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第三章(23)サラ姫の役割

 どうやらサラが”サラ姫”ではないことは、とっくの昔に気づかれていたらしい。


「君、自分の行動振り返ってみなよ。どこをどう見たら姫なの?」


 クロルの毒舌に、サラはその通りですと呟く。


「とりあえず、全部吐いてもらうからね」


 誰にも言わないという条件を念押しした後、サラはクロルに簡単な身の上話をした。


 サラ姫のそっくりさんとして、異世界から召喚されたこと。

 召喚の贄として、サラ姫の命が使われたこと。

 召喚条件である和平を実現しない限り、サラは元の世界へ帰れないこと。


 異世界召喚の話になったときこそ、クロルはぴくりと眉を動かしたが、それ以外は冷静だった。

 サラを見つめたまま、腕組みをして真剣に耳を傾けている。

 その頭脳は、きっとフル回転していることだろう。


「異世界から召喚された……か。なるほどね」


 話を聞き終わったクロルは、厚手の上着を脱いだ。

 後方へと乱暴に放り投げられるそれを、サラは似合っていたのにもったいないと思いつつ見送る。


「面白いな……うん、ようやく分かった。黒騎士の強さの秘密が」


 クロルの発見した秘密は、鋭い言葉の矢となって、サラの心に突き刺さった。


「君は、死ぬことが怖くないんだろう? 例えばこの世界の死が、元の世界へ戻るきっかけになると思ってる」


  * * *


 命を投げ出すような戦い方で掴んだ、紙一重の勝利。

 サラ自身は、気づかなかった。

 精一杯戦っていたつもりだったから。

 客観的に、冷静に見ていたクロルだったからこそ気づいた、サラの慢心。


 違うと否定したいけれど、できない。

 サラ姫にも、月巫女にも……何をされても平気と思ってしまうのは、クロルの指摘通りだった。

 この世界の全てから、自分は一歩距離を置いている。

 いつか無事に解放されるだろうと、根拠の無い自信を持っている。


 だからこそ余裕があったのだ。

 普通なら、発狂してもおかしくないような、この過酷な状況の中で。


「あ、責めてるわけじゃないよ? いきなりそんな状況になって、大人しく従ってこんなところまで辿り着いたこと、本当に尊敬するよ。むしろ、惚れ直したかも」


 クロルは無邪気に笑って、サラの包帯に、軽くキスを落とす。

 頭がうまく働かないサラは、クロルの刺激的な行為にもノーリアクションだ。


「てっきり、ネルギか大陸の方から連れてこられたのかと思ってたけれど、異世界か……どうしようかな。父様もまさか、そこまでは考えてなかっただろうなあ」


 サラの手元にある冷えてしまった紙コップのお茶を取り替えながら、クロルはぶつぶつと呟いている。


 サラの瞳に映るのは、空中から水球が現れ、炎に包まれて熱湯になるという、ごく簡単な魔術。

 こんなもの1つだって、本当なら死ぬほど驚くはずなのに。

 やけに順応性が高いと思っていたけれど、そうじゃなかった。


「私にとって、この世界で起こることは、全部夢でしかない……」


