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第一章(13)頭領の魔術

頭領の部屋の中は、砦の頂上に近い位置にあるというのに、予想に反して窓がなく、薄暗かった。

目隠しを外されてから、しばらく明るい廊下にいて光に慣れていた目は、一気に暗闇に塞がれた。

目を凝らしても、薄くグレーの膜がかかったようにしかみえない。

おかげで、蝋燭の灯りの先に居る男の顔は、よくわからない。


向こうからこちらの2人は、良く見えているはずだ。

サラは、リコの華奢な手を握りしめながら、暗がりに目が慣れるのを待った。


  *  *  *


部屋の中は、8畳ほどの広さだ。

座り心地の良さそうな木製で布張りのイスに、男が腰かけている。

その手前には、大きなテーブルと、積み上げられた書類の山。

こんなロウソクの灯りだけで、書類を読むなんて、目を悪くするんじゃないだろうか。


それとも……

精霊の加護で、灯りは関係ないとか?


大地を見守る、緑の森の精霊王。

森は、人間が足を踏み入れると気が狂ってしまうという、精霊たちだけの楽園。

そんな緑の森に住むはずの男が、なぜこんな緑のない岩山で、盗賊の頭領なんかをしているんだろう。


男が立ち上がった気配がして、サラはその疑問を頭からおいやった。


「ようこそ、我が砦へ」


低く甘い声が、闇を震わせて響き渡る。

男はテーブルを横切り、2人の方へ近づいてくる。

さすだに盗賊だけあって、足音はいっさい聞こえない。

黒い服を着ているのか、黒い影が近づいてくるようにも見える。


「少し暗いな」


その言葉と同時に、室内に光の粒が舞い込んできて、白く輝く灯りを放った。


「嘘……光の、魔術……」


リコは、サラに黙っていろと言われたことも忘れて、呟いていた。


光の魔術は、光の精霊の加護を受けなければ使えない。

光の精霊は、精霊のなかでも一番位が高く、そう簡単には召喚に応じてくれないから、普通の魔術師は、炎の魔術で灯りを調節するのだ。


それを、ほんのひとことで操ってしまう。

光の精霊たちが、男の命令に喜んで飛び回っているのがわかる。

リコは、ありえない光景を見せ付けられたことで、盗賊というより魔術師として、目の前の男に強い畏怖を覚えた。


怖い。怖い。怖い。

あまりの恐ろしさに、顔が上げられない。

もし男の姿を直視したら、自分の心はいったいどうなってしまうのだろう。

リコの体は、カタカタと震えだした。


「ふーん、そっちの女は、魔術師か。こいつらが見えるってことはそこそこの力はあるみたいだな」


男は、ほんの少し興味を引かれたように、リコに近づいた。


  *  *  *


サラは、不思議な魔術に心を奪われつつも、冷静に頭領と呼ばれる男を観察した。

白い光に溢れた部屋の中で、目の前の男の顔はくっきり見える。


(くそー……めちゃめちゃカッコイイ!)


想像していたとおり、いや想像以上に整った顔立ちの男だ。

軽くウェーブがかかった、深い緑の髪、同じ色の瞳。

ややつりあがった、切れ長の目。

すっと通った高い鼻と、薄い唇。

優しいというよりは、冷酷な印象を受けるくらいの、少し日本的な顔立ち。


盗賊稼業の親玉と言っても、ひげもじゃのような筋肉隆々の男くさい体格ではなく、背が高いけれどどちらかというと痩せている。

しかし、薄い布地の服の下から、胸筋がほどよく盛り上がっているのが分かる。

服で隠れていない二の腕も、硬く引き締まっている。


(いや、一般に受けるというより、単に私の好みってこと?)


誰にも言ったことは無いが、サラの好みは馬場先生の顔だった。

常々、馬場先生がもう少し背が高くてマッチョだったら、すごくステキなのになと思っていた。


(あー、頭領にメガネかけさせたら、絶対似合うかも……)


  *  *  *


サラがそんな不埒なことを考えている間に、力のある魔術師のリコに興味をしめした頭領は、リコに近づいていく。

うつむいてぎゅっと目を閉じ、細かく震えているリコは、サラがいたわるように手を握り返しても表情を変えない。

横顔は、青ざめきっていて、今にも倒れそうだ。


その様子から、いつものリコではないと、サラは感じる。

魔術師同士で、何か共鳴しているものがあるのだろうか。


頭領が、リコのあごに手をかけて、無理矢理上を向かせたとき、リコの緊張はピークに達した。

そのまま意識を失って、崩れ落ちる。

おっと、と呟いて、頭領は片手で軽くリコを支え、そっと床に降ろした。


リコ!と叫びたかったサラは、ぐっとこらえて、リコの脇にしゃがみこみ、額に手をあてる。

特に熱くも冷たくもない。

熱があるとか、そういうたぐいのものではないのかもしれない。


魔術は、精霊の力を借りて行うものと聞いた。

その精霊たちの頂点に君臨するのが、この男なのだ。

繊細なリコは、この男の底知れない力を察したのではないかと、サラは結論付けた。


私の我がままで、こんなとこに連れてきて、本当にゴメン。

後でちゃんと、暖かいベッドに寝かせてあげるからね。


リコを楽な体勢に寝かせなおしてから、サラはすっと立ち上がり、気合いを入れて頭領をにらみつけた。

リコを守るためには、私が戦わなきゃならない。


サラは、頭領の言葉を待った。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











長かったけど、頭領こと精霊王出せました。サラちゃん見た目だけですでに落ちてます。あまー・・・おえっぷ、となる前に、リコちゃん寝てもらおうという展開になりました。

次号からあまあまです。恥ずかしさに叫んでもOKな個室へどうぞ。

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