表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠に降る花  作者: AQ(三田たたみ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/198

第三章(25)つかの間の逢瀬(前編)

 夢を見ているのではないかと思った。

 自分にとって都合の良すぎる、幸せな夢を。


 サラは一度目を閉じ、再び開ける。

 大丈夫、まだ感覚は残っている。

 小さなランプの灯りだけが頼りだが、この室内で起こっていることを把握するくらいならできる。


 ――あの人が、ここにいる。


 涙でぼやける視界の中に、閃光が走ったような気がした。

 サラにも見えるくらい強い、光の精霊の束。

 盗賊の砦で見た、あの光だ。


 どさりと何かが床に落ちるような音と同時に、光は消えた。

 再びサラの視界は暗く霞み、かすかな灯りに頼らざるを得なくなる。

 唯一通常の感覚が残っている両耳が、心地よい音色を拾い上げた。


「よお、サラ。危ないとこだったな」

「バカ……」


 嬉しいのか、悲しいのか、悔しいのか、サラにも分からなかった。

 ただ、溢れる涙が止まらなかった。


  * * *


 ジュートのことで心が埋め尽くされる前に、サラは確認しておかなければと、懸命に言葉を発した。


「ね……2人は、だいじょぶ……?」


 高さのあるベッドに寝転んだサラからは、床に倒れているであろう2人の姿は見えない。


「ああ、ちょっと気を失わせただけだから、すぐに起きるだろ」


 ジュートの言う”ちょっと”がどの程度なのか分からないが、命に別状は無いだろう。

 ホッと息をつくサラの瞳に、深く澄んだ緑色が飛び込んできた。


 いきなり、至近距離っ!


 その瞬間、サラの心拍数は、三分間走直後を越えた。

 もしも体が動かせるなら、ベッドの端までゴロゴロと転がって、壁と床の隙間に落ちていたかもしれない。

 ジュートはベッドに寝転んだサラの脇に腰掛けると、斜め上からサラを見下ろしている。


「サラ、お前何もされてねーだろうな?」


 そう、この瞳だ。


 闇の中でもくっきりと光輝く深い緑。

 切れ長の目にかかる、瞳と同じ色の柔らかい前髪。

 少し日に焼けた精悍な表情に張り付いた、皮肉げな笑み。


「うん……ジュート……私は、大丈夫」

「つかお前、簡単に俺の名前呼んでんじゃねーぞ?」


 その台詞に、サラの顔からは血の気が引いていく。


 ジュートの名前は、特別な名前。

 サラだけが教えてもらった……。


「ごめんっ……」

「バーカ、嘘だよ。もっと早く呼べっつーの。罰としてお前しばらくこのままね」


 えっと呟くサラの唇は、もう1つの唇で強引に塞がれた。


  * * *


 柔らかいベッドの上で、両腕を拘束されたまま、サラはただ目を閉じていた。

 淡いランプの灯りの中、聞こえるのは2つのかすかな吐息。

 ときおりギシリと鳴るベッドのスプリング。

 サラの服と、ジュートの服がこすれあう衣擦れの音。


 サラの短い髪を、細い首筋を、骨ばった背中を撫でていく、大きな手のひら。

 そして、唇からは、絶え間なく流れ込み続ける情熱。


 サラは、目を開けてしまうのが怖いと思った。

 これがもし夢だったら、神様は残酷だ。

 もしも夢だとしたら、どうか醒めないで。


「サラ……」


 低く掠れた声に呼ばれ、サラは恐る恐る瞳を開いた。

 睫に絡みついた涙が雫になって、こめかみの脇を流れ落ちていく。

 その涙を、少しかさついた熱い唇が掬い取る。

 そのままこめかみへ、頬へ、そして先ほどエールに痕をつけられた部分へと、唇は移動していく。


 皮膚感覚が少しずつ戻ってきたサラは、くすぐったさに少し微笑んだ。

 笑顔のサラを見つけて、ジュートも微笑む。


「ジュート……会いたかった……」


 声を振り絞ったけれど、麻痺した体では小さなささやきがやっとだ。

 でも、こんなに近くにいるこの人は、ちゃんとその声を拾ってくれる。


「ああ、俺もだ」


 その視線は、とろけるように甘くて。

 サラの思考は先ほどまでと裏返り、もう瞬き一つしたくないと思った。

 この手が動くなら深い緑の髪をかきあげて、この瞳をもっと近くで見つめたいのに……麻痺した体がもどかしい。


 サラは、ささやかなお願いを伝える。


「腕の紐……解いてもらえる……?」

「おっと、そろそろ時間かな」


 ――なにいっ!


「残念だけど、そう長居もできなさそうだ。お前の顔見れられて良かったよ。じゃなー」

「ちょっ……待って!」


 サラは、火事場の馬鹿力というものを、生まれて初めて発揮した。

 拘束されたままの手と違って、自由に動く足の片方がドライブシュート並にうねり、ベッドから降りようと背を向けたジュートのお尻にヒット。


「いてえ……」


 不機嫌そうにサラを睨みかけたジュートだったが……少し腰を屈めると、ニヤッと笑った。

 薬のせいで鉛化した足は、蹴り上げた角度のまま戻って来ない。

 サラのワンピースは、太ももまでめくりあげられ……。


「ふーん。お前いっちょまえに、黒い下着なんてつけ」

「バカァッ!」


 サラのスカートの中を覗き込んだジュートの顔に、もう片方の足がタイガーショット並の強さでクリティカルヒットした。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











 うなぎは関東風に、一度ふっくら蒸してから炭火でじっくり焼き上げてと……。あっ、うなぎの肝吸いね! おまちどおさん! うん、苦い。今までで最強の苦さ。でもさっきまでベタベタに甘いミカン缶汁飲んでたから、中和されてちょうどいい……はー。一切話の進まない回でした。というか、ジュート君はサラちゃんのピンチを助けて、ちゅーして、役得すぎです。もっと蹴り入れてもいいくらいか。補足ですが、ドライブシュート&タイガーショットとは、キャプ○ン翼という昔のサッカー漫画の必殺技です。たぶんかなり痛いと思う。あとサラちゃんが履いてた下着は、例の”必殺下着人シリーズ”の1人……1枚です。もちろんヒモパンです。「シュリンッ!」と音も無く紐が解かれる日は……来ません。この話R指定NGですから。

 次回、ジュート君とのつかの間の逢瀬終了。次に会えるのは……いつかなー。(作者遠い目)可哀想なマリオネット・エール君もそろそろ起こさねば。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