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第二章(17)トトカルチョ

カリムの大怪我という事件のせいで、サラ予選突破へのお祝いはなんとなく先送りされてしまった。

昨夜も激励会があったし、明日は大事な決勝トーナメントだからと、サラは早めに床についた。

体もだるいが、なにより瞼がどっしりと重い。

夕食中も、ナチルに氷嚢を作ってもらって冷やしておいたし、明日には腫れも引くはずだ。


それにしても、ここまで目が腫れるほど泣きじゃくったのは、久しぶりだった。

小学生の頃、学校で瞳の色をからかわれたとき以来かもしれない。

男子たちから「ガイジン」と囃し立てられ、悔しくてどうしていいか分からなくて、学校から一番近かった馬場先生の病院へ大泣きしながら駆け込んだっけ。


馬場先生は、サラに思いもつかないような答えをくれた。

それ以来、馬場先生はサラの心の師匠だった。


今ここに馬場先生がいたら……


ううん。考えちゃいけない。

明日のために、今日はもう眠ろう。

明日も早起きして、アレクと対戦相手の分析をしなきゃだもんね。


お日様の匂いのする布団を頭からかぶると、サラは目を閉じ、おやすみなさいと呟いた。


 * * *


翌朝、サラが月光仮面グッズを小脇に抱えてダイニングへ行くと、すでに全員が揃っていた。

当たり前だが、カリムも元気そうにコーヒーを飲んでいる。

サラと目が合うと、ようと言って片手をあげた。

サラは笑顔で答えながら、キッチンに立つナチルに「私はホットミルクティーね」と声をかけ、テーブルの定位置に腰掛けた。


こうして朝早くから集まったのは、アレクの召集がかかったから。

本当は、昨夜のうちにやっつけてしまう予定だったが、サラがあまりに疲れた表情をしていたので、アレクが翌朝にしようと言ったのだった。


全員がじっと見ているのは、王城から配布された決勝戦のトーナメント表だ。

昨夜遅く、城下町全体に配布されたらしい。

印刷技術の変わりに「転写」という便利な魔術があるため、欲する住民全員が入手できるほどの量がばら撒かれたそうだ。


トーナメント表には、出場者の名前は書いていない。

アルファベットに似た記号が振ってあるだけだ。

当然サラには読めないし、その紙を見ただけでは、自分の試合が誰と何番目なのか分からない。


「サラ、お前の出番は2試合目だぞ」


アレクが、こっち見ろよとトーナメント表をひっくり返す。

サイズとしては、A3くらいの大きな紙。

裏面には、16分割された枠と、枠内に出場者の似顔絵、略歴、得意技などが書かれている。


サラには、文字はほとんど読めないのだが。


「あの、この絵は……」


金色の丸いカサに、黒いジク。

精悍な騎士、狡猾そうな魔術師、いかつい剣闘士に混じって、ぽつりと1つキノコがあった。


「キノコ……」


サラが呟くと同時に、アレクを筆頭としたかけがえのない仲間たちが、盛大に噴出した。


「あっ、アレクさまっ、ちょっと、笑いすぎ……くっ」


今にもこぼしそうなほど、ミルクティーをカタカタ震わせながら運ぶナチル。

リコもカリムも、サラと目線を合わせようとしない。

リーズだけが、やけに同情的な視線だった。


サラは、ふと思い出す。

昨日の予選会後、そういえばバリトン声騎士の隣に背の高い騎士がいて、せっせと何かを書いていたと思ったが、きっとサラの似顔絵だったのだろう。

今まで気づかなかったけれど、アレクやリーズあたりの目線から見ると、きっと金髪のもっさりヅラと黒いマスク部分しか見えないのだ。


ああ、私は自分の姿を美化していたのかも。

月光仮面とか仮面ライダーとか、日本人だから覆面ヒーローに慣れていただけであって。

この世界の人にとっては、今の私ってただのキノコなんだ。


「お前、よくこのカッコでがんばったなぁ」

「アレクがやらせたんでしょっ!」


笑いすぎて涙をこぼしながらサラをねぎらうアレクに、サラは思わずツッコミを入れた。


「でも、よくやった。これでオッズは最高だ」


目尻の涙をぬぐいながら、アレクはサラの黒髪をわしわしとなでる。

ようやく気持ちが落ちついたリコが、サラの手元にあるヅラを見ないように気を使いつつ、書かれている内容を教えてくれた。


サラの似顔絵の下には、簡単なプロフィールが書かれている。

昨日の予選後、サラが告げたほぼそのまま。


・匿名騎士A(15才)

・攻撃タイプ:武術メイン(武器:剣)

