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第五章(10)妖精と女神

 サラが二本のスプーンを手のひらに乗せたまま、一人顔色を赤くしたり青くしたりする姿に、その場に居たメンバーが不思議そうに顔を見合わせる。

 髪が伸びた理由とともに、サラが『魔術が使えるようになった』ことも、すでにナチルから説明を受けていたが、スプーンと心で会話できるとまでは聞いていなかった。

 それに気付かないまま、サラは妖精に話しかける。


『ねえ、私っていったい何なの? あなたたちは知ってる?』


 二人の妖精はアゴに手をかけ首を傾げ、まるで鏡に映したかのようにそっくりなポーズをとると、唇を尖らせながら言った。


『あたしたちは、女神様のこと“めがみさま”って感じるだけですぅー』

『こうしてくっついてると、キラキラで気持ちよくて……はぁー』


 くたびれたOLが二人、温泉に浸かったときのように、妖精はサラの手のひらにゆっくり倒れた。


  * * *


 天井に向けて広げたサラの左手の上で、金と銀の髪を持つ小さな妖精が幸せそうに寝転ぶ。

 女神パワーについて、何か有益な情報が得られるかと思っていたサラは、内心「チッ、つかえねー」と女神らしからぬ舌打ちをした。

 しかし、二人の妖精は「はー極楽極楽」「たまにはご主人様から離れるのもいいわねぇ」と、リゾート気分を満喫している。

 月巫女とは違って、意図的に話しかけない限りはサラの声も聞こえないようだ。

 今にもこっくり舟をこぎかねない妖精に、サラはもう一つだけ確認する。


『あなたたちは、リコのこと……闇の魔術のことどう思う? やっぱり光の魔術じゃ治せないものなの?』


 寝転んだ姿勢のまま、妖精は顔を見合わせると、目を伏せた。


『あたしたちは、強すぎる闇にはとっても弱いんです……』

『エール王子もですが、リコの魂も今は暗い闇の中に……』


 サラは、昼間の皆既日食を思い描いた。

 あのとき闇に隠された太陽は、リコの心と同じなのかもしれない。

 日食なら時間が経てば終わるけれど、リコの心は終わることのない暗闇に包まれているのだ。


『女神様、あたしたちリコのこと助けてあげたいって思うの……』

『リコの体を守ってあげることはできるから、付いていてあげたいんですっ』


 熱いお風呂からあがるようにゆらりと立ち上がると、「一緒に連れてってください」とヘッドを下げるスプーン。

 サラは慈愛が溢れる瞳で『ありがと』と声をかけると、顔を上げた。

 一度ベッドの上のリコに目をやると、その青白い顔に先ほどはなかった苦悶の色が見えた。

 夜が近づくにつれリコを覆う闇も深まるのだと、サラはなんとなく察した。


 この先、日一日と月が欠けて、夜の明かりは頼りなくやせ細っていくのだ。

 とにかく、サラ姫に会わなければならない。

 一刻も早く……。


「リミットは、新月かな……」


 女神の能力が自在に操れるなら、サラがその翼で一人砂漠に舞い戻る方が早い。

 しかし、能力の限界も分からず、唐突に力が切れる不安定な状態では、むしろリスクになる可能性も高い。

 やはり正攻法で、陸路を使うしかない。

 魔力でサポートし、馬とラクタを使って急いでも、砂漠の王宮まで片道半月、往復一ヶ月はかかってしまう。

 体調が悪いリコを動かすのは心が痛むけれど……。


「やっぱり、連れて行くしかないかも」

「あのー、サー坊?」


 おずおずと、リーズが声をかけてきた。


「ああ、ごめん。妖精ちゃん借りて」


 サラがスプーンを返そうと手を差し出すと、リーズは一歩身を引いた。

 不思議に思ってもう一歩近づくと、また一歩下がってしまう。


「リーズ?」

「いや、なんか……怖いんだけど」

「なにが?」


 きょとんとして首を傾げるサラに、手のひらの妖精が話しかけてきた。


『あのー、ちょっといいですかぁ?』

『女神様、後ろ後ろー』


 なんだか昭和のベタなお笑い番組みたいな展開に、サラが恐る恐る後ろを振り向くと……。


「――ぴゃっ!」


 奇妙な悲鳴と共に、サラの背中の羽がぷるっと震えた。

 握り締められたスプーンが『女神様って、面白いひとだねー』と笑い合った。


  * * *


 サラは、ほんの少しだけ女神パワーの仕組みが分かったような気がした。

