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第二章(16)事件の結末

見事に初陣を勝利で飾り、16名の枠に残ったサラ。

敗れた者たちは、それぞれ口惜しそうに顔をゆがめ、リベンジを誓いながら訓練場を去っていく。

会場を去る者の中にはひげも居て、残ったサラに気づくと「俺の分も頑張れよ!」と豪快な笑顔を残した。


16名と運営メンバーの騎士だけがたたずむ訓練場。

喧騒はおさまったものの、戦いはまだ続いていた。


決勝進出者たちの体からは、静かに燃える青い炎が立ち上っている。

これがオーラというやつなのだろうか?

サラは、オーラが見えるという日本のタレントのことを、もうインチキとか言っちゃイカンなと思った。


 * * *


サラたちは、予選のルールを説明したであろう騎士によって、決勝トーナメントの説明を受けていた。

説明を聞かせる対象が少なくなったため、魔術は使われない。

サラは、イイ声110番レベルな騎士のバリトン声に聞き惚れた。


まずは全員が、自分の得意なジャンルを自己申告する。

武道大会運営スタッフにより、予選時の戦い方と比較の上で内容が吟味された後、今晩中には組み合わせが発表されるそうだ。


確かに、対戦相手がどんな攻撃を得意とするのかしだいで、結果は大きく変わるだろう。

遠隔攻撃が得意な魔術師が、長剣一本の騎士と戦っても、きっと観客には面白くない結果になる。

観客のことも考えて、バランスの良い組み合わせになるなら、単なるくじ引きよりは妥当な方法かもしれない。


サラは、なかなかの好青年風なバリトン騎士に「魔術は不得手です」と告げた。

騎士はいぶかしげにサラの全身を見たが、確かに指輪も杖も所持していない。

予選の戦いぶりからも、きっと身のこなしやスピードが売りなのだろうと判断した騎士は、ペンを走らせつつ「行っていいぞ」と呟いた。


帰り際、王城正門近くの木陰に身を隠したサラは、決勝に残ったライバルの顔ぶれを、こっそりとチェックした。

剣と魔術が使えるタイプの騎士が7名、魔術師が5名、剣にも拳にも自信がありそうな剣闘士とゴロツキが3名。

プラス、ひょろっこい月光仮面マスクの少年騎士ことサラ。


自分の申告したデータが正しいと判断されれば、最初の2戦はきっと武力勝負になるだろう。

サラは、これから繰り広げられる死闘を想像し、ぶるりと武者震いした。


 * * *


サラは城門を出るとすぐ、窮屈な変装グッズを取り去った。

オアシスの風が、蒸れた髪や頬をくすぐり、とても爽快だ。


「ふーっ、やっぱ素顔は気持ちいいや」


ふと、手に持ったマスクとヅラに鼻を近づけ、くんくんと匂いを嗅いでみるサラ。

少し汗を吸ってしまったが、まあ明日1日くらいは我慢できるだろう。

この戦闘服も明日また着るから、早くうちに戻って着替えなきゃ。


上機嫌でそんな行動をとっていたサラだが、町の方から人の気配を感じると、一気に顔を青ざめさせる。

せっかく正体を隠そうと気をつかってきたのに、なんて無防備なことをしちゃったんだろう!

この劇的ビフォーアフターを誰かに見られなかったかと、サラがきょろりと目線を動かす。


すると、城門ちかくの街路樹にもたれかかるように立つ、1人の色白小柄な少女が見えた。


「リコ!」


サラは、満面の笑みで駆け出した。

リコは、つぶらな瞳に涙を浮かべて、サラに手を振った。



サラが勝ち残ったことは、既にひげからでも聞いていたのだろうか。

開口一番、サラは言った。


「サ、フラン様、おめでとうございます!」

「ありがと、リコのおかげ!」


サラは、本心からそう思っていた。

オアシスに着く前の自分では、到底あんな戦い方はできなかったから。

この2ヶ月はとても苦しい時間だったが、すべて自分の糧となった結果の勝利だった。


そこには、リコが居て、アレクと、カリムも……ん?


