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第四章(15)キール将軍との対話

 五人の魔術師を即座にひざまずかせた男は、明らかに別格と分かるほどの異彩を放っていた。

 細められた目は若干つりあがり、瞳の色は黒い。

 暗幕を下ろしたように、長い前髪で顔の左半分が隠されており、後ろ髪は束ねられフードの中へ。

 その髪の色はやはり漆黒だ。


「私が、キールです。どうぞお見知りおきを」


 蝋のような青白い肌をしたその男は、カナタ王子に良く似たしぐさで一礼すると、地を這うような低い声で語りかけてきた。


「そうですか……あなたがここへ現れたということは、トリウム王城が落ちたということですね」


 キール将軍の言葉に、サラはすかさず反応する。


「“落ちた”ね……どちらの意味か分からないけれど、とりあえずお願い。部外者には出て行って欲しいの」


 初めて聞くサラの高い声に、五人の魔術師は一斉に顔を上げた。

 サラは、自分がまだ少年で通じることがハッキリ分かり、落胆を通り越して少しおかしくなった。


  * * *


 二人きりになって、サラはまず一番聞きたかったことに触れた。


「ねえ、あなたのその顔……どうしたの?」


 床に座り込んでいるサラは、その隠された部分を見透かすように目を細めた。

 シシト将軍が、サラの左手の包帯を疑った気持ちがようやくわかった。

 前髪の下に何があるか、サラにはうっすら見える気がしたのだ。

 異質なものが、そこにあるのだと。


「気になるなら、お見せしましょう」


 マントの裾が床につくのも気にせず、キール将軍は長い脚を折り、サラと目線を合わせた。

 サラの中に、一つの映像が浮かぶ。

 幼いキースを可愛がる兄の姿。

 小さなキースに、彼はこんな風に目線を合わせながら、語りかけたのだろう……。


「あまり面白いものではありませんが」


 サラの目の前で、キール将軍はフードを脱ぎ、顔半分に垂らされた長い前髪をかきあげた。

 大きく骨ばった左手の下から現れたのは……。


「目が、赤い……?」


 目の形そのものは、右目も左目も同じだ。

 しかし、漆黒の右目と違って、左目の方は血のように赤い。

 左右の目の色が違うことを『オッドアイ』と呼ぶ……マンガで見たそんなキャラを思い出しながら、サラはその異質な瞳を観察した。

 赤い目の下には、まるで手の甲のように青黒い血管が浮き出て、頬の中心部あたりまで根を伸ばし這い回っている。


「この目って、視力はあるの?」


 サラの声に滲んだのは、明らかな好奇心。

 察しながらも、キール将軍は表情を変えずに答えた。


「ええ、見えますよ。ただしこの目は“見えないはずのもの”も映すのですが」

「見えないはずのものって……?」


 パチパチとまばたきしながら、サラはその赤い瞳に見入った。

 キール将軍も、サラの澄んだブルーを見つめる。


「あなたには……見えませんね。なぜでしょう」

「何のこと?」

「あなたにとって、どうやら私は“敵”ではないようだ」


 台詞の行間から、サラは少しだけキール将軍の性格が掴めたと思った。

 先ほどまでの、サラを取り囲んだ魔術師たちと同じ。


「怯えてるのね。自分を害するものの存在に」


 キール将軍は、一瞬その赤い瞳の色を濃くすると、その整った顔を不快そうに歪めた。

 前髪をかきあげていた左手を下ろし、視界を黒い右目のみに戻す。

 赤い瞳が無くなったキール将軍は、ただの魔術師となる。

 アジトがこの滅びた街に溶け込むように、自然に。

 サラだけは見破ってしまう、巧妙な擬態。


「その瞳がある限り、あなたはこの場所から逃げられない……違う?」

「――お前は、何者だ?」


 一歩二歩と身を引き、視線を鋭くするキール将軍に、サラは笑った。

 何を分かりきったことを、と。


  * * *


 サラは、ようやくほどけた手首をさすりながら、今日はやけに縛られる日だなーと感想を呟いた。

 黒剣はあの魔術師に預けたままだけれど、それくらいは仕方ないだろう。

 キール将軍の中で、まだサラのポジションは、敵でも味方でもない……そんな曖昧な場所に置かれているのだから。


「ねえ、喉渇いたんだけど」


 サラのワガママな要求に、キール将軍が苦い表情で水を呼ぶ。

 グラスの用意もせず、どