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第二章(15)サラの初陣

「もう!カリムの馬鹿!やっぱり男ってイザってときに弱いんだから!」


なかなか戻って来ないカリムに業を煮やしたサラは、いつかの砂漠と同じ台詞を呟く。

ただでさえ珍妙ないでたちだというのに、城門付近でいつまでもうろうろしているサラを、明らかに怪しむ受付係の騎士2人。

その視線に耐えかねたサラは、しぶしぶと王城の奥へ進んだ。


 * * *


予選会場は、王城に仕える騎士の訓練場。

ちょうど野球のグラウンドくらいの広さで、多くの騎士たちが日々踏みしめた固い土と、一部に武術の訓練をするための芝生のスペースがある。

さらに奥には厩舎があり、乗馬訓練も行われているようだ。


厳しい規律を守り、国と王族に命をささげる王城の騎士たち。

今、そんな騎士たちのかわりに訓練場を埋めているのは、全国から集まった腕自慢の猛者たちだ。


サラがざっと見たところ、半分ほどが騎士、三分の一ほどが魔術師、残りは盗賊なのかゴロツキなのか、とにかく目つきも身なりも悪い男たち。

サラのように華奢な少年はいないが、魔術師の中にはか細い女性もちらほら混じっている。


突然カリムとはぐれて不安になったサラは、仲間を求めるように女性魔術師の近くに寄っていったが、怪しいマスクの男を警戒したのか、逆に彼女らはじりじりと距離をあけていく。

サラは「確か大澤パパがくれた本に、人は見た目が何割……とかいうのがあったな」と、遠い目をした。



『予選参加者の諸君!注目せよ!』



突然、大きな声が鳴り響いた。

サラは、寺の鐘を鳴らした後のような、ワアーンという不快な余韻を耳の奥に感じ、とっさに両手で耳を閉ざした。

きっと魔術を使って、全員に声が届くようにしているのだろう。


『ただいまより、予選のルールを伝える!一度しか言わないので良く聞くように!』


1.この訓練場を自ら出たもの

2.別の参加者に、癒しの魔術で復元できない傷を負わせたもの

3.剣1本、指輪または杖1つ、合計2つ以上の武器を隠し持ったもの


この条件に当てはまった参加者は、即失格となる。

受付時に同じ言葉と、魔術師による簡単なチェックを受けていたため、この場にいる参加者たちはまだ落ち着いている。


サラは、再度確認するように、自分の懐に差した黒剣をぐっと握りしめた。

胸ポケットには、リーズから渡されたお守りがある。


昨日みんなに配られた小袋の中身が、あの日切り落とした自分の髪だと聞いたとき、サラは正直「オエー」と思った。

袋を指でつまんでみて、ザリッとした髪の束の感覚がすると、背筋がゾゾッとする。


髪の毛って、頭から生えてるときはいいけど、抜けたとたんに不気味な存在になるのはなぜだろう?

こんなものに、不思議な効果があるなんて、とうてい信じられないけれど……


サラは胸ポケットをまさぐると、小袋の存在を確認して、吐息をつく。

魔力ゼロのサラには、小袋の恩恵などわからないが、一応持っておくようにとアレクから言われていた。

ひげからは、盗賊たちがとても喜んだこと、なにより頭領が気に入っていたことを聞いてしぶしぶ受け入れたのだが、本音としては「そんな気持ち悪いもの捨ててよ」と言いたかった。


そういえば、ひげもこの会場にいるんだっけ。

アイツでもいいから、ちょっと一緒に居て欲しいなぁ。


サラはきょろきょろと周囲を見回すけれど、とうてい人探しができるような状況ではない。

背が高くごつい男たちに囲まれ、サラは完全に埋もれてしまっている。


予選にエントリーしたのは、230名。

決勝トーナメントに残れるのは、たったの16名。


『では、これから予選の内容を伝える!』


会場脇に控えていた監視員を兼ねる王城の騎士たちが、一斉に動き出した。

各自、ワゴンを押しながら近づき、参加者1人1人に水の入ったグラスを渡していく。

サラもグラスを1つ渡されると、なみなみと注がれた水をじっと見つめた。


なんだろう。

これを口に含んで、にらめっこ勝負でもさせようって?


