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第一章(2)15才のサラへ

お酒と食事の準備を終えた頃に、玄関チャイムが鳴った。

出迎えたサラを待っていたのは、5人の”変なオジサン”たちの、満面の笑みだった。


「ちょっと早いけど、ハッピーバースデー、サラ!」


面食らったサラは、すぐに大爆笑した。

全員が、宴会グッズの鼻メガネをつけていたのだ。

発案者は当然、千葉パパである。


「実は、サラちゃんのお誕生日会も兼ねてたの」


リビングで迎えた母も、いたずらっこのよう微笑んだ。


  *  *  *


さすがに恋する母にオカシな姿は見せられないのだろうか、5人とも鼻メガネはしっかり外してから家にあがってきた。

料理やカンパイの前にプレゼントを渡されて、さっそく開けてみたサラは年相応にはしゃいだ。


高校生はもう大人だからと、アクセサリーや時計など、今年はちょっと素敵なプレゼントばかり。

千葉パパだけは「大人になる必要なし!」と、相変わらずぬいぐるみシリーズだ。

ちなみに遠藤パパがくれた指輪は「殴るときに武器にもなるから」との補足付。


プレゼントとは別に、わざわざ有名店で買ってきてくれたチキンやケーキ。

母の数少ない得意料理であるシチューとサラダ。

そして大好きなパパたちに囲まれて、誕生日会は盛り上がった。

それぞれ忙しい5人が、日程をやりくりしてくれたことを思うと、サラは胸がいっぱいになった。


  *  *  *


パパたちが帰って、お風呂に入って、あとは寝るだけとなったサラは、机の上のプレゼントにもう一度手を伸ばす。

ベッドの上に、あらためてプレゼントを並べてみた。

事前に打ち合わせしたのか、指輪、ブレスレット、ネックレス、腕時計と、アイテムは見事にかぶらず、調和が取れたデザインのものだった。


もう一度、プレゼントされたアクセサリーをつけてみる。

パジャマでは雰囲気が出ないので、さらに気合いを入れて高校の制服に着がえた。

鏡の中には、長い髪を下ろして、少し大人っぽく変身した自分が浮かび上がる。

小脇にテディベアを抱えると、ミスマッチ感がちょっとしたコスプレ風に見えて、サラはふふっと笑った。


3月ギリギリに産まれたサラは、もうすぐ15才になる。

そして、パパたちの片思い歴も、15年。


こんな素敵なおじさんたちが、いまだに全員独身なのは、母に恋しているせいだ。

8/7生まれと勝手に決めた母の年齢は、推定33才。

見た目はもっと若いし、恋愛を諦めるような年じゃない。


見つめただけで男を恋に落としておきながら、どんなアプローチも天然で撃退してしまう母は、パパたちに恋する女性からみると最強の小悪魔だ。

でもなんとなく、母は恋愛という感情を自ら手放しているようにも思える。

たまにそんなことを母に言うと、母は決まって「サラちゃんが大人になるまで、お母さんはサラちゃんだけのものよ」と切り返すのだ。


実際、サラが大人になるまで母は結婚しないつもりなのかもしれないけれど、そんなこと気にしなくていいのに。

私はもう充分愛情をもらったから、母には自分の幸せを見つけて欲しい。

だから、5人のパパでも、他の人でも、母を恋に落とせる男がいたらそれは本物だし、絶対応援する。


でも。

もしかしたら、記憶の底に沈んだサラの本当の父を、想い続けているのかもしれない。

母はいつも変わらず笑顔でポジティブな天使キャラだから、ときどき分からなくなるけれど。


きっと今まで、辛いこともあったに違いない。

だって、子どもを作るっていうのは、人生の一大事だ。

それが、望んだものであっても、万が一望まなかった結果であっても。


子どもをつくった相手のことを全て忘れてしまった母は、幸福なのだろうか、不幸なのだろうか。

子どもができたと分かったときは、まだ産まないという選択ができる時期だったと、馬場先生から聞いた。


お母さんは、どうして私を産もうと思ったんだろう。

私は、お母さんのおかげで、いまとても幸せだ。

だから、お母さんにも幸せになって欲しい。


ぎゅっとテディベアを抱きしめて、そんなことを考えた時、ドアをノックする音がして、サラは慌てて涙が浮かびかけた目をごしごしこすった。


  *  *  *


「サラちゃん、ちょっといーい?」

「どうぞ」


返事すると、お風呂上りで髪を濡らしたままの母が入ってきた。


「あら、似合うじゃない」


1人でコスプレしていたところを見られて、ちょっとサラは恥ずかしくなった。

そのとき、母の前髪からポタッと水滴が垂れたのをみて、照れ隠しのように母の肩にかかったタオルで濡れた髪をワシワシこすった。


「もうお母さんてば、ちゃんと乾かさないと風邪引くよ」

「ふふ、本当にサラはしっかりした子に育ったわねぇ」


さすが私の子、と母は自慢気に言って、じっとサラの顔を見つめた。

そしてふっと、手にもった1冊のノートに視線を落とした。

珍しく、少し沈んだ表情。

不思議に思ったサラは、母の髪をふく手を止めて様子をみる。


「どうしたの?」

「なんだか、サラちゃんが本当に大人になっちゃって、お母さんちょっとさみしいんだ」


笑顔で言ったけれど、心は笑っていない。サラはそんな気がした。


「実は、サラちゃんに読んでもらいたいものがあって」


差し出されたのは、ずいぶん日にちが経って色あせたノートだった。

表紙には、ちょっとヘタクソな古い母の字で「15才のサラへ」と書いてある。


「これを書いたのは、サラが生まれてすぐなの。お母さんのつくった物語1作目」


サラはびっくりして、母の顔をまじまじと見つめる。

そんなものがあったなんて、初めて聞いた。

母の作品マニアにとっては、かなりのお宝アイテムだろう。

しかし、なぜタイトルが『15才のサラへ』なのだろうか?


「15才になる前に、これを読んでおいてね。まだ言葉が下手な頃に書いたものだから、それは大目にみてちょうだい」

「うん、わかった。読んでみるね。ありがと」


サラが真剣な表情でうなずくと、母はひとつ大きなことを成し遂げたように、安堵のため息をもらした。


「じゃあ、おやすみなさい」


そして部屋を出るときに、母はそっと呟いた。


「サラ、愛してる。世界で一番よ」


それが、この世界でサラが聞く、母の最後の言葉になった。

↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











ゴメン、ママン。スマン、ママン。そのうちまた会わせてあげられるかも?会えない時間が愛育てるはず。オッサンは一旦バイナラです。

しかし実母が実際にこんなこと言てきったら、死期が近いのかと疑っちゃいますわね・・・日本の小市民家庭には「愛してる」=「さようなら」の意。シュールだ。安住家はセレブだから違います。

次回は、ついに異世界落ち!こっからしばらくサラちゃん受難の日々ですが、その苦労は後で報われる・・・かも?

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