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第二章 プロローグ 〜運命の剣を探せ!(中編)〜

カリムとリコの身支度は終わり、残すはサラの”運命の剣”探しのみとなった。

2人は、この先サラが戦うような状況にはならないだろうし、万が一のときも体力が回復した自分たちだけでなんとかなるから、剣探しは諦めるよう説得したが、サラは頑として聞かなかった。


「絶対見つけてやる!俺の運命の剣を!」


気分はすっかり、少年マンガのヒーローだった。


 * * *


そこまでいうなら良い方法があるぞと、サラはジュートの部屋に連れて行かれた。

つい昨日は、震えるリコと決意を胸に訪れた部屋。

同じ内装だというのに、なんだかまったく違う部屋に入ったように思えるのは、最初から光の精霊の力で明るく照らされているからだろうか。


サラはきょろきょろと室内を観察した。

間違い探しのように発見した、デスクの上の書類。

昨日の2倍、いや3倍ほどに膨れ上がっている。


積み上がった書類の一番上を、何の気なしにのぞき見ると『本日の宝探しゲーム勝敗表』と書いてある。

盗賊たちが、午前中は全員で遊んで過ごしたと聞いて、あまりの仲の良さにサラは唖然とした。

まさか自分の髪を巡って、鬼気迫る攻防戦が繰り広げられていたとはつゆにも思わない。

ゴツイ男たちが、楽しそうにスクールバスケットや椅子取りゲームをする姿を勝手に想像して、サラはひとりクスクス笑った。


デスクの引出しを漁っていたジュートは、黒い布に包まれた小さな物体を取り出した。

布をめくると、そこからでてきたのは、角が丸く削れた、正方形の小さな石。


「これは、ラッキーダイス」


ジュートは、サラに見せるように手のひらの石を向けたあと、その石にフッと息を吹きかけると、うつむいて瞳を閉じた。

サラは、その整った横顔をねっとり見つめ、目の保養をする。


「我は命じる。サラの運命の剣を見定めよ」


その言葉に反応した光の精霊が、黒いダイスに集い、ダイスを発光させる。

ゆっくりと目を開くと、ジュートはダイスを床に放り投げた。

ダイスは放り投げられた勢いのままに、床を転がって開け放たれたドアの向こうへ。


「このダイスが、お前を運命の剣まで導くはずだ」

「わー、すごい便利ね!」

「ま、そんな剣がここにあればの話だが」


このままダイスが動かなくなれば、サラの運命の剣はここの砦には存在しないだろうといったジュートに「あるもん、絶対!」と反論して、サラはダイスの転がる先を見届けようと、部屋の外へ向かう。