カリムのことを思い出したサラは、そういえばさっきの予選にカリムの姿があっただろうかと思い返した。

リコは、耐え切れなくなったのか、瞳の縁からぽろりと涙を1滴こぼした。


「落ち着いて、聞いてくださいね?」


リコの涙を見て慌てかけたサラは、ぐっと息を飲んだ。

心臓がどくどくと早鐘を打つ。

これからなにか、嫌なことを言われるのだ。


「今、カリムが……危篤です」


リコの言葉の意味が理解できず、サラの頭に”危篤”の文字がただの記号として舞う。


なぜ?

意味が分からない。

ついさっきまで、元気で、一緒にいたのに?


とりあえず、一緒に病院へ行きましょうと言われ、サラはリコに手を引かれるまま歩き出した。


 * * *


自治区の一角にあるその病院は、小ぎれいな木造の建物だった。

日本育ちのサラから見ると、小さな診療所といった規模だ。

ドアを開けると、ツンとした消毒液の匂い。

こちらの世界でも、病院の匂いは変わらないんだなと、サラはぼんやり考えていた。


長椅子が4つ並ぶだけの閑散としたロビーには、アレク、リーズ、ナチルがいた。

アレクたちの表情は決して明るくないが、サラを見ると大丈夫というように、コクリと深くうなずいた。

ちょうど一足先についたひげとエシレが、寄り添いながら奥の病室へ入っていく。

サラとリコも、無言で後を追った。



病室の引き戸が、カラリと軽い音を立てて開いた。

サラの視界に映ったのは、古いパイプベッドに、真っ白いシーツ。

ベッドの上には、静かに横たわるカリム。

パイプベッドは、あきらかにカリムには小さすぎ、太く鍛えられた腕や足がパイプの隙間から飛び出している。


上半身裸で、薄いタオルケットをかけられて瞼を閉じている。

カリムは、今まで見たことないくらい衰弱し、精気の無い表情だった。

青を通り超して土色に見えるほど顔色は悪いが、呼吸は落ち着いているようで、スースーと静かな音が響いていた。


「おい、どーしちまったんだよ、カリム……」


ひげが沈痛な面持ちで呟くと、エシレはその背中を白い手でさすった。

リコが、事情を説明するので行きましょうと、皆に病室を出るよう促した。


 * * *


「ああ、サラ。予選突破おめでとな。ヒゲオヤジもお疲れ」


無理に明るい声を出したのだろう、アレクは口の端を上げるように、不自然な笑顔を浮かべている。

サラたちは長椅子に腰掛け、アレクの言葉を待った。


「カリムは、暴漢に襲われた女を助けて、返り討ちにあった」


本人が起きなければ詳しいことはわからないがと言いつつ、アレクは自嘲する。

アレクたちは、貴重な当事者であるその女を、取り逃がしてしまっていた。

女は、城壁近くを散策していた通りすがりの観光客に「自分を守ってケガをした人がいる」と告げ、現場まで案内するとそのまま姿を消したという。


1つ目の奇跡は、その通りすがりの観光客が、少しだけ癒しの魔術が使えたこと。

彼の魔術によって、カリムは背中の短剣を取り除かれ、薄皮一枚残して傷を塞がれたことで出血が止まり、九死に一生を得た。

通りすがりの観光客は、カリムの衣服から大会参加証を見つけ、王城の騎士へと報告。

すぐに身元確認のために、自治区領事館へと連絡が入った。


ちょうど、ナチルが館に止まっていたことが、2つ目の奇跡。

ナチルは、風の魔術を使ってすぐさまアレクへ正確な情報を伝えてきたのだ。


