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第二章 閑話2 〜名探偵サラの事件簿(前編)〜

決勝戦終了後、バリトン騎士に言われた連絡事項は、3つあった。


1つ目は、王城へと出向く日程について。

それなりに準備を整えての豪華なパーティになるため、5日後になるとのこと。

前回優勝者は、パーティを見事にすっぽかしたから幻と言われるようになったのだと、ねちねち愚痴られた。

サラがちゃんとパーティに出るなら、王に願いを伝える機会もそのときに設けてもらえるとのこと。


2つ目は、優勝パレードについて。

3日後に行われるそれは、馬車に乗って王城から市内をねり歩くというもの。

こちらも、前回優勝者は逃げたらしい。

「師匠の尻拭いとして、しっかり国民へサービスするように」ときつく言い聞かせられた。


3つ目は、参加者と騎士たちの交流会について。

これは明後日行われる、内輪だけのカジュアルなパーティだ。

騎士宿舎のホールで、決勝トーナメント進出者全員と、管理運営側の有志が参加するという。

こちらも絶対参加と言われた。


となると、サラの休みは明日と4日後。

4日後は、自治区と道場のイベントを入れられるような気がする。

明日は、パーティの準備やらなんやらで一日潰れてしまうだろう。


そういえば、日本のお相撲さんも、優勝したらしたで大変そうだったな。

バラエティ出てトークしたり、プロ野球選手と歌合戦したり……。


「いいか、絶対にサボるなよ!」と騎士からドスのきいたテノール声で念を押され、サラは疲れた顔でうなずいた。


 * * *


大会2日後。

パーティ会場である騎士宿舎の集会室には、ある意味懐かしい面々が揃っていた。

つい一昨日、たった1日顔を合わせただけの参加者たちが、なぜか旧知の仲間のように思える。


「えー、残念ながら1名の欠席者が出たものの、このように武道大会で活躍された勇者の皆様にお集まりいただいたことに、我々大会運営側の騎士一同も……」


責任者であるバリトン騎士の乾杯の挨拶は、彼の性格そのまんまという長くて堅苦しいものだった。

サラがグラスを掲げたまま「校長先生かよっ」とツッコミを入れると「もうこれ飲んじまおうぜ」と、一回戦を戦った大男が声をかけてきた。


この大男が、パーティ会場に到着したサラへ真っ先に駆け寄り、優勝を大喜びしてくれたことには面食らった。

自分があっさり負けた後、必死でサラを応援してくれていたそうだ。

大男曰く「この俺サマを倒すくらいだから、優勝してもらわなきゃ困る」とのこと。

故郷へ戻ったら、不運にも優勝者と一回戦で当たってしまったが、実力では準優勝だったと言い訳するのだそうだ。


そんなこと、わざわざ言わなきゃいいのに。

こいつアホだな。

でも、ちょっとカワイイかも?


