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第五章(12)アレクの帰還

 エールが用意してくれた馬車は、サラが数日前に戦場へと旅立ったときとほぼ同じタイプだった。

 壁面にみっしり積み上げられた物資には、水を入れるタンクと長期保存できる乾物が多く、それらはサラたちの分はもちろん、途中飢えた民が居たら配布するようにと配慮されたものだ。

 馬車の中心には、横たわるリコ。

 その両サイドには、アレクとサラ。

 リーズはといえば、器用なタチだけに、満場一致で馬車の操縦係となった。


  * * *


「それにしても、アレクってば本当に?」

「ああ、成人したとき以来……かな」

「お父さんもお母さんも、心配してないの?」

「母親はあの性格だし、父親は誰だか分かんないからなあ」


 あっという間に苦手なシモ系の話題に転がり落ちかけ、サラは額の汗を拭いつつ小窓の外を眺めた。

 もうとっぷり日は暮れたというのに、馬車が走り続けていられるのは、ひとえにリーズの……従える二人の妖精のおかげだ。

 ちょうど車のライトのように、二本の明るい光線が道を照らす。

 おかげで暗闇に弱い二頭の馬も、安心して農道を走れる。


「そういえば、サラの家族の話って聞いたことねぇな」

「ええっ……そうだっけ?」


 長い脚をリコにぶつけないように折り畳んだアレクが、小窓から差し込む月明かりを受けて瞳を輝かせる。

 月が良く似合うこの人は、もしかしたら闇の魔術を使いこなせるタイプかもしれないと、サラは女神の勘を働かせた。

 もし盗賊の砦に残っていたら、何人もの女性から求愛されて大変だったかも……。


「おい、サラ。また飛んでるぞ?」

「はわっ! ごめん……」


 右脳と左脳が入れ替わるのが、サラと女神の切り替わりに似ていると気付いてから、サラはなるべく理性を保とうと努力しているのだが……つい月や大地に目を向けてしまうと、女神モードに切り替わる。

 そういえば聞こえは良いものの、単に『ぼんやりモード』と言っても過言ではないのだが。


「うんと、私の家族だよね。お母さんが一人と、お父さんが五人」

「――はぁっ?」

「あっ、イカガワシイ想像しないでよ? お父さんは、全員血のつながりは無いの。本当のお父さんは誰だか分からないんだ。お母さんが記憶喪失になっちゃって、そのときには私がお腹の中にいたの」


 アレクは「なんか複雑そうだな」と苦笑した。

 サラが先に釘をささなければ、父親がその五人のうちの誰か分からないような行為をしたなんて、盗賊ルールの解釈をしたに違いない。


「お母さんは、見た目私に似てるって人もいれば、逆っていう人もいたなあ。髪の色と眉毛と、あと性格は全然違うかも。お母さんはふんわりしてて、お父さんたちからは“天使”って呼ばれてたから」