・得意技 スピードと身のこなし


「いくら”武力やスピードに自信あり”と書いてあっても、キノコじゃ説得力無いだろ」


アレクは、心底おかしそうに笑いながら言う。

他のメンバーも、アレクに釣られてまた笑いのツボを押されてしまう。


きっとリーズは、こんな経験を何度も乗り越えて、あの温厚キャラに成長したに違いない。

サラはもう、アレクのおもちゃにされて、いちいち傷つくのはやめようと悟った。


 * * *


城下町の商店にとっても、武道大会は5年に一度のかきいれどきだ。

人手は倍増し、露店の商品も飛ぶように売れていく。

普段は売られない、珍しい宝石やアイテムも出回るので、単に買い物のために訪れる者もいるそうだ。


そして、街の中でもっとも盛況な一角が、決勝トーナメント会場であるコロセウムだった。


「うわー、すっげー人っ」


サラは男の子の声で呟いたが、マスクのせいでカツゼツが悪く、もごもごとくぐもって聞こえる。

リーズがサラの声を拾って、そうだねと相槌をうった。


サラは中学2年の夏を思い出していた。

どこを向いても人しか見えない。

まるで、夏祭りの花火会場へ向かう駅のような混雑っぷりだ。

案内係の騎士たちが、交通整理に声を張り上げている。


プラチナチケットを持つ者だけでなく、多くの住民や観光客でにぎわうその場所。

実は、政府主催で行われるトトカルチョの申し込み場だった。

そもそも決勝トーナメントを観戦できない住民の不満を解消するために、政府が考えた苦肉の策だったトトカルチョが蓋を開ければ大当たりで、毎年恒例の目玉企画に育った。


1人100口までという制限内なら、誰でも参加できる。

コイン1枚握り締めてやってくる子どもから、従業員総出でMAXの100口ずつを賭ける貴族まで、城下町に集った全員が参加するといっても過言ではない。

このトトカルチョのために、トーナメント表の無償配布が行われるのだ。


会場整理だけでなく、賭け金の管理やオッズの発表などにも、大量の役人や騎士が投入される。

多少コストをかけても、賭け金が増えることで政府の財布も潤うのだから、担当する役人たちもやる気満々だ。


もちろん、賭ける方も真剣そのもの。

掛け率しだいでは、10年は遊んで暮らせるほどの金を入手できる。

5年前、アレクは自分の勝利に相当の金額を賭けたので、その資金も使って自治区を運営してきたそうだ。


「今年は単純に、観客として楽しめそうだな」


アレクは、腰にぶら下げた袋から、4枚の紙を取り出した。

プラチナチケットだ。


例のアレク大ファンな貴族女性のはからいで、4枚もの観戦チケットを分けてもらえた。

ナチルは例のごとく留守番で、アレク・リコ・カリム・リーズの4人が、観客席からサラを応援することになった。


本当ならそのうち1席は、リーズではなく、サラのために用意された席。

事前に「幻の勇者の弟子である黒騎士が、武道大会に出場するらしい」という噂が広まりかけたが、アレクが「あいつは未熟だから今年は出さない」と火消しに回った。


実は、こうしてキノコに化けて出場しているのだが……


サラは、チケットをくれた貴族女性にも、後でお詫びをせねばと思った。


 * * *


ちょうど観戦する者と、トトカルチョに参加する者が分かれる地点で、アレクは立ち止まった。


「サラ、お前は出場者受付……あの裏口へ回れ。俺たちはここで掛け金を払っていくから」


全員が、MAXの100口ずつサラに賭けるのだ。

頑張ってこいよと、サラの肩をポンと叩いたアレクの目はキラキラと輝き、漆黒の瞳にはくっきりと円&ドルマークが見える。

こうなったアレクには逆らえないと悟ったサラは、しぶしぶうなずいた。


せめてリコだけでも、受付まで付き添ってくれないかな……


チラリとリコを見ると、守銭奴のように表情を輝かせているアレクを見て、目をハートマークにしている。

リーズは、悪いなというように苦笑しつつ、ポリポリと頭をかいた。


「俺、送っていくよ」


カリムが言ってくれたので、不安いっぱいだったサラは手を叩いて喜んだ。

唯我独尊モードのアレクに逆らうなんて、きっと昨日心配をかけた罪滅ぼしのつもりなのだろう。


「こいつ、かなり目立つんで」


気がつくと、サラたちの周りには少しの距離を置いて、多くの住民たちが集まっていた。


『あの金髪頭、やっぱそうじゃない?』

『チビだし、腕力もなさそうだし、弱そうだなぁ』

『オッズも最低だし、大穴狙いは避けておくか』


いつのまにか噂の的になっていたサラは、マスクの奥の頬を真っ赤に染めた。

そこへ、とどめの一撃。



「うわ、あれ本当に似顔絵のまんまだよ!」

「かなりキモいんだけどー!」



小奇麗な女の子たちの集団が、サラを指差してキャッキャと笑った。


これが、前に馬場先生が教えてくれた、羞恥プレイってヤツですか!


サラはカリムの腕をガシッと掴むと、裏口方面へダッシュした。

↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











早く試合に入りたいのに、ついキノコネタで引っ張ってしまいました……。美少女主人公にこんな格好させて、ちょっぴり反省。セーラー服と機関銃で戦わせたらカッコよかっただろーて。サラのかぶってるヅラは、マッシュルームカットで前髪も後ろ髪もちょい長めなタイプです。ビートルズ風?実際にそんなヅラ見たことないけどイメージで。目出し帽もマンガとドラマでしか見たことないけどイメージで。「(ファンタジーだから)いいんだよ……」(←夜回り先生)羞恥プレイって、美少女キャラに言わせてみたかったんですが、萌え……ませんね。スンマセン。

次回こそは本当に一回戦行きます。インド人嘘つかないです。引っ張った割にはあっさ……いや、読んでいただけると嬉しいです。

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