サラは、大男ににっこり微笑んだ。

なんだか、獰猛な野猿を懐かせたような気分だ。


「おいおい、勇者様を独り占めするなよ?」


スマートに声をかけてきたのは、緑の瞳の騎士。

彼も、サラの優勝を我がことのように喜んでくれた。


「あの魔術師は、本当に気に入らなかったからな」


私怨で応援してすまんとサラに謝る騎士は、とても律儀でイイヒトだ。

サラと戦ったときも、それまでの試合も、魔術師は全て手抜きで勝利してきたという。

何事にも全身全霊がモットーの騎士としては、そのふざけた態度が許せなかったそうだ。


「しかし、剣を手放すというのは、目から鱗だったよ」


いずれ戦場に戻ったときもキミと戦った経験が役立つだろうと、緑の瞳に憧憬をにじませて、騎士はサラに握手を求めた。

サラは照れながら「あれは自分で考えた戦略ではなく、師匠のおかげで」と言い訳した。

その謙虚さも騎士のツボだったらしく、サラは騎士団にスカウトされてしまったが、やらなければならないことがあるのでと丁重にお断りした。


「サ……黒騎士ちゃんは、俺が連れてくからダメー」


不意に後ろから抱きつかれたサラは、ピシリと硬直する。

緑の騎士が乱暴に引き離し、ガンガン説教をたれているのは、今話題にしていた魔術師だ。

この会場内で唯一、サラを女と知っている人物でもある。


試合後に少し身の上話をしてからというもの、馴れ馴れしくサラちゃんと呼んでくるが、なぜか憎めない。


「黒騎士ちゃん、このオッサンなんとかしてー」


緑の騎士から逃げようと、サラを盾にする魔術師。

じゃれ合っている今年の勇者2名に、周囲がざわ……ざわ……と騒ぎ始めたので、サラは「ふざけるなよ!」と男子の声色で叫んだ。


この手のスキンシップは、まったくもってシャレにならない。

サラと戦っていない参加者たちも、運営側の騎士たちも、覆面を取ったサラの容姿を見て「まるで女のようだ」と囁いているというのに。


サラは、自分の胸元をチラリと見やる。


女のようだとは言うが、女だと言われない理由が、そこにあった。


 * * *


今日のサラの服装は、試合を戦った黒い戦闘服。

キレイに洗濯して、破れた箇所をナチルに縫ってもらった。

明日には、もう1枚新しい戦闘服が縫いあがるので、パレードとパーティ、なんとか使いまわすことができるだろう。


とにかく、王城に乗り込むまで、自分が女であるということは内緒にしなければ。

キノコの正体が黒騎士とバレただけで、すでにややこしい問題が起こっているというのに。


サラが、昨日の買い物中に起きたパニック……良い風に言えばフィーバーについて思い出し、頭を痛めている間、緑の騎士と魔術師は案外仲良さげに話し続けている。


「お前が連れて行くって、いくらなんでもそれは無理だろう!」

「サ……黒騎士ちゃんなら、きっと大丈夫じゃないかなあ」


ね、と同意を求められても、サラは意味が分からず首を傾げた。


「黒騎士ちゃん、キミは俺のこと何も知らないんだね?」


この国の人間なら、誰もが知っている伝説の魔術師ファース。

なぜ”伝説”だなんて大げさなキャッチがつくのかというと……


「俺、森の向こうの大陸に住んでるんだよねー」


今では、誰も通れない精霊の森。

森を抜けて大陸へ向かうのは、小さな子どもなら必ず一度は空想する大冒険だ。

その冒険を、成し遂げてしまった数少ない男が、この魔術師だった。


「コイツは元々トリウム王城の筆頭魔術師だったんだ。その地位を捨てていきなり失踪したと思ったら、そんな大それた……アホなことをしてやがった」


緑の騎士は、不満げな表情をしつつ、褒めてるのかけなしているのか分からない台詞でサラに補足した。

魔術師はサラの手を取ると、まるでお姫様にするように、手の甲に口付けた。


「どう?こんな狭い国を出て、もっと広い世界を見てみたくない?」


魔力が見えるメガネ、剣へと変化する杖、龍を生みだす七色の指輪、女神の涙の伝説……大陸にはいろいろと面白い謎があり、タイクツしないという。

サラは、魔術師の語る大陸という存在に、強く惹かれていた。

森の向こうには、きっとサラの想像もつかない世界があるのだろう。


手を握られていることも、口付けられたことも忘れて、夢見るように呟いた。


「いつか……自分の使命を果たしたら、行ってみたいな」

「今すぐに、じゃないんだ。残念っ」


魔術師が、興味を無くした合図のように、サラの手をポイッと放り出す。

気まぐれな態度と裏腹の笑顔がやけに優しげで、サラは思わず皮肉を言った。


「ファースさんは天邪鬼だから、本当は来て欲しくないんでしょ?」

「あー、天邪鬼ねえ。あれはもう返上!」


あの鬼は龍に食べられちゃったよと、魔術師は笑った。

そのローブの奥には、サラのお守りとともに、小さな金色の龍が隠れているのだろう。

仲良くしてくれればいいけれど。


あの日、びくびくしながらお守りを受け取ったファースの姿を思い出し、サラは笑みを漏らした。


「おい、喋ってないで美味いもん食べようぜっ」


いつの間にか、ビュッフェの用意ができていたらしい。

ご馳走を積み上げた大皿を持って、緑の騎士と、大男がやってきた。

「お酒は20才になってから!」と逃げるサラに、軽く酔った大男は「俺の酒が飲めないのか」と追い回す。

楽しそうに笑う、緑の騎士と魔術師。


そんな和やかな雰囲気は、嵐の前の静けさだった。


嵐は、大会運営側の騎士たちによる、ちょっとした余興からはじまった。


 * * *


突然、会場奥にあるステージに、突然見覚えのある集団が現れた。

サラだけでなく、全員にとって忘れられないあの姿。


「キノコ……」


思わず呟いたサラ。

会場は、笑いの渦に巻き込まれた。


見慣れたあのカツラ、あのマスクをつけた騎士たちが、ステージで繰り広げる創作ダンス。

紙製の剣を使い、真剣白羽取りを受け止め損ねるなどベタなギャグが満載で、露骨に嫌な顔をしていたサラも最後は爆笑していた。



盛り上がるステージの袖から、舞台の向こうを見つめる2人の男がいた。

その場所からは、決勝トーナメント進出者たちの顔がはっきりと見える。


隠そうとはしているものの、あきらかな怯えが見られるその2人の男に、バリトン騎士は声をかけた。


「やはり……いるんだな?」


2人の男は、互いに視線を絡ませた後、青ざめた表情で首を横に振る。

バリトン騎士は、その表情を見て覚悟を決め、ステージに躍り出た。



「お前ら、全員注目!」



次の余興が始まったのかと、にやけていた15人の男たちは、バリトン騎士の鋭い視線に戸惑った。

気づけば、舞台上のキノコダンサーズも、食事やドリンクを配布していた騎士たちも、厳しい表情で15人を取り囲むように立っている。


「今から、お前たちに1つ質問をする。正直に答えるんだ」


問われた言葉に、15人は一瞬言葉を失った。



「予選終了後の夜、何をしていたか……アリバイがある者は、こちらへ上がって来い!」



集められた15人には、ねぎらわれる勇者という夢の後に、容疑者という現実が待っていた。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











閑話なのに、かなり力入ってしまいました。まず魔術師君、精霊の森の向こうから来た人でした。一応ネタフリしてたんだけど覚えてるかな……森を抜けたときにレベルアップして「メダパニ(敵を混乱させる呪文)」覚えたらしいです。本編で書ききれない過去エピソードはいずれ……気まぐれに。あとこの閑話、あちこちに小ネタ仕込んでみました。仮装大賞とかお笑い系多いです。昭和の歌とかも。うふ。(←自己満足度No.1)

次回、ついに犯人が……の前に、名探偵サラちゃん登場です。謎は全て解けた!っていうかアレが全て解いてくれた!っていう楽ちんな感じで。

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