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第一章(5)滅びゆく砂漠の国

ちょっと魔法系で、大きな効果あげようと思ったら、それなりに犠牲が・・・というごく軽い表現があります。ご注意を。

サラが『サラ姫』となり、7日が過ぎた。

その間、カナタ王子、サラ姫、そして名前の分からない魔術師の老人から特訓をうけた。


まずは読み書き。

幸い話し言葉はある程度通じるようだが、文字ははっきり読めない。

ひらがなに、見たことの無い記号が混じる。

その記号部分は、日本語の漢字部分にあたるようだ。

ひらがな部分だけでも、簡単な文書は読めるので、あっさりと文字の勉強は免れた。


さらに、この国の姫としての立ち居振る舞いも身につけた。

簡単にいうと、サラ姫そのものになることが求められた。

食事のマナーなど、マニュアルを頭に叩き込めば身につけられることはともかく、サラ姫の行動は真似することができなかった。

なにせ自分とは、思考がまったく違うのだ。


7日間ずっとサラ姫と寝食をともに過ごし、サラ姫の行動やしぐさ、口調を真似るようにと魔術師の老人から言われ続けたが、ついにはそれを諦めた。

深窓の姫君であるサラ姫の情報は、隣国トリウムはもちろん、ネルギ国内にもほとんど出回っていないので、浅いモノマネレベルでも問題はないだろうとのこと。


サラ姫は、自分と本当に似ているサラの存在が、本音では気に入らないらしく、サラが魔術師から容赦なく叱責され、硬い杖で背中を打たれるたびに「ばかね」と嬉しそうに笑った。


  *  *  *


王宮でも、ごく限られた人物としか顔を合わせていないサラが、唯一まともな人物と認識したのは、カナタ王子だ。

召喚後すぐに、病床で意識が無いという王への面会に付き添ってくれたとき、一瞬サラ姫が離れたすきに、この召喚の目的を説明をしてくれたことも、サラのモチベーションに繋がった。


今回あの魔術師は、失敗するとサラ姫の命を失うことを条件として、サラを呼び寄せたそうだ。

ネルギ国最高の魔術師とはいえ、もっとも大事なサラ姫を贄として差し出さなければ、サラを呼び寄せられなかったくらい、難しい魔術だった。


なぜそれほどまでに、難しい魔術を実行したのか?

理由は、トリウム国へ向かった和平の使者が「王族の訪問で無い限り信じるにあたわず」と返答してきたことだ。


ネルギの王族は近年、次々と原因不明の病で倒れ、今では国王と、カナタ王子、サラ姫の3人しかいない。


王は現在病床にあり、ベッドから上半身を起こすこともできない。

それ以前に、話しかける言葉を認識しているかも分からないくらいだ。

となると、残るのはカナタ王子かサラ姫。


現在、王の代わりにほとんどの政務をこなすカナタ王子が使者になっては、この国の政治は立ち行かなくなる。

それ以前に、もしカナタ王子の命が奪われたら国はおしまいだという側近たちの懸念もあり、カナタ王子は王宮から一歩も出られない状況にあった。


消去法で、白羽の矢はサラ姫にたった。

しかしサラ姫は、深窓の姫君だ。

まだ15の成人を迎えたばかりの、幼く肌の白いなよやかな姫に、過酷な砂漠の旅ができるわけがない。

例の魔術師を含め、側近たちは断固反対した。


なにより、サラ姫には彼女にしかできない大事な役割があった。

現在病床の王は、サラ姫の問いかけにだけ反応し、短い言葉を返すのだ。

王と会話をし、王の言葉を伝えることが、サラ姫の重要な仕事だった。


サラが王に面会させられたのは、王がサラにも反応するのではという、ささやかな期待もあったから。

しかし、見た目だけそっくりなサラが話しかけても、王が反応しないことを確認して、カナタ王子は酷く落ち込んだようだった。


「病床にあるとはいえ、王の存在や指令は絶対。若干20才の私には、まだこの国の運営すべては荷が重いのです」


苦しい事情を聞かされ、なぐさめの言葉をかけようとしたとき、サラ姫が飛び込んできて、サラをけん制するように王子にまとわりついてきたのだった。


  *  *  *


サラは、短い時間でこの国の事情を、ほぼ把握していた。


重要な立場のサラ姫には、カナタ王子も側近たちも、何も言えない。言わない。

無茶なことを言っても、苦笑しながらあしらう程度だ。

カナタ王子も、サラ姫のわがままを可愛いものと受け入れていることがわかる。

異界から来たサラから見て、それがどんなに残虐な恐ろしい行為であっても。


今、この国では、サラ姫は巫女のような立場なのだろう。

神である国王の言葉を、唯一聞きだせる存在。

しかも、国で一番の魔術師を従えて、自分の思うままに操れる、影の権力者だ。


カナタ王子も努力はしているのだが、数年前までは王も2人の兄王子も健在だったため、サラ姫と変わらないくらいわがままに、気楽な生活を送っていたらしい。

しっかりした言動の合間に、誰かに頼って生きてきた人間の甘さや弱さが感じられる。


「異国のサラ姫、あなたを元の世界にお返しするためには、サラが召喚時に命じた契約を遂げること。つまりサラの身代わりとなってトリウム国へ行き、和平を成し遂げるしか方法がないのです」