 単に「女神パワー、オン!」みたいな掛け声やら気合いだけでは、せいぜいおならくらいしか出せない。

 心が何かを強く望んだときに……サラという人間のエゴが消え去ったときに、女神は現れる。

 あと、光の妖精に触れたことも、もしかしたら関係あるのかもしれない。

 戦地であれだけ力が安定していたのは、傍に精霊王が居たから……。


「あのー、みんな……くすぐったいんだけど……」


 勘が鋭くなっている今のうちに、女神の仕組みを整理しておきたいという希望は、参拝客の無礼な行為によって妨げられる。


「へえー、女神様の羽って鳥の羽と似てるんだなぁ。付け根はどーなってるんだ?」

「ちょっと兄さん、引っぱっちゃダメだって。せいぜい撫でるくらいで我慢しなよー」

「サラ姫が、女神様だったとは……ああこの神々しくも柔らかな肌触り……この羽を枕に眠りたい……」

「女神様の翼サイズは……と。うん、今度はもう少しお体にフィットした服を作れそうですわっ」


 眠っているリコを除き、残りの四人は……羽の玩具を目にした猫状態だ。

 リーズが声をかけるまでは、それこそ魂を抜かれたような態度を取っていたのだが。


『女神様、あたしたちを一回放して?』

『たぶん羽しまえるかもー』


 異常なテンションの四人の中で、もっとも冷静なリーズ。

 サラは手を伸ばして、リーズの胸ポケットにスプーンをねじ込んだ。

 その瞬間、一メートル大の翼は、白い残像を残して消えた。


「あー、良かった……」


 ホッとするサラに、不満げな三人と苦笑する一人の視線がぶつけられる。

 興奮状態がおさまり冷静さを取り戻した彼らは、サラにクールで明快な事情の説明を求めていた。

 サラは引きつり笑いを浮かべながら言った。


「あのね、私にも良く分からないんだけど、なんか、ときどき女神様に変身できる体になっちゃったみたい……」


 納得するにはほど遠いサラの言葉に、四人の眉の角度がつりあがる。

 それ以上は言えることが無く、サラはアハハと笑ってごまかそうとするが、四人の視線はますます冷たくなり、室内の温度も一気に冷えていく。

 冷や汗タラタラの女神を見ていられなくなったのか、無事我が家へ帰宅したスプーンズが補足をしたのだが……。


『今日のお昼で、この世界は滅びちゃうとこだったんだよー』

『女神様が救ってくれたんですよ、ねっ、女神様?』


 あたかも、時代劇のスケさんカクさんのような大げさ過ぎるフォローに、サラは「そんなことないよぉー」と慌てて手を振る。

 しかし、それを聞いてしまった面々は……悪代官一味のごとく、見事その場にひれ伏した。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











 さて、八月もすでに折り返し地点。サラちゃん、未だ王城から出られず。想定外です。もう八月完結ののろしをアチコチに上げてしまったというのに……いや、諦めたら試合終了だっ。今回のメインは、サラちゃん&スプーンズの交流と、みんなの前で女神様暴露。「シムラ後ろー」は一回使いたかったので、出せて良かったです。(王道ギャグをいくつ制覇できるか……それも今作品の大事なテーマでありますっ)話が進まなかったので、あまり書くことが無いなあ。補足するとしたら、女神様が現れたときの態度で、エール王子がむっつり系だってバレたことくらい? アレク様は何気に分析魔だし、リーズ君はとにかく兄命のツッコミマシーン。ナチルちゃんは衣装係魂に火が。あー、こんなことばっか考えてるから進まないんだな……。

 次回は、ついに(やっと)王城脱出。平坦な旅はあっさりこなして先を急ごうと思います。


※昨日告知させていただきました、小説を読もう・夏のホラー2009企画に出品した『ドメスティックバイオレンス弁当』(http://ncode.syosetu.com/n6964h/)

ですが、おかげさまで決勝戦へ進出……嬉しいやら申し訳ないやら。(8/18 17:00まで敗者復活戦のようです。面白い作品多数ありますので、ぜひいろいろ読んでみてください。投票&作品リストはこちら→http://horror2009.hinaproject.com/site/list/

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