「へー、天使ねぇ……それは一度お目にかかってみたい」

「無理だよー。お母さんは異世界にいるんだもん。私もそこから呼ばれ」

「おい、ちょっと待て」


 出発前、コーティとナチルにやり込められたときと同じ……いや、もっと深く眉間にシワを寄せ、アレクはサラを三白眼で睨みつける。

 その迫力にびびったサラは、後退りしようとして、すぐ後ろの物資に阻まれた。


  * * *


「その話、誰がどこまで知ってるんだ」

「あ……そういえば、アレクにはちゃんと言ってなかったっけ?」

「聞いてねーし」

「えっと、カリムとリコと……あとバレちゃったクロル王子、きっと月巫女と、薄々国王様あたりも……もちろんネルギ王宮の皆さんも、かな?」

「てめえっ!」


 サラがリコを気にして人差し指を唇に当てると、アレクはわなわなと肩を震わせ、囁き怒鳴り声を上げた。


「なんでそんな大事なことを言わねーんだっ!」

「だって、ニセのサラ姫だってバレちゃうし……」

「お前は信頼できるかできないかの判断もつかねーのかっ?」

「アレクのことは、信頼してるよ……ただちょっと、言いそびれちゃったっていうかぁ……」


 サラの本音が飛び出したところで、アレクは中腰になり長い腕を伸ばすと、サラの髪をショートカットの時のようにぐちゃぐちゃにかき混ぜた。


「ばーか。言い訳すんじゃねーよ。正直に謝れ」

「はい、ゴメンナサイッ!」


 この髪すぐくちゃくちゃになるから、梳かすの大変なのにーと唇を尖らせるサラに、アレクは怒っているように見せかけて愛情タップリの視線を向けてくる。

 アレクの気持ちがダイレクトに伝わって、サラはちょっとお尻のあたりがむずがゆくなった。


「本当だよ? アレクにはちゃんと言おうと思ってたんだから。ただ、オアシスに着いてから想像以上にいろんなことがあって……」

「ああ、分かったよ。それで? お前は一体どこから来たんだ?」


 サラは、そういえばあの好奇心の塊のようなクロルに、そのことを良く突っ込まれなかったなと思い出す。

 なんだかんだ、クロルにも大きな事件の解決と戦場へ行くなんて無茶があったから、単にその話を忘れていたのかもしれない。


「私が来たのは“地球”っていう星。ここと似てるけど、そうじゃないところもある。たぶん、過去にこの世界と繋がっていて、枝分かれした未来の一つ……って、アレ?」


 ぺらぺらと饒舌に語るサラは、自分でも何を言っているのか分からず混乱した。

 くちゃくちゃにされた長い髪を指でかきあげ整えながら、猫がグルーミングをするように落ち着きを取り戻そうとする。


「なんか、お前の言ってる話はデカ過ぎて、俺にはわからん」

「アハハ……私にも、良く分かんない」


 女神は、いつ生まれてどこまで知っているのか……。

 今のサラには計り知れないけれど、もしかしたらこの先の未来が、再び地球とリンクすることもあるのかもしれないと思った。

 過去は過去、未来は未来。

 未来のことは、今生きているたくさんの人たちが、ひとつひとつ選択をして築いていくものだから。


  * * *


 行きの行程では、徒歩で二十日間。

 帰りは、馬車を突っ走らせて四日間。

 途中デコボコ道もあったけれど、スプーン二人で驚きのパワーが発揮され、道は馬が走りやすいように平らにならされた。

 盗賊の砦に到着したとき、さすがに馬はへとへとになっていたけれど、サラが鼻面を撫でてあげると元気良くいなないた。


「サー坊は動物とも会話できるのかあ……女神様ってスゴイね」

「会話まではしてないしっ!」

「あ、そっかあ。ごめんごめん」


 相変わらずぼんやり癒し系なリーズに先導され、サラたちは砦の入り口へと連なる迷路のような岩山を進んで行った。

 相変わらず意識の無いリコのことは、真っ先にリーズがお姫様抱っこしようとしたものの、兄が力技で奪い取った。

 その理由は……。


『女避け』


 の一言。

 細い目を最大限に細めて、不満を露にしていたリーズも、入り口が見えたとき……その光景を見て引き下がった。


「キャアー!」

「アレク様ー!」

「お帰りなさいませっ!」


 アレク凱旋の報を既に聞いた盗賊の女人たちが、砦の入り口前にズラリと並んでいた。

 その数、およそ二百人。

 中にはナチルより小さい幼女までいる。

 彼女たちの姿を見て、アレクは「入り口からは出るなってのに……まったく」と、リコの体を必要以上に自分へ密着させつつ大きなため息をついた。


「おい、サラ。もうちょっと俺から離れてくれ」

「ん? どーして?」

「今の俺は“純愛キャラ”で行くんだ。女二人以上イケると思われたらマズイ。あいつら全員押しかけてくる」

「へー……それって面白そうっ!」

「あっ、バカ、やめろって」


 サラが茶目っ気を出してアレクの腕に絡みつくと、一度リコに対する怨念で埋め尽くされた砦入り口から、「キャー!」「私もっ!」と盛大な歓声が上がった。

 リーズはといえば、「やっぱり兄さんは置いてくれば良かった」としょんぼり呟き、スプーンズにひたすらフォローという名の褒め殺しを受けていた。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











 はい、あっという間に四日分進めました。本当はもうちょっと時間かけようと思ったんだけど、城でもたついた分ハイスピードで。久々に、アレク様との交流シーンです。気さくなお兄ちゃんキャラなので、サラちゃんも超リラックスモード。リラックスしすぎてうっかり女神モード混じりましたが……良く似ているようでちょっぴり違うパラレルワールドってほんとに便利だなー。そういう設定じゃなきゃ、まずサラちゃん異世界の会話&コミュニケーションからスタートしなきゃいけんかった。もちろん、魔術で『翻訳こんにゃくー』みたいなのもアリなのですが、どっちがベタだろうと思って、よりベタ(楽チン)な方にしました。というのも、異世界から人を呼び寄せたのは、たぶんサラ姫が始めてなので、翻訳グッズもありえないということで……浅いようで深い、異世界召喚の世界。(しかし、このストーリーは浅いです。潮干狩りにもってこい!)あ、今回スピード上げて割を食ったのはリーズ君でした。いつも脇役でゴメンよっ!

 次回は、盗賊の砦でちょっとだけくつろいで、すぐ出発。今ならカリム君たちに追いつけるかなー。

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