そして、カリムにとって3つ目で最大の奇跡が、リーズの存在だった。

アレク、リコと一緒に街をぶらついていたリーズは、風に乗って届いたナチルの声を聞いた瞬間、人を超越したスピードで走り出した。

アレクより一足早く現場に到着したリーズは、誰もいない路地裏で1人息も絶え絶えで倒れるカリムを見つけると、しっかりと抱きしめた。


「大丈夫、生きてる。できる限り治すからね」


いつもどおり穏やかな笑顔をカリムに向け、ポケットから銀のスプーンを取り出す。


それを見ている人間は、誰も居なかった。

静寂の中、リーズは初めてその秘められた能力を発揮した。



『銀の妖精ギーンよ、我は命じる。カリムの傷を全て消し去れ!』



銀のスプーンからは癒しの光が溢れ、カリムの体を繭のようにふんわりと包み……光が消えたとき、カリムの体の外傷はすべて消え去っていた。

リーズは、カリムの血みどろになった服を脱がし、古傷も含めてカリムの肌に傷が無いことはくまなく確認した。


しかし、カリムは意識を取り戻さなかった。

すでに、あまりにも多くの血を流してしまったから。


 * * *


リーズの後を追い、全力で現場へと駆けつけたアレクは、徐々に近づく血の匂いに酔いそうになった。

いざ現場にたどり着いたとき、その目に映ったのは、べっとりと赤黒い血だまり。

狭い路地を埋め尽くすほど広がったそれを、アレクは踏むことができなかった。


カリムの血で全身を汚しながら、絶望に顔をゆがめてカリムを抱きしめるリーズに、アレクはかける言葉を失い、その場に跪いた。

アレクは一瞬、カリムの死を覚悟した。


はあはあと大きく息をつきながら、最後に駆けつけてきたリコは、その光景に頭がぐらぐらと揺れた。

リーズの腕の中でぴくりとも動かないカリムと、跪くアレク。

周囲に漂う、吐き気をもよおすほどの血臭。


今自分が倒れるわけにはいかないと、必死で意識を保ったリコは、この先カリムが運ばれる病院の場所を確認した後、予選が終わるサラを待っていたのだ。


その後すぐに、王城の騎士たちがやってきた。

最初にカリムの応急処置をした通りすがりの観光客が、あちこち駆け回って手配してくれたのだ。

簡単な現場検証が行われた結果、カリムの肩に刺さっていた剣は、貴重な証拠として持ち去られたのだが。


「あの剣には、魔力の痕跡があった」


アレクはギリッと、奥歯を噛み締める。

稀に見る優秀な生徒だったカリムが、単なる暴漢にここまでやられるわけがない。

相手はたぶん、なんらかの意思を持ち行動していた輩だったのだろう。


暗殺者という言葉を匂わせるものの、はっきりとは言わないアレク。

アレクは蘇る悔しさに言葉が詰まり、口ごもった。


そこまで大人しく聞いていたサラは、胸の奥で何かが爆発するのを感じた。

立ち尽くすアレクに飛びつき、その胸にしがみついた。



「どうして!どうしてカリムが、こんな目にっ……!」



アレクの胸に額を押し付けて、逞しく硬いその体に、強く握った拳をドンドンと何度も打ち付ける。

暗殺とか、戦争とか、今までイメージとして描いていた言葉が、サラの胸に暗く深い闇となって流れ込んでくる。


これは、誰の罪なの?

私が、こんなに時間をかけてしまったから?

牢獄に放り込まれるのも覚悟で、もっと早く王城へ向かっていればよかったの?


