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第五章(26)召喚の真相

 サラは今まで聞いた“赤い瞳”のデータを、頭の中で簡単に整理してみた。

 キーになるのは、やはり支配者であるサラ姫だろう。


 赤い瞳を操ってみせたことで、国王の信頼を得たサラ姫の立場は、幽閉される身からかしずかれる姫へと劇的に変わった。

 そして、サラ姫を虐げたという王妃と王妃の子どもたちが死に絶えた。

 死の遠因はさておき、直接の原因ははっきりしている。

 国王の体への負担を軽くするために、赤い瞳を一時的に移植する行為のせいだ。


 サラは、戦場で倒れた魔術師を思い出した。

 あの男は、赤い瞳に乗り移られてから、一日と持たずに死に絶えたのだ。

 しかもサラへのあの虐待は……本当に狂っていたとしか思えない。

 思いだしかけたサラは、寒気を抑えるように、柔らかく暖かいサラ姫の体を抱きしめた。


「王族たちは、赤い瞳に操られたけれど……結局は、自分たちがもともと心に抱え込んでいた闇に負けたのよね。その後、キール将軍という赤い瞳と相性の良い相手が見つかって、彼を戦場へ送った。定期的に神託……赤い瞳を呼び戻すことで、国王は戦地の状況を確認し、指示を出していた」


 魔術師は無言でうなずき、サラ姫はうつむいたまま何も言わず黙っている。

 過去の話ではなく赤い瞳の話なのに、サラ姫の態度に若干の怯えが見えるのは、何かまた別に辛い記憶があるからかもしれない。

 赤い瞳を従え、闇の魔術を操る側とはいえ、彼女も闇に囚われる人間……闇の魔力の源は、自らの暗い心なのだから。


「その後は、双方に決め手を欠くまま戦争は長引いて……ネルギは通常の軍による攻撃だけではなく、トリウム王族の暗殺を狙うようになった。でもあの国にも魔女……闇の魔術を使える能力者が居たから、暗殺はなかなか成功しなかった」


 サラの言葉に、サラ姫が忌々しげに唇を尖らせる。

 サラ姫にとって、きっと月巫女は目の上のたんこぶのような存在だったのだろう。

 この世界の歴史を第三者的に眺めてみれば、二人とも悪女度はどっこいどっこいなのだが。


「そして最後は……ここからは、私も直接見てきているけれどね。サラ姫、あなたは“偽物の王女”という和平の使者を仕立て上げた。でも本当は、王女の存在なんて単なるカモフラージュ。狙いは、王女付きの侍女と言う暗殺者を送ること。ねえ、合ってる?」

「……はい、その通りでございます」


 語気鋭く言い放ったサラに、渋々といったていで魔術師が返事をする。

 サラは、そこでふっと一息ついた。


  * * *


 どうして自分だったのか、とサラは思う。

 この世界に自分が呼ばれたことは……とても理不尽だ。

 感情を抑えられないまま、とげのある口調でサラは魔術師を問い詰める。


「本当に、どうしてわざわざそんな手の込んだことを? この世界の女の子に、“あなたはサラ姫だ”って暗示をかけて、身代りに仕立てたら良かったんじゃない? 最初の話じゃ、私を呼び寄せるのってかなり大規模な召喚魔術だったっていうし、もし失敗したら“贄”にさせられたサラ姫だって危なかったんでしょ?」


 高度な魔術が失敗したらどうなるか?

 それは、オアシスの国でも、幾つかの事例を見てきた。

 侍従長のように赤ん坊に戻るか、エール王子やリコのように魂を傷つけられて苦しむか、赤い花の広場に隠された大勢の人のように命を落とす……。


「今さらそのことを責めてもしょうがないって分かってる。私もこの世界へ来たことは、後悔してない。ただ、知ってしまったからにはもう見過ごせない。リコのことも、戦争のことも、赤い瞳のことも……サラ姫の罪も」

