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第二章(18)決勝トーナメント開始

キノコ騎士の姿を見ようと騒ぐ野次馬たちをすり抜け、無事カリムに出場者受付まで送り届けてもらったサラ。

別れ際にカリムから頑張れと強く背中を叩かれたサラは、「まったく馬鹿力……本気で痛いっつーの」と呟きつつも、士気を高揚させて出場者控え室へ入った。


ドアを開けると同時に、先に集まっていたライバルたちがじろりとサラを睨んだが、サラは視線を気にせず空いている椅子に座った。


無責任な群集に比べれば、出場者たちはまだマトモだ。

サラの見た目で笑ったり何か言うような者はいない。

何か変装せざるをえない理由があるのだろうと、慮ってくれているのかもしれない。


獣が爪を研ぐように淡々と、剣や指輪の手入れをする男たち。

サラも、先ほどの羞恥プレイを忘れるべく、精神を集中する。

朝一番のミーティングで頭に叩き込んだ、対戦相手のデータを記憶から引き出していく。



一回戦の相手は、アイツだ。

サラの視線に気づいているだろうが、そんなそぶりも見せず、1人鼻歌交じりで自分の大剣を磨く男。

きっと、初戦は楽勝と思っているに違いない。


典型的な、剣闘士……いや、ゴロツキだな。

剣闘士というものは、肉体を鋼のように鍛え、拳そのものを武器とし、剣などの道具にはあまり重きをおかない。

サラの対戦相手の男は、一見剣闘士タイプに見えるが、大剣を大事そうに扱っているし、たぶん盗賊のように実戦で腕を磨いてきた人物だろう。


彼の剣を見ると、盗賊の倉庫を思い出す。

サラが何度も手にした、リサイクルレベルの古い剣。

刃こぼれして切れない代わりに、威力のある重い剣だ。

あえて皮膚を切らないためにあの剣を選んだとしたら、見た目よりは賢い人物なのかもしれない。


サラは、アレクの言葉を思い出しつつ、戦略を練っていく。


『いいか、サラ。戦い方は、お前自身が考えて決めるんだ』


アレクが手伝ったのは、相手の情報を分析するまでだった。

戦略や戦術に関しても、細かい指導を受けるとばかり思っていたサラは、ドキリと心臓を高鳴らせた。

知らず知らず、前回優勝者のアレクに甘えようとしていたことに気づかされた。


データを信じるなら、ヤツは魔力に頼るタイプではない。

だが、指輪もつけているところを見ると、カリムのように補助系の魔術が多少使えるのかもしれない。


サラは、そっと自分の右手を見た。

中指には、シンプルなシルバーのリング。

その中央に、小ぶりな黄金の宝石がついて、光を反射しきらめいている。

黄金は、風の精霊の宿る証だ。


魔力を持たないサラだが、あえてリコから風の精霊の指輪を借りてきていた。

これが、サラの考えた大事な戦略だった。


 * * *


「では、今から1回戦第一試合を行う。出場する2名、前へ!」


唐突にドアが開けられ、聞きなれたバリトン声の騎士が現れた。

おのおの集中していた出場者たちが、瞬時に顔をあげる。


「おや、あっさり一勝とは、ラッキーなこった」


控え室に居たのは、14人。

2名の欠場が出たのだ。


ややガラの悪い大柄の剣闘士は、敵が現れなかったため不戦勝となったのを素直に喜んでいた。


「あのっ」


控え室入り口付近で、他の騎士に何やら命じていたバリトン騎士に、サラは思い切って尋ねた。

他の参加者も、サラの行動に注目している。


「ここに来ていない2名は、いったいどうしたんですか?」


それは、ここに居る全員の疑問だった。

バリトン騎士は、大きくため息をついた後、1人1人の目を覗き込むようなしぐさをしてから言った。


「欠場した2名は、昨日何者かに襲われたそうだ。治癒が間に合わなかったのだろうな」


可哀想にと騎士の表情が語っていた。

2人とも、前回の大会でも決勝トーナメントに勝ち残った、人気も実力も兼ね備える騎士だった。


サラは”襲われた”という言葉に、カリムのことを思い出し、びくりと体を震わせる。


「あー、そういや俺も襲われたなぁ」


一番奥に陣取っていた、黒いローブの男が声をあげた。

軽く撃退してやったけどと言いながら、手にした杖をバトンのようにくるくる回す魔術師。


彼こそが、アレクが苦みばしった表情で「要注意人物」と告げた男だ。

不戦敗となった2名の騎士と同じく、前回の決勝トーナメント出場者でもある。

サラが順当に勝ち進めば、決勝戦の相手となるだろう。


前回決勝トーナメントに進出した実力者だけが襲われ、大会を欠場するような目に合うなんて、あきらかに不自然すぎる事件だ。

いったい何の得があって、そんな事件を起こすかといえば……


自然と、全員の視線は不戦勝となった剣闘士に集まった。


「おいおい、俺は何もしてないぜ?」


不戦勝を勝ち取った剣闘士の男が、筋肉質の太い腕を組みながら、ニヤリと下卑た笑いを浮かべる。

他の出場者は、男の言葉にノーリアクションだ。

疑わしいと思ったところで、証拠も何もないのだから。

もう1人の不戦勝候補は、あまり気の強そうではない騎士で、やや青ざめた表情でぶんぶんと首を横に振っている。


サラとしても、予選を勝ち抜いたこのメンバーを疑いたくはなかった。

ただ、万が一カリムが襲われた事件と繋がるとしたら、サラは絶対に許せないと思った。


武道大会に出場することも、自身の能力も、なるべく隠してきたサラと違って、カリムは道場でもその強さを周囲に見せ付けていた。