 呟いた言葉尻に、涙が滲む。


「目覚めれば、全部消えてなくなる、ただの幻……おかしいよね。みんなここで必死に生きてるのに」


 明るく言おうとした声は震え、笑顔は泣き顔に変わった。

 浅く吐息をつき、両手で顔を覆うサラ。


 クロルは、お茶を注ごうと魔術を繰り出していた手を止めた。

 パシャリと音を立てて、床に飛び散る生温いお湯を気にせず、サラの震える肩を静かに抱き寄せた。


「ごめんね。泣かせるつもりじゃなかった」


 クロルの胸のリボンタイが、ちょうど良いハンカチ代わりになって、サラの涙を吸い取っていく。

 抱き寄せられる腕の先が、サラの背中を優しく撫でてくれるのが心地よい。

 この手が、夢だなんて……そんなことがあるわけない。


「君が元の世界に帰りたいなら、僕は……協力するよ」


 思わず顔を上げたサラ。

 涙でぐしゃぐしゃになったその表情を見て、クロルは苦笑する。


「まずはさっさと和平を達成して、君にかけられた変な縛りを取っ払おう。ね?」

「クロル……王子っ……」


 サラの声は、しゃくりあげる喉につられて裏返る。

 クロルはサラの顔を見つめながら「ブサイク」と呟くと、涙の流れ落ちるその頬に、小さくキスをした。


  * * *


 クロル王子の隠れ家で、気が済むまで泣いて。

 その後、おろおろするコーティに連れられて部屋に戻ってから……一晩かけて、考えたくないことを乗せていた棚の上を整理した。


 私は、この世界を舐めてた。

 それを率直に反省して、この世界の全ての生命に土下座。


 長時間の土下座から立ち上がると、しびれる足で部屋の窓辺に歩み寄る。

 目の前に広がる、朝焼けの空と緑の大地見つめながら、サラは呟いた。


「決めた……もう、地球には戻らない……」


 戻れたら、それはそれで良し。

 戻れなくても構わない。


 ――私は、この世界で生きていくんだ。


 握りこぶしを作ったサラに、ドンドンとドアを叩く音とともに「サラ様、朝ですよー」と、リコの声が聞こえた。



 決戦前日。

 サラは普段よりいっそう気合の入った衣装を着せられ、デリスの付き添いの元でいろいろな人物と面会した。


 侍従長、魔術師長、文官長、そして騎士団長に返り咲くことが内定したバルト。

 彼らが、それぞれの取り巻きを連れて会いにきた理由は……。


『どうかサラ姫様は、○○様をお相手に選んでいただきますよう……』


 その○○様というのが、立場によって変わる。


 侍従長は、国王様。

 魔術師長は、エール様。

 文官長は、クロル様。


 唯一、騎士団長バルトだけは「リグ……いや、サラ姫様の選ばれる相手なら……」と、お茶を濁した。


「デリス……国王は、あの話無かったことにしてくれたんじゃないの?」


 白いラウンドテーブルにぐったりと体をもたれかけながら、サラはいそいそとお茶の用意をするデリスに問いかけた。


「国王様は、一度やると言ったことはやる方ですので、お疑いになりませんように。ただ……彼らは考えたのでしょう。次期国王にどなたが選ばれるかだけでなく、サラ姫様が選ばれる方も大事だと」


