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第二章 閑話2 〜名探偵サラの事件簿(後編)〜

いきなり自分を「探偵」と名乗った黒騎士。

それまで容疑者扱いされていたこともすっかり忘れ、得意顔で指示を始めた。


「皆さん、その場に座ってください。いいですね?」


あんぐりと口を開けてサラを見つめていた全員、有無を言わせぬ探偵の要求に答える。


ああ、なんて面白いんだろう。

彼女の行動は、まったく読めない。


魔術師ファースも、切れ長の目を細めてニヤリと笑いながら、その場に座り込んだ。


 * * *


「今からワタクシが、このダイスを使って、犯人を当ててみせましょう……」


ステージ上のバリトン騎士と、その隣にいる車椅子の男2人に向かい、優雅に礼をするサラ。

あの日ジュートがしたように、ダイスにフッと息を吹きかけ瞳を閉じる。


「我は命じる。この2名の騎士を襲った犯人を、見定めよ」


サラがダイスを放り投げると、ダイスはゆっくりと転がりながら、迷うようにあちこちと向きを変えた。

サラの隣に居た野猿な大男、魔術師ファース、緑の騎士、アリバイ申告した者たちへと、一通り近づいては、ぷいっと気まぐれに曲がり、転がり続ける。

誰かに近づくたびに「ヒィッ!」という悲鳴が上がるのを、愉しむように。


ダイスは、床の上に座った者たちの周りを一通りうろうろすると、ステージの上にぴょこんと飛び乗った。


ダイスが近づいたのは……バリトン騎士。

足元にそろりと寄ってくるダイスを、あたかも日本の夏によく見かける黒い虫のように恐れ、じりじりと後退していく。


「な……なぜ俺の方へ……」


バリトン騎士が、ステージの隅まで追い詰められ、段差に足を取られて転んだ瞬間、ダイスはまたもや反転。

ゴロゴロッと勢い良く転がったと思うと……



『カチン!カチン!』



被害者の車椅子2台の車輪を弾いた。



「くっ……アハハハッ!」


堪えきれなくなった魔術師ファースが、突然笑い声をあげた。

サラも、周囲の人間も、魔術師の奇妙な行動に動揺する。


「俺、犯人分かったわ」


細められた魔術師の灰色の瞳が濁り、暗い闇色に輝く。



「犯人は……俺だよ」



魔術師の瞳が発するのは、紛れも無い狂気。

人を殺すことを厭わぬほどの、殺気。


魔術師の隣に座っていた大男と緑の騎士は、恐怖に顔を引きつらせながら、壁際へ飛び退った。


 * * *


車椅子が音を立てて倒れ、被害者の騎士2名が泣きながら土下座したのは、その直後のこと。


彼らをケアしていた警備の騎士たちも、何も言えなかった。

自力では立てない2人の体を抱き起こし、無言で車椅子を押して去っていった。


今年の優勝候補と期待されていた2名の騎士は、予選で魔術師ファースの出場を知った。

よほど精神的に追い詰められていたのだろうか、このままでは勝ち目が無いと判断した2人は、示し合わせて魔術師を襲ったのだ。

その結果、2秒で返り討ちにあい、再起不能の怪我を負ってしまった。


「そりゃあ、犯人が誰かなんて言えないよなあ」


野猿な大男が空気を読まずに苦笑するが、周囲はシーンとしたままだ。

特に、彼らと同僚だった騎士たちのショックは大きかった。

もしかしたら、2人の騎士を追い詰めたのは、仲間である彼らの「頑張れよ」という些細な言葉だったかもしれない。

騎士たるものナンタラカンタラ……と、座り込んだままのバリトン騎士は、ぶつぶつ呟き続けている。


サラはステージの上にあがり、活躍したダイスちゃんを拾った。

指でヨシヨシと撫でると、後味の悪い雰囲気をごまかすように明るい声で言った。


「もう1つ、事件を片付けてしまいましょうか?」


気まぐれなダイスが、まだその姿を保っているうちに。

もう1つの、より大きな事件の解決を。


バリトン騎士が慌てて立ち上がると、頼むと言ってサラに頭を下げた。


「我は命じる。昨日、オレと2回戦で戦った剣闘士を襲った犯人を、見定めよ」


命じ方が合っているか分からず、サラはやや不安げな表情でダイスを転がす。

ダイスは、放心状態の騎士たちの間をコロコロと転がって行った後、奥のほうに居た男の靴先をツンツンと突付いた。


その男は……



「すっ、スマン!」



泣いてはいないものの、やはり土下座。

バリトン騎士は、もう言葉も出ないようだ。


この世界でも土下座って多用されるものねえと、サラはぼんやり考えた。


 * * *


第二の事件の犯人は、なんと警備隊長の騎士だった。


そもそも、筋肉バカの大男は、死んでなどいなかったのだ。

サラに負けてむしゃくしゃし、街でケンカしていたところを取り押さえられて、現在牢屋にぶち込まれているという。


なぜ殺人事件が起こったなどと嘘をついたかといえば、この茶番パーティをセッティングさせるため。


暴行事件の迷宮入りを感じ、どうしてもサラたち決勝進出者を取り調べたかった警備隊長。

しかし、決勝トーナメントの真剣な戦いを間近で見てきたバリトン騎士は「彼らは無実だ。単に動機だけで疑うのは失礼だ」と、真っ向から対立していた。

警備隊長は、バリトン騎士に取調べを受け入れさせるために、新たに殺人事件が起こったと嘘をついたのだ。


警備隊長の言い訳を聞いて、馬鹿馬鹿しいと誰もが呆れながらも、死んだと思った人間が生きているという情報は会場の雰囲気をすこし和らげた。

サラも、大活躍のダイスを拾いつつホッと息をつく。

魔術師は、うつろな表情で床にごろんと寝転がり、もはや全てがどうでもいいという本音ダダ漏れの態度だ。


ざわつく会場の中で、サラはこっそり、ダイスに最後のお願いと囁いた。


「我は命じる……カリムを襲った犯人を、見定めよ」


ダイスは、転がらなかった。

床の上でしばらく固まった後、ボムッと音を立てて、元の黒剣に戻ってしまった。

どうやら、カリムを襲った犯人はここに居ないようだ。

サラは、ほっとしたような、残念なような、複雑な気持ちだった。


ダイスちゃんありがと!と軽くキスをして、サラは黒剣を懐に差し直した。


 * * *


ふと気づくと、バリトン騎士を筆頭に、騎士たち全員がサラの前に並んで正座していた。

バリトン騎士が「疑ってすまなかった!」と頭を下げると、慌てて部下たちも頭を下げる。


サラは、胸の前で腕組みをすると、あの決め台詞を言った。



「これにて、一件落着!」



騎士たちがヘヘーと土下座する中、サラはカーッカッカッと高笑いした。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











ということで、カンタン謎解き編でした。自分、ミステリー書くセンスは無いです。魔術師君の「犯人は……」の台詞は、トラウマなファミコンDSディスクシステムの怖いゲームから。校舎の鏡の中に……いや、思い出さないにしよ。ファミコンのアドベンチャーはポートピアが有名だけど、あのシリーズが一番怖かったと思います。綾代家の方も……卍の中の印……いや、なんでもないっす。あーファミコンの話しかしてないや。まいっか。カマイタチもだけど、怖いゲームを悪友たちとぴゃーぴゃー言いながらやるのって楽しいです。翌日1人の夜に後悔するんだけどさ……

次回、魔術師君最後の見せ場になります。ムーンでちょっぴりおセンチな気分になってください。ヤクルト飲んだ後レベルの甘ねっとり度です。

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