ちょうど部屋と廊下との境目。

そこで、ダイスはピタッと止まった。

サラも足を止める。


突然ダイスの輝きが、一気に増した。

あたかも小さな太陽がそこにあるかのような、白い閃光。

サラも、ジュートも、あまりの眩しさに一瞬目をくらませた。



『ゴロゴロゴロッ!』



ダイスは、猛スピードで部屋へ転がりながら戻ってくる。

サラの靴の先にぶつかり、反動で跳ね返ったが、またサラへと転がり追突。


「えっ、えっ?」


サラが1歩足を引くと、今度はもう1方の靴先へ。

どんどん後退しても、その分距離を縮めて、ズンズンと何度も足へぶつかってくる。


「ジュート、何、これ?」


ジュートは、普段は細められているその目を少し見開いて「いや、俺にも」と呟き、頭を軽く横にふる。

もしかして命じ方に問題があったかと、ジュートはサラのそばに寄った。

腰をかがめてダイスを摘もうと、腕を伸ばすのだが。



『ゴロゴロゴロッ!』



ダイスは猛スピードで転がり、部屋の隅へ逃げてしまった。

チッと舌打ちして、ジュートが姿勢を戻すと、またそろりとサラに近寄り、靴先への突撃を繰り返す。

もう一度ジュートが「おい、逃げんなよ」と言いながら手を伸ばすも、結果は同じ。

ジュートは諦めて、サラから離れ、デスクの上に腰掛けた。


「何?私が気に入らないの?なんなの?」


ジュートが離れて安心したのか、ダイスはツンツンとサラの靴先に転がりつく。

どんなに足を引いても、追いかけてくるので、サラは途方にくれた。

しつこいダイスの動きに、徐々にキレてきたサラが、もうイヤっ!と叫んで狭い室内をぐるぐる逃げ回る。

始めは唖然としていたジュートも、喜劇のようなドタバタ追いかけっこに笑いを誘われ、デスクに腰掛けたままニヤついている。


サラは、堪忍袋の尾が切れ、立ち止まった。

ツンツンと足元をつっつくダイスを、細い指でつまみあげた。

ダイスが逃げずに大人しくしているのを見て、手のひらに乗せる。

すると、ダイスはまたピカッと光を発し、ただの石コロのように動かなくなった。


「一体どーしたの?ダイスちゃん」


床を転がり続けて、少しホコリっぽくなった黒い石。

サラは、至近距離でダイスを見つめる。

その時、サラの手のひらが、パチリと静電気のような音を立てた。



『ボムッ!』



突然の、爆発音。

サラは悲鳴をあげ、手のひらのダイスを床へ放りだす。

ダイスは黒い煙に包まれながら、床へと落下した。



『ガランッ!』



小さな石とは違う、何か重たいものが落ちたような、低く鈍い音が響いた。

サラが目を開くと、そこには黒光りする細身の長剣が、鞘に入った状態で転がっていた。


「ダイスちゃん……剣だったの?」


サラは、小首をかしげながら、ジュートに問いかける。

ジュートは、デスクに腰掛けて目を見開いてたまま、しばらく床に転がる剣を見つめていた。

動揺したジュートが動かした腕が当たったせいで、山積になっていた書類の束が、ばさりと落ちて床に広がっていた。


 * * *


元ラッキーダイスだった剣の鞘を抜いたサラは、その美しさに目を奪われた。

黒い鞘の中には、まるで光を閉じ込めたような、まばゆい刀身。

鍔の部分には透明な宝石が1つはめ込まれ、特別な輝きを放つ。

軽く振ってみると、重さはほとんど感じない。

それどころか剣を持っていない方の腕が重く感じるほどだ。


もう一度刀身のきらめきに目を細め、その美しさを心に焼き付けた後、サラは剣をゆっくりと鞘におさめた。

刀の長さは、サラの腕より少し短い程度で、理想の大剣とはいかなかったが、分相応で扱いやすい。

衣装の腰紐に挿したが、とにかく軽いため、歩いても邪魔にならない。

サラは、すっかりこの刀が気に入った。


「ダイスちゃん、君、本当はカッコよかったんだね」


こんなすごい刀を、私はもらってもいいのかな?

一瞬不安に思い、サラはジュートを仰ぎ見た。

ジュートは、なにやら首をかしげながら、刀を手に取ったり腰に挿したりする、サラの一挙手一投足を見つめている。


「サラ、お前このあいだ、自分には魔力が無いと言ったな。それは本当か?」


ジュートは床に散らばる書類を拾うこともせず、サラから少し離れたデスクに座ったまま、低く鋭い声で問いかけた。


「うん。強い魔術師に、お前は魔力が無いって言われたよ」


ジュートはその言葉に返事をせず、右手を頭の上でひょいっと動かした。

まるで、軽くキャッチボールをするようなしぐさで。

その手の平から、ボールではない何かが出てきた。


ジュートの手から、サラに向かって放たれたのは、1本の光の矢だった。



これは、自分を、傷つけるもの。



自分の目前に迫ってくる光を見つめ、サラは恐怖に身をすくめる。

この世界で初めて見る、悪意という意思を持った、光の化身。

なんだか頭が、ぼんやりとする。

鋭い矢が自分の胸に向かっていることに気付いても、指一本動かせない。


ダメだ、逃げられない。



『バチンッ!』



サラの胸に触れた瞬間、光の矢は小さな爆発を起こし、はじけて、消えた。

いや、消えたと思っていたそれは。



ジュートの胸に、突き刺さっていた。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











すみません、思ったより長くなってしまったので、いいとこで続く……という嫌がらせを。

ラッキーダイスちゃんの変身、作者もびびりました。どっかテキトーな隠し部屋にでも転がっていくと思ったら。不思議だ。

次回で、けっこうキ○クな精霊王君の出番はひとまずオシマイ。なのでご祝儀に、ちょい大人のムフフ的展開に……青汁準備必須。

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