チープなお笑い番組にありがちな絵を想像するサラの頭に、責任者からルールを告げる声が響いた。



『このグラスを壊してはいけない。水を空にしてもいけない。残った16名を勝利者とする!』



始め!という合図と同時に、片手を封じられた猛者たちのサバイバルゲームが幕を開けた。


 * * *


予選のルールをいち早く解釈したのが、一握りの魔術師たち。

防御魔術に自信があるそれらの魔術師は、瞬時に自らの体を包む結界を張った。

体をつつむ水の膜を作る者や、土ぼこりを巻き上げて目くらましをする者、固い壁を作り出す者など。


腕力で結界を破るのは、それなりに骨が折れる作業だ。

魔力が消費され弱まるまで、時間をおくしかない。

防御系魔術がそれほど得意でないものや、武力系に頼る騎士たちなど、大多数は結界を張った魔術師をひとまず無視することにした。


手当たりしだい、自分の近くに居た相手に剣や槍で襲い掛かる騎士。

攻撃魔術で、騎士たちのグラスを狙う魔術師。

相手にケガをおわせないよう、ピンポイントで手元を狙っていく。

しかし、攻撃に集中しすぎると自分の手元がおろそかになってしまう。


要領の悪い者、運に見放された者は、実力が出しきれないまま次々と脱落していった。



開始の合図とともに、サラのすぐとなりでも戦闘が起こった。

うっかり利き手にコップを持ってしまったのか、剣を抜けずに立ち尽くした騎士が、風の魔術を操る魔術師の男に体を倒されてコップの水を派手にぶちまけた。


水が、ぴしゃりとサラの靴先にかかる。

サラが顔を足元に向け、再び上にあげると、してやったりという表情の中年魔術師がいた。

魔術師は、先ほどと同じように、サラに向けて指輪をはめた手のひらを突き出した。


風の精霊が、魔術師の召喚に従い、立ち尽くすだけの獲物へと襲い掛かかった。


「……?」


男は、目を瞬かせた。

いったい夢でも見たのだろうか?

風の精霊たちが、目標を失ってゆらめいている。


狙ったはずの華奢な少年騎士は、いつのまにか魔術師の視界から消えていた。



サラは、戦闘を避けてすばやく動きまわりながら、考えていた。

自分の弱点は、物理攻撃のみ。

力の強そうな騎士の近くにいるのは危険だ。


逆に、魔術師に狙われることは平気。


というか……


「あんたら、セコいんだよっ!」


小声で叫ぶサラの声は、喧騒に紛れて誰の耳にも届かない。


強さを競い合うべきこの武術大会で、防御一辺倒の魔術師たちがいる。

賢い戦略なのかもしれないが、サラには気に入らなかった。


そうやって、自分だけは守られた場所に居ながら、戦い合うライバルたちを高みの見物か。

そんなの、私が許さない。


サラは、腕力がありそうな騎士やゴロツキたちをスピードで撒きながら、結界を張ってのんびりとたたずむ魔術師の背後に近づいていく。

油断しきった彼らは、魔力を持たないサラの気配に全く気付かない。


サラが手を伸ばした先には、魔術の結界の壁。



『フッ!』



触れると同時に、サラは素早くその場を離れた。

残されたのは、自分の術が突然消えて、慌てふためく魔術師。


良いカモを見つけたとばかりに騎士の剣が飛び、無防備な魔術師のグラスが打ち抜かれる。

がっくりとヒザをついた魔術師は、結界が破られた真の理由を知ることはなかった。


 * * *


王城の左翼にそびえる塔からは、騎士たちの訓練場がよく見える。

少年は、薄いブラウンの目を輝かせながら、まるで天まで届くかのような怒号と熱気を放つその場所を眺めていた。


「どうだ?今回の予選は」


背後から声をかけられ、少年は嬉しそうに振り返った。


「ああ、5年前と似たような展開だよ」


この様子では、あと半刻もたたないうちに、決着がつくだろう。

何百人いようが、何千人いようが、本当に強いのは一握り。

一握りの、神から選ばれし勇者が、平凡な人間たちをあっという間に蹴散らしていく様が、少年の興味を掻きたてる。


「残りそうなのは、ちょっと見ただけで分かるよね」


あのでっかい長剣を持った騎士と、今魔術師を殴り倒した剣闘士と……

こういう時は、頭で考えずに体が動くような、脳みそ筋肉の馬鹿が強いんだ。


くすくすと邪気の無い笑みを浮かべる少年をたしなめるように、男は呟いた。


「そういう言い方をするから、お前は誤解を受けるんだ」


男は少年の隣に並ぶと、そろそろ人がまばらになってきた訓練場を見やった。

そして、1人の人物に目を留める。


「おい、あのすばしっこいのは……」

「ああ彼ね。僕が一番注目してる大穴君」


まるで気配を消すように、人の背中へ回っては消えを繰り返し、戦わずして生き残っている1人の小柄な男。

いや、あれは少年だろうか?

腰には抜かれていない剣があるので、魔術師ではなく騎士なのだろう。


「ほら、そろそろ決まるよ」


少年は、冷たい微笑によってその美貌をさらに際立たせる。

”氷の王子”という通り名は、トリウム国民なら赤ん坊以外は誰もが知っていること。


最後の1人、しぶとく結界を張っていた魔術師が、騎士の剣によって術を破られ跪いた。

その魔術師の背後には、隠れるのが得意なあの少年騎士がいる。

ああやって、結界を張る魔術師を盾に、逃げ回って勝利を掴んだのだろう。

非力な少年としては、悪くない戦略だ。


「僕、あの金髪の少年騎士に賭けてみよっかな」

「馬鹿なこと言うな、もう行くぞ!」


えー、絶対大穴なのにと文句をたれる少年の首根っこを捕まえて、男は塔を立ち去った。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











天下一……じゃなくて、武道大会予選の回でした。展開ちと甘いですが、チャチャッと終わらせたくてさ。スポーツ系漫画でも、雑魚と戦う地区予選とかダラダラ長いとイラツクでしょ?タッ○みたく、ようやく長い予選終わったと思ったら次のページで全国大会も終わってるという手もあるけど……あれは別格ですが。この先の決勝トーナメントもサクサク行きますよっ。(バトルシーン苦手だからやないかーい!ハッハッハッハ……スンマセン)最後の1シーンだけ、やらしく第三章の伏線風に。

次回、ついに決勝トーナメントが始まります。といいたいとこですが……その前に、あの痛いネタを片付けておきましょう。

※明日新パソコン到着です。うまく繋がることを祈りつつ。

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