日目の夜から、順調でなくなってしまった。



リコは、サンドワームの死骸の近くから、少しだけ魔力を感じたような気がしたが、気のせいだろうと頭を振った。



↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











サラちゃん寒いの苦手です。しかもまだまだ子ども。

アイツは、うー、気持ちわるっ・・・自分が苦手なくせに。でも砂地といえばアイツじゃね?でっかいサソリが血ーすーたろかでも良かったか?

次回、サラちゃんかなり壊れます。白衣の天使と聞いて、すかさずエロな妄想しちゃう人にはぜひ。

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