表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/198

第一章(15)3+27の願い

サラとリコは、再び最初に寝かされていた客室へと案内された。

リコは頭領の部屋で倒れてから、眠ったままだったので、下っ端男が抱き上げて運んだ。

「リコには絶対手を出させないで」と約束を取り付けたけれど、少し不安に思いつつ、下っ端男の後ろ姿を見送る。


あいつは頭領を相当怖がっていたし、命令は守るだろう。

いや、おばちゃんの方が、もっと怖がっていたような?

きっとこの社会も、男が動かしているようで、実際は女が強いという構図があるのかな。


部屋に入り、ベッドにごろんと寝転ぶと、洗いたての石けんの匂いがした。

さっきの身から出たじゃりじゃりは無いので、シーツを交換してくれたんだろう。

とても気がきく。

まるでお客さま扱いだ。


というか……


サラは、先ほどまでの、めくるめく昼ドラチックなやり取りを思い出して、ため息をついた。


  *  *  *


ベッドに寝転んだまま、細く柔らかな指先で、サラはそっと自分の唇をなぞる。

彼は、ここにたくさん触れてきた。


「口付けていい?」


と聞かれてから、何回も。


サラにとっては、物語で見たことしかない、初めてのキス。

呼吸をすることも忘れて、キスの嵐を受け止めるのが精一杯だった。

途中から苦しくて、全身の力が抜けて、彼の胸にもたれかかった。


やっとキスの嵐が止まったとき、サラは真っ赤な顔に涙目で、彼を睨んだ。


「ずるい……」

「なんで?」

「いい?って聞かれて、いいよって言ってないのに、した……」


彼はくくっと目を細めて笑った。

ゆるくウェーブがかかってやわらかそうな緑色の髪をかきあげながら、じゃあ代わりにお前の願いを聞いてやると言ったのだ。


動物脳のサラは、すかさず言った。


「じゃあ、30個聞いて?」

「ん?いやに多いな」

「だって、30回したもん。ホントはもっとよ。でも最後まで数えられなかったから」


なぜそんなことを言ったのか、サラは自分でも分からない。

右脳と左脳の入れ替わりがあってからの自分は、本気でアニマルじみていて、人間に戻ったサラからするとちょっと、いやかなりの別人だ。

細部まで思い出してしまい、1人赤面したサラは、布団の上をゴロゴロと転げまわった。


  *  *  *


「お前の声には、精霊の約束と同じ力がある」


だから仕方ないな、と彼は言った。

サラのお願いを、30個聞いてくれると約束したのだ。

さっそく1つ目のお願いをした。


「私と、リコと、カリムを、傷つけずに無事にトリウムまで連れていって」

「ああ、分かった」


目的を達成して、サラはホッと一息ついたのだった。

それと同時に、母の物語を思い出した。


ああ、そっか。

『説得』の中身は、これですか。

まさか、自分のファーストキスから、サーティスキス?までをささげて、味方につけさせるとは。

これは、もし分かっていたとしても、書けないかもしれない。


一瞬のん気に考えても、すぐに物語の結末を思い出し、サラは目を伏せる。

母の物語は、私の力で変えられるんだろうか?

あの、悲劇の結末を……


「2つ目のお願い、していい?」

「ああ、なんだ?」


サラの髪をいじり、時々口付けながら向けられる、緑色の、甘い視線。

自分がチョコレートだったら、あっという間に蕩けてしまうだろう。

サラは、これを板チョコ湯煎的熱視線と名づけた。


今なら、言えるかもしれない。

こんなに甘く熱く、私を見つめてくれるこの瞬間なら。


もしも私が悪いことをしても。

あなたにとって敵になっても。

あなたが私を嫌いになっても。


それでも。


私を……


私を、殺さないで。


言いかけて、口ごもった。


  *  *  *


口をぱくぱくと動かすけれど、サラは言葉を発することができない。

怪訝な顔をした彼に、サラは補欠で考え付いたお願いを告げた。


「あの……私に、あなたの名前を、教えて?」

「ああ、いいぞ。俺の名前は……」



『ジュート』



「ジュート?」

「ああ」

「ジュート、ジュート」

「うん?」


もう、駄目だ。

私はあなたに恋してしまった。

サラは、ぎゅっと目を閉じて、一番の願いを選択した。


「3つ目のお願い、いい?」

「なんだ?」


サラには、母の物語と今の自分の関係も、サラ姫の命も、この大地の運命も分からない。

分からないけれど、これだけは言える。


「もしも、私がこの世界から消えても……悲しまないで」


死ぬとは言えない、元の世界に帰るとも言えない。

だから消えると言った。

ジュートは、甘い視線から再び鋭く攻撃的な視線へと、瞳の色を変えた。


「大丈夫、あなたの近くには、きっと女神がいるから」


私は、消えてしまうかもしれないけれど。

悲しい決意を胸に、微笑んだサラを見て、ジュートの瞳の色は、とまどいを表すように揺れている。


  *  *  *


サラの言葉はあいまいな、謎かけのよう。

それとも、言霊をのせた予言だろうか。

ジュートはサラの髪を離すと、サラを両手で引き寄せ、胸の中に閉じ込めた。


「お前のお願いだから、聞いてやるけど……絶対消えるなよ。ここにいろ」


きゃー!


サラは、押し付けられた頬から彼の胸の鼓動を聴いて、舞い上がる。


頭の中に花畑が咲いて、その向こうに川が流れていて、その川の向こうにはおばあちゃんが手を振っている姿が見えたような気がした。

おばあちゃーん!


サラは抱きしめられたまま、現実逃避な妄想に浸った。

背の高いジュートは、そのまま頭を傾けて、彼女のつむじのあたりにそっと口付けを落とす。


その瞬間、サラは幸せな夢から覚めた。


やだっ!

節水シャンプーでつむじ付近ちゃんと洗えたかビミョーなのにー!


そんなサラの焦りにはまったく気付かず、彼女の艶やかな黒髪の触り心地を楽しみながら、ジュートは頭の上からささやく。


「次のお願いは?」

「えっと、もう無い……」

「おまえ、謙虚だな。もっとわがまま言えよ。おまえのわがままは面白い」


どこかで聴いた台詞を、ジュートはこれ以上無いほど甘く、ハスキーな声でサラの耳元にささやいてくるのだ。

再び、頭が感情モード、いや動物モードに切り替わった。


「じゃあ、あと27個言うね!」


サラは、ジュートの胸を手で押し返して、首をぐっとあげて、上目遣いで緑の瞳を見あげた。


ああ、こんなことを言ってしまうなんて。

やっぱり私、お母さんの子なんだ。



「あと27回……口付けして?」



きっと、このときの表情は、女の敵レベルでラスボス級の、最強小悪魔だったに違いない。

↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











いや、こんな展開を最初から考えていたわけでは……言い訳ですけどみたいな……。テーマソングは、メルティラブ@シャズナでぜひ。

次回、アマッ!でもちょっと涙?の第一章ラストです。目指したのは、学校へ行こうってテレビで、ちびっこ学生の主張がやけに泣かせるシーン。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