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砂漠に降る花  作者: AQ(三田たたみ)


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第四章 エピローグ 〜砂漠への帰還(1)〜

 トリウム王城へ向かって飛び去ったサラ。

 その姿が遠く霞み、最後は小さな点となって消えるまで見守ったカリムは、シシト将軍やグリードら交流を深めたトリウムの騎士たちと握手を交わして別れ、一人正反対の方向へ歩み始めた。


  * * *


 荒野に吹く風は昨日より弱まり、傾いてきた太陽の放つ熱も弱まっている。

 新陳代謝の良いカリムは、それでもすぐ汗をかいてしまう。

 伸ばしかけの前髪を指でかきあげ、後方へ撫でつけながら、カリムは一人呟いた。


「ネルギ軍、か……」


 昨夜、星降る荒野を進んだときとは違う感情が、カリムの心を占めていた。

 サラを奪った者を憎むべき敵と信じ、がむしゃらに走った。

 その結果、サラ自身に『足手まとい』の烙印を押され……帰り道に月を見上げながら誓ったのだ。

 これからは、自分の甘さを全て捨てると。

 そうでなければ、サラに……。


「言えるわけ、ねーな……」


 初めて会ったときは、大事な姫君の身代わり。

 砂漠の旅では、女のくせに可愛げもなく、挙動不審な行動を取るかなりのヘンタイ。

 ただ、過酷な旅の中でも弱音を吐かず、貪欲に強を求めて食らいついてくる根性は認めていた。

 普通の女なら悲鳴を上げる怪物との邂逅後、アイツはこの聖剣だけを見ていた。


 カリムは、腰に差した大ぶりな剣を見ながら自嘲した。

 剣の腕には自信があった。

 しかし、実戦ではほとんど使い物にならないことを学んだ。

 盗賊に襲われたときも、道場でアレクにやられたときも、大会予選であの姫を助けたときも。


 サラや、アレクや、あの魔術師なら、軽く切り抜けられただろう。

 自分は甘い。

 何かを守るためには、何かを切り捨てなければならない。

 その姿勢は、あの勇猛なシシト将軍ですら貫いていたのに、全てを守りたいと思ってしまった。

 そんな力は無いのに。


「気付くのが、遅かったんだな」


 呟きは風に流れ、誰にも届くことなくかき消された。

 いつもいつも、タイミングを逸してしまう。

 やっと、サラだけを守りたいと、自国の民を敵に回してもいいと、そう決めたのに……。


 カリムは、歩みを止めて振りかえる。

 空に昇った太陽は、先ほどより少しだけ西へと位置を変え、その先遠くに緑のオアシスが見える。

 サラはもう、王城に着いているだろうか。

 手の届かない場所へと飛び去った、女神。


『ありがとう、カリム』


 女神の発した声が、カリムの胸にリフレインする。

 特別な愛が、欲しかったわけじゃない。

 自分は、必要とされたかった。

 傷つきながらも、戦いに首を突っ込んでしまう不器用なアイツを、守れる力が欲しかった。


「今度は、お前の守りたいものを、守ってやるよ」


 サラが守った命を、赤い瞳の魔女が奪おうとするなら……俺は許さない。

 今度こそ自分の腕で、倒してみせる。


 カリムは、再び東を向いた。

 地平線の向こう、はるかな砂漠を見据えて、かさついた大地を蹴り走り出した。


  * * *


 昨夜訪れた廃墟の入り口に到着したカリムを、一人の男が出迎えた。

 初めて見る『ネルギ軍総大将』は、ぱっと見やや陰気でひょろ長い魔術師だった。

 すでにサラから伝言を受けていたらしく、駆け寄ってきたカリムに対して、礼儀正しく頭を下げた。

 その黒い瞳に映る静かな炎を見て、カリムは印象を改める。


「私が、キールです。サラ姫からお話は伺っております」

「カリムだ。カナタ王子の側近をしていた。顔を合わせるのは初めてだな?」

「ええ、私は十五年この地におりましたゆえ」


 年齢で言えば、キースと同い年のカリムにとって、キールはかなり年上になる。

 しかし、立場でいえばカリムの方が上だった。

 おかしな話だが、キール将軍のような第一線へ送られる人間は、決して評価されることはない。

 中央の人間にとって、彼らは最初から『使い捨て』だから……非常に傲慢な考え方だ。

 全てを変えてみせると、カリムは決意を新たにした。


「今から、倒すべき敵については、互いの意見が一致しているか……確認を取りたい」


 カリムとキール将軍の身長はほとんど同じだが、体の線の細さがまるっきり違う。

 まるで自分たちはトリウムのエール王子とリグル王子のようだと、カリムは思った。

 だぶついたローブで体の線を隠すのは、どこの国の魔術師も同じだ。

 そして、長年闇の魔術に支配されてきたというキール将軍は、今まで見たどんな魔術師よりも、痩せていた。


「私の敵は、私を狂わせた者……その者は、ネルギ王宮におります」


 猫の目のような、少し吊り上がった二重の黒い瞳が、西日を避けるように伏せられた。

 昨夜少しだけ聞かされた『本当は優しい人なんです』という、彼の義妹の言葉がなんとなく理解できる。

 今は痩せぎすだが、もう少し肉がつけばそれなりに見られる容姿になるだろう。

 隈ができ落ち窪んだ目も、彼女を見ればきっと愛情に溢れるに違いない。


 カリムは、砦に一人残してきたキースが、涙を堪えながら告げた言葉を思い出した。

 華奢な彼女には「行かないで、一人にしないで」という台詞と涙が似合いそうなのに、言われたのは正反対のことだった。

『私は一人で大丈夫です。どうか兄を……ネルギの皆を、助けてください』

 強いな、と思わず呟いたカリムに、キースは「兄譲りですから」と笑った。


「キール将軍は、強いな……キースが言った通りだ」

「カリム殿……」

 

 十五年も自分を縛りつけ、義妹を贄として送りつけてきた相手に対しても、冷静でいられる強さ。

 激しく罵って怒りをぶつけては、再び闇に捕らえられると分かってのことだろう。

 カリムはキール将軍と視線を絡ませると、力強くうなずいた。


「俺の敵は、女神にとっての敵。相手はどうやら重なりそうだな」


 差し出した右手にキール将軍の右手が重ねられ、固く握られた。

 カリムは、握った手のなよやかさに、キール将軍はごわつく皮膚に驚き……互いに苦笑した。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











 すみません。ちょいちょい手直ししてたら長くなったので、二つに分けました。中途半端なとこで切れてもーた。しかも全体的に地味……なんとなく黄土色って感じです。カリム君のサラちゃんへの地味ラブ、奥ゆかしい日本男児風に語らせてみました。しかし回想させたら、第一章で壊れかけのサラちゃん……相当なヘンタイっぷりでしたね。サンドワームと、お○っこ……いいんです。今は女神様なのですから。カリム君は大人しいキール将軍とも話が合うようです。お互い地味&女子に頭が上がらない系。ただし、興味無い女子にはとことんクール。キール将軍は十五年操り人形だったので、若干精神年齢が幼い感じです。逆にカリム君は精神年齢高め。

 次回は後半戦。旅の出発にあたって……いろんな問題を解決せなあきまへん。前回予告のキャラも今度こそ。

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