「サラ、落ち着け。ここは病院だ。騒ぐとカリムが起きちまうぞ?」


冷静ながら温かいアレクの声に、サラの声は小さくかすれ、嗚咽が混じり始める。

リコもナチルもひげも、まだカリムと出会ったばかりのエシレですら、涙を止めることはできなかった。


リーズは、沈痛な表情でそっとその場を立ち去った。


 * * *


ロビーにいた全員が、声を封じられたかのように沈黙していた。

とりあえず着替えましょうと、ナチルは嗚咽を漏らし続けるサラの肩に手をかけ、普段着一式を差し出した。

カリムの着替えと合わせて、館から持ってきたらしい。

サラは、ただ黙ってナチルの導くままに、空いている病室へと向かった。


サラが着替え終わると同時に、リコが飛び込んできた。


「カリムの意識が!」


サラは病院だということを忘れ、カリムの病室へと駆け出した。

ドアが開け放たれたままの病室には、皆勢ぞろいしていた。


「カリムっ!」


サラが悲痛な声でその名を呼ぶと……



「よっ、予選勝ったんだってな?」



ベッドの上で上半身を起こし、「やったな、おめでとう」と元気いっぱいで笑うカリムがいた。

刺されたと聞いてはいたものの、その上半身には本当に傷1つ見えない。

そもそも、ついさっきまではあんなに顔色が悪かったのに、今はなんというか、健康優良児そのものだ。


「あの、なんだか……元気そうだね?」


散々泣いて腫れた瞼のサラが、泣き笑いのような複雑な表情をしたので、カリムはゴメンと言って頭を下げた。


 * * *


リーズはポケットのスプーン猫をよしよしとねぎらうように撫でると、こっそり病室を出た。

後ろ手にぴしゃりと病室のドアを閉めたと同時に、スプーンズが話しかけてくる。


『しょーがないよ、ダーリン。慣れてなかったんだからさっ』

『うんうん。ちょっとだけ、言葉選ぶの間違えちゃったんだよね?』


アレク、リコ、ナチルの3人に、スプーンズの声が聞こえてやいないかと、リーズは閉じられた病室のドアをちらっと気にした。


カリムが襲われた現場に駆けつけたとき、リーズは気が動転していたのだ。

治癒を司る銀の妖精に「カリムの傷を消せ」と命じたが、本当なら「カリムの体を元通りに治せ」と命じるべきだった。

妖精としては、主の命には素直に従うだけ。

それが片手落ちだったとしても、決して間違いとはいえないし、指摘する権利も義務も無い。


かくしてカリムは、表面上の傷だけをキレイに治されて、血の気を失ったまま病院に担ぎ込まれることとなった。



泣きじゃくるサラの姿を見ていられなくなったリーズが、胸に無力感を抱きながら、1人カリムの病室へ入ったのはついさっきのこと。

死人のようなカリムの表情をしばらく見守っていたリーズが、ふと思いついたように呟いた。


「なあ、彼の失った血を取り戻すことはできないのかな?」


胸ポケットでカチャカチャと音を立てながら、スプーンズは言ったのだ。



『そんなの、簡単だよね?』

『うん、ぜーんぶ元通りになあれって言えばいいんだもん』



絶句するリーズに、スプーンズは快心の一撃を与える。



『てゆーかさ、なんで最初からそう命じなかったの?』

『あたし、傷を消せって言われたから、それしかしなかったんだよ?』



その後すぐに、体調万全で予選会に臨んでいた朝一番のカリムが、見事に復活したのだった。


カリムを完治させたリーズは、実は魔術の命じ方が片手落ちで……とは言えず、つい「スプーン猫の特殊な魔術で、自分の血液をカリムに移した」と、ちょっとカッコイイ嘘をついてしまった。

リコは若干顔色の悪いリーズを見て「なんてイイヒト!」と今度は感動の涙を流したし、カリムは深々と頭を下げ、命の恩人とリーズを敬った。


真相に薄々気付いたアレクは、後でお仕置きだなと密かに笑った。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











最強魔術師リーズ君、初の大活躍シーン……のはずだったんだけど、なんともヘタレなオチになってしまいました。頑張ったのに誰も見てないし、めちゃ要領悪いです。アレク様、サラちゃんを泣かせたことに怒り心頭。カリムを救ったことと相殺で、ほんのちょっと意地悪する程度で勘弁してあげるのでしょう。この辺もいずれ番外編扱いかなぁ。くだらない度MAX系になりそうな予感(悪寒)。なんやかんや箱入りだったサラちゃんとカリム君も、戦いをリアルに意識したことで、一皮剥けたことでしょう。あと、通りすがりの観光客さんは、先日誤字脱字を指摘してくださった通りすがりさんへのお礼キャラでした。

次回は、再び大会へ。決勝トーナメントで、吹っ切れた月光仮面サラちゃん元気ハツラツに戦います。その前にプチ笑いシーンあり?

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