街には『幻の勇者の弟子から、今年は剣士が1人出場するらしい』なんて噂も流れたほどだ。


もしも、優勝を狙う出場者の思惑によって引き起こされた事件だとしたら。

カリムが狙われた理由としては、決しておかしくない。


襲われた女を助けさせるというベタな設定で、狙った獲物をおびき寄せ、冷酷に刃を向ける暗殺者集団。

そんなイメージが浮かびかけたところで、サラは慌てて打ち消した。


……ううん、考えたって仕方ない。


この中に卑怯な人間がいたところで、関係ないんだ。

私は全員を倒して優勝するんだから。


 * * *


いよいよ一回戦の第二試合が始まる。

サラの出番だ。


第一試合が流れたためか、コロセウムの中は異様な雰囲気だった。

登場した2人に対して、明らかなブーイング、いや怒声のような恐ろしい声が浴びせられる。

1人1人の言葉ははっきり聞こえないが、正々堂々と戦えと叫んでいるように思える。

きっと、不戦敗で敗退した騎士の情報は、すでに観客たちに流れているのだ。


サラは、なるべく観衆を見ないようにうつむきながら、闘技場の中心へと進んだ。

50メートル四方の、硬いコンクリで形作られた正方形の台座が、バトルエリアだ。

台座の端には階段もあったが、1メートル弱の段差くらい、サラはひょいっとジャンプして飛び乗った。


その中央には、相撲の土俵のように、二本のアンダーラインが引いてある。

サラは、片方のラインに立つと、対戦相手の男と向かい合い目線を交わした。


あらためて、バリトン騎士から観衆に向けて勝敗ルールが伝えられた。


・台座から下に落ちること

・床に倒れ10秒起き上がらないこと

・ギブアップの意思を口頭で告げること


ルールの補足として、失格の条件も告げられた。


・武器は、剣1本と、指輪または杖どちらか1個まで

・治癒の魔術ですぐに治せないレベルの怪我(骨折や、縫合が必要な傷)をさせないこと


「何か質問は?」


儀礼的なやりとりなのだろう。

答えを聞かず、試合を始めようとするバリトン騎士に、サラは歩み寄った。


「1つ、よろしいでしょうか?」


バリトン騎士の耳元にサラがささやくと、騎士は少し眉をひそめたものの、コクリとうなずいた。

対戦相手の大男は、いぶかしげにサラの行動を眺めている。


主審である騎士の許可が下りたので、サラは大男に向き合って、腹に力をこめた低い声で言った。


「オレは、なるべく魔力を使いたくない。お互い、魔術を封じて戦うってルールはどうだ?」


台座の四隅に立つ副審の騎士はもちろん、目の前の大男も驚愕に目を見開いている。

小柄なサラは、風の魔力でスピードアップし、逃げ回りながら好機を狙ってくると思い込んでいたからだ。


目の前の少年騎士からは、臆する様子は見られない。

大男はこの提案を、自分への挑発と受け取った。


「へえ。ひよっこ坊主がオレと腕力勝負か。いいだろう……」


サラが風の指輪をはずすと、男も指輪をはずして、各々バリトン騎士に預けた。

間近で見る大男は、サラの嫌いなタイプだった。

黄色い歯にヤニをつけ、無精ヒゲをはやした顔でニヤニヤと笑っている。

濁ったグレーの瞳には、あからさまな侮蔑の色が見える。


指輪を預かったバリトン騎士が、魔術を使ってそのマイナールールを観衆へと伝えた。

数千人はいるであろう観衆は、シンと静まり返った。


「では、位置について!」


確かにこの男、腕力はそれなりにあるのかもしれない。

背負った大剣の柄を後ろ手に握り締めると、まったく重さを感じさせず、まるでおもちゃを扱うように一瞬で抜き去った。


サラは軽く目を閉じ、開始の合図を待った。



「始めっ!」



腕に馴染んだ相棒の大剣を頭の上に振りかざし、男が一歩前へ足を踏み出したとき。

フッと、首元に吐息がかかるのを感じた。


吐息かと思ったそれは、サラの黒剣が起こしたかすかな風。

男の視界に入ったのは、自らの首を刈ろうと牙をむく、刃の煌めきだった。



「どうする?これ以上、戦うか?」



小さな、しかし殺気を帯びた少年騎士の声が、男の耳元に届いた。

高く上り始めた太陽の光を跳ね返す、美しく研がれた宝剣を見つめ絶句していた男は、かすれ声で「まいった」と告げた。

↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











キノコちゃん、本当に強かったんですねー。よかったよかった。え?バトル短すぎって?ダイジョブダイジョブー!……はい、ごめんなさい。ところで優勝候補つぶしを行った犯人、分かったかなワトスン君?犯人はこの中にいる!じっちゃんのナニかけて?(←ちょっと字面変えたらエロくなるという例文)もちろん作者はわかってますよ。それはお前だ、サラ!なっ、なぜ私がそんなことを?お前は昨日、早めに布団に入ったと言ったが、部屋にはイビキをかいて眠る音を流したカセットテープとピアノ線と5円玉が……(以下略)※本当に犯人分かった方はこっそりメールください。マジで当たってたらスゴイっす……

次回は2回戦行きます。またサラちゃん、嫌いなタイプと対戦。今度はもうちょっと戦闘時間長くなります。はー、プレッシャー。その前にちょい和みシーンあり?

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