 デリスの言いたいことが分からず、サラは首を傾げる。


「つまり、サラ姫様と結ばれた方との間にできたお子様が、次の次のお世継ぎとして……」

「ちょっと待った!」


 想定外の話に、興奮して立ち上がったサラ。


「どうしてそんな話に……」


 デリスは、お茶を淹れる手を止めない。

 やわらかい湯気と、芳醇な花の香りが立ち込める。

 その香りを嗅いで、少し落ち着いたサラは、再び椅子に腰掛けた。


「簡単にご説明いたしましょう」


 サラの部屋に定番化しつつある、スコーンをつまみながら、サラはデリスの話を聞いた。


「この国の次期国王は、現国王の指名によって決まります。次期国王は、直系や実子に限らず、能力があると国王に見初められた者が選ばれるのです」


 もし、国王が見知らぬ誰かを連れてきて『この人物に国王を譲る』といえば、それは通ってしまう。

 そのくらい、国王の権限は強いのだ。

 「サラが選んだ者を、次期国王に」というふざけたルールが通ってしまうのも、国王の権力の強さゆえ。


 ただし、国王の決定に不服がある場合、部下達からストップをかけることもできる。

 今日訪れた4名の各部門長は、1人1票の拒否権を持ち、4名中2名の合意で再検討を促し、3名以上の合意が得られれば、国王の決定は覆せるという。


 しかし、その権利が使われることはほとんど無い。


「歴代国王は聡明な方ばかりで、異論を挟むような余地はありませんでした。もしも……亡くなった王弟が国王となっていたら、分かりませんでしたが……」


 現国王ゼイルは、その点抜かりない。

 姉の子どもである王子たちを、わざわざ養子に迎え入れるくらい、根回しはキッチリ行うタイプだ。


 そんな国王だからこそ、次期国王決定権をサラに投げたことも、何らかの意図があるはずと部下達は考えたようだ。

 国王自身は、単にエール王子と魔術師長を揺さぶるのが目的と言っていたが、深読みしようと思えばキリがない。

 しかも、会議前日にその条件を撤回するとなれば、部下達が混乱するのもあたりまえだろう。


「そこで、彼らは考えたのでしょう。サラ姫様のような稀有な力を持つ方のお子様が、次代のお世継ぎとなるならば、この国にとってプラスになると」


 口の端からボロリとスコーンのかけらが零れたが、気にする余裕も無い。

 サラは、再びぐったりとテーブルにつっぷした。


「もう一つ付け加えるなら……サラ姫様を”ネルギ国そのもの”と見る方もいるのではないかと。つまり、サラ姫様を得る方は、一国を得ると」


 ずいぶんきな臭いことを、淡々と告げるデリス。


「バカなことを……私には、そんな力は無いのに……」


 思わず呟いたサラだったが、ありえない話ではないなと思いなおす。


 サラが棚の上にあげていたことの1つが、具体的な和平案の中身だった。

 そのあたりは、明日以降、国王や文官たちと話し合えば良いと思っていたのだが……。


 オアシスの国から水を分けてもらう代わりに、砂漠の国はいったい何を差し出さなければならないのだろうか?


  * * *


 思い悩むサラの邪魔をするように、ドンドンと激しくドアをノックする音が響いた。

 それは、毎朝サラが耳にする音。

 「どうぞ」と答えると同時に、飛び切り明るいリコの笑顔が飛び込んできた。


「サラ様! あっ……デリス様、すみません。お客さまをご案内して参りました」


 また新たな重鎮が来たのかと、居住まいを正したサラ。

 ドアの隙間から、きょろりと顔をのぞかせたのは、なんとも懐かしい糸目の男だった。


「おっす、サー坊! いや、サラ姫様っ」

「リーズっ!」

「サラ姫様、はしたない!」


 キツイお叱りの声をスルーして、サラは邪魔なドレスの裾を豪快に持ち上げながら、リーズに駆け寄った。


「すげーな、サー坊がお姫さまに見えるや」


 えへへと笑うサラの頭を、よしよしと撫でるリーズ。

 隣に居るリコも、嬉しそうにリーズの糸目を見上げている。


 王城に来るというのに、いつもどおりの小汚い大工スタイル。

 腰につけたウエストバッグのポケットがスカスカなのは、大工道具を全て武器として取り上げられてしまったのだろう。


「今朝いきなり呼び出されて、ビックリしたよ。どしたの? サー坊?」


 どうも姫様という言葉が言いにくいらしく、リーズの口調は自治区に居た当時に戻っている。

 そんなところも、サラにとっては心地良かった。


「あれ? リーズに来て欲しいって伝言頼んだの、一昨日だったような……」


 サラが呟くと、隣に居たリコがそっと顔を反らす。


「リコ?」


 背の高いリーズが、腰を屈めてリコの顔を覗きこむと、リコは顔を真っ赤にしながら懺悔した。


「あの……アレクも一緒に、呼び出したんです。ちょっと顔が見たいなって……でも、許可が下りなかったみたいで……手間取らせちゃったんです、ゴメンナサイッ!」


 サラは、恋する乙女なリコのいたずらに「カワイイ!」と叫んでリコを抱きしめ……リーズは、胸ポケットのスプーン猫ズに「ドンマイ」と慰められていた。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











 いろんな話がちょこちょこと……幕の内弁当みたいな回になってしまいました。まずは、クロル王子とデートのシメ。キツイこと言わせて泣かせて、どさくさで抱きしめてホッペにちゅーさせてみました。なんとなくSなにほひ……まいっか。デリスばーちゃんとは、政治&戦後処理の話を少し。本当は王様とガッツリ話すはずだったけど、第三章ではこのくらいにしておきます。サラちゃんには、少しずつこの世界で生きていく覚悟をさせつつ。最後は、大好きな癒しキャラのリーズ君登場です。あー、一気になごむ……筆進む……という中途半端なところで、次回に続く。

 次回は、リーズ君ちょっぴり活躍の後、決戦前夜のサラちゃんを訪ねてくる怪しい人物が。ドキドキ。ロマンチック夜這いモード?

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