「あなたさまを呼び寄せたのは、このわたくしです。全ての責任は、わたくしにあります」


 怪訝そうに眉根を寄せるサラに、魔術師は深々と頭を下げた。

 先程杖に寄りかかっていた角度より、もっと深く。

 魔術師にとってこの行為は、騎士が膝をつき頭を下げるのと同じように、心からの贖罪を意味するのだろう。

 顔を上げた魔術師は、サラに対して……微笑んだ気がした。


「真実を、お伝えいたします。わたくしは、“サラ姫さまに似ている者”を、異界から呼び寄せたのではありません」

「――どういうこと?」


 気を持ち直したサラ姫も、サラと同じように魔術師へ鋭い視線を向ける。

 感情と行動が直結するサラ姫は、すかさず言い放った。


「ちょっと、あなた何企んでたわけっ? 私そんなこと聞いてないっ!」

「はいはい、サラ姫は黙ってて」


 サラがいいこいいこと頭を撫でると、サラ姫は子犬のようにウーッと唸って口を閉ざした。

 だいぶ懐いてきたその姿を見て、サラと魔術師が同時にため息をつく。

 その瞬間……二人の心がシンクロした。

 サラには、魔術師の召喚条件が分かった気がした。


「もしかして……?」

「わたくしには、この国が戦いに敗れるような気がしてならなかったのです。だから、願いました」


 目を見開いて凝視するサラに対して、間を置きながらゆっくりと、魔術師は言葉を選びながら真実を告げた。

 サラに対しても、サラ姫に対しても、誠実に。


「異界のサラ姫さま。あなたを呼び寄せたのは、唯一つの目的のためです。どうか……可哀想なサラ姫さまを、この世界からお救いくださる方を、と――」


  * * *


 魔術師の告白を聞いたサラとサラ姫は、思わず顔を見合わせた。

 鏡に映したような二人。

 魔術師によって召喚された人物を見て、サラ姫は勝手に勘違いをしたのだろう。

 自分の身代わりとなって敵国へ乗り込み、暗殺を果たしてくれるのに最適な人物を呼び寄せたのだと。

 本当は、そうではなかったのだ。


「サラ姫を“贄”にするなんてリスクを冒しても、召喚魔術を行った理由……なるほどね」


 サラがはあっと厭味ったらしい溜息をつくと、再び魔術師は深々と頭を下げる。

 そしてサラ姫は、混乱を隠せないままサラと魔術師とを大きな瞳で交互に見詰めている。


「もし召喚に失敗しても、いずれこの国もろともサラ姫は滅びてしまう。そうなるくらいなら、一発逆転してやろうってことでしょ? どうせ呼び寄せるなら、単なる偽物じゃなくて“サラ姫”を助けてくれる救世主サマを呼び寄せようってことだったのね」

「はい。おっしゃるとおりでございます。わたくしも驚きました。まさかあなたのような方がやってくるとは」

「――私が見つけたのよっ」


 不意に甲高い声を上げたサラ姫が、サラの胸の布地を掴んでいた手を開き、そのままサラの背中へと回す。

 見た目に似合わない強烈な締めつけに、サラは「オエッ」とうめき声を上げた。


「暗闇の中で、この子がキラキラ光ってたの。だから捕まえたのっ。私がっ!」

「はいはい、分かったからちょっと、腕緩めてよっ」

「うーっ……」


 そろりと外された手の片方には、まだ白いハンカチが握られている。

 自分にそっくりなくせに、小さな子どものようなサラ姫の態度に、サラはうっかり笑ってしまった。

 しかし、そんな場合ではないと再び気を引き締める。

 リコのこともそうだけれど、まだ問題は解決していないのだ。

 サラの、魔術師への質問は続く。


「それで、あなたは戸惑いながらも、身代わりの姫として私をトリウムへ送り出した。その後、私が居ない間にこの王宮の中で特に問題は無かった?」

「はい、特に何も……」

「あの日……月が太陽を覆い隠したときも、何も起きなかった?」


 再びサラ姫は、サラの体に抱きついた。

 魔術師も、手にした杖を小刻みに震わせている。


「何か、あったのね?」

「分かんないっ! 分かんないけど、ただ暗くなって怖かっただけ!」

「……わたくしは、サラ姫さまのお側におりました。カナタ王子さま含め、他の方は皆別室に。その間、わたくしは意識を失っていたようで、何も覚えていないのです」


 動揺しまくる二人が、何かを隠しているようには見えなかった。

 単に暗闇に恐怖しただけ……サラは、その言葉通りに受け取った。


 あの皆既日食は、赤い瞳が暴走することを許された僅かなチャンスだった。

 サラ姫も、もしかしたらリコがあんな状態になるとは思っていなかったのかもしれない。

 しかし、リコにかけられた闇の魔術は、死の魔術であることは間違いない。

 成功しても、失敗しても、リコは……暗殺者は死ぬ運命なのだ。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











 ヒーッ。またもや間があいてしまいました。もう言い訳は止めます。いろいろあって長編の進みが……三本くらい枝分かれしたルートの一本をようやく選んで、これをアップします。もうこの三人のお話終了にしようと思ったけど、もうちょっとだけ……すんません。今回の目玉商品(?)は、サラちゃん召喚の真相でした。単純にそっくりさんを呼んだわけじゃなく、サラ姫溺愛な魔術師さんが、サラ姫を助けてくれる人を呼び寄せたということでした。そっくりさん探すくらいで、わざわざ大事なお姫様の命をかけるわけがない、ということで……この辺も一応謎というか伏線の一つだったのですが、まあ些細な部分です。あとは、便利だけどメンドクサイ、赤い瞳サンの能力まとめ。頭混乱した作者のために……という意味も無くは無い。ラリホーかかってます。

 次回は、今度こそ三人のお話完了編。これから赤い瞳サンをどーするっぺ? という相談です。三人寄れば文殊の知恵……というわけにもいきませんが。

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