カナタ王子は、危険な旅になるだろうと言った。

そして、サラには選択肢が他に無いことも。


サラを呼び寄せた魔術は「サラ姫の身代わりとなり、ネルギ国とトリウム国を和平に導く者を求める」という召喚条件だった。

サラが行かないなら、サラを元の世界へ返すための魔術が必要だ。

それには、再びサラ姫の命という強大な贄が必要。


しかし、サラ姫の命は「サラの呼び寄せ」に使われていて、別の魔術には使えない。

代わりの贄となる人物がいれば良いが、サラ姫の命が必要なほど大きな魔術の贄となれるような存在はいない。


この召喚の目的である「トリウムとの和平」が成されれば、契約は完了する。

サラ姫の命は、再び魔術の贄として使えるようになるため、サラを元の世界へ返す魔術も可能になるという。


サラは「行きます」と言わざるを得なかった。


  *  *  *


そしてサラは、カナタ王子から、この国や大陸の地理、歴史、今おきている水不足と戦争の状況、トリウム国の内政についてなど、社会面を学んだ。

大澤パパの影響でもともと政治経済に強かったサラは、サラ姫に睨まれ続けるという強い緊張の中でも、しっかり知識を吸収していった。


砂漠の国ネルギは、この大陸の東の端に位置する半島の、細長い国だ。

地球と違って海はなく、北・東・南を霧にかこまれている。

その霧の向こうに何があるかは誰も知らず、冒険に挑んで帰ってきたものも居ないそうだ。


L字型の半島の、西側に隣接するのは、オアシスの国とも言われている、トリウム国。

戦争が起こるまでは、両国の関係は良好で、商業も盛んに行われていた。


しかし少しずつ、確実に、ネルギ国の井戸が枯れてきた。

井戸が枯れれば、食物も育たず、人は減るばかり。

水を得ると同時に、疲弊していく国民の不満の矛先を変えるために、ネルギ王はトリウムへの戦争を開始した。


トリウム国の北部には、精霊が住むという緑の森があり、そこがトリウム国の水源と言われている。

その水源をひとりじめしているトリウムが悪いという理屈だ。


  *  *  *


サラ姫は「民は、トリウムには溢れるほど水があると言えば、喜んで戦いに行くのよ」と補足のように言っていたが、その言葉は確かに正しい。

生きるために、水を得にいくというのは、戦争の大儀になるだろう。


ネルギには多くの優秀な魔術師がいて、魔術師が軍を率いたことで、開戦当初は優勢だった。

しかし、トリウムは資源の豊富な国だけに、砂漠の民のしかけた戦いにも抵抗できるだけの力がある。


戦争が長引くにつれて、国の中枢も焦りだす。

戦って奪いとるより、水も国力も尽きる方が早いかもしれないと判断したのが、つい最近のこと。


この国の滅びは近づいていた。

和平の使者が、最後の頼みの綱だった。


サラは大まかな話を聞いた後、内心「どんな国でもトップがアホなら国は滅びるのね」と思った。

もう10年も病床に臥しているというあのネルギ王が、国の姿を実際に見ることは無いだろう。

自らは現場に立たず、戦争というシュミレーションゲームをしているようなものだ。

国民は振り回されて、苦しめられて、死んでいくだけ。


サラ姫が『召喚』に踏み切る前に、国内で集めたというサラ姫似の少女たちも、現在は戦地にいる。

きっと美しかったであろう少女たちは、サラ姫の姿を見て、その行為を知ってしまったがために、目をつぶされ、口を利けなくして戦地に送られた。

少女たちの末路は、大きな攻撃魔法の贄になることだと聞いて、サラはその日の食事を戻してしまった。

サラ姫と同じ、贅沢な食事だから、そんなことはしたくなかったのに。


  *  *  *


この戦いを止めるためには、本当にサラの力が必要なのだろう。


母の物語のサラ姫と同じように、小さな胸に決意を秘めて、サラは『サラ姫』として砂漠へ旅立つことになった。



↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











サラ姫ちゃん、実はお仕事もしてました。(仕事量)ちょっとちょっと(なのに)特別なオンリーワン♪こんな仕事ないかなー。

世界観も、こんなんで良かったのか。あまり政治経済得意でないひとが書くとこうなりますという反面教師にしてください。

地理わかんなくても話はサクサク進むんで、もう全然読み飛ばしてくれてOKです。

次回は、超重要人物2名登場です。地味に女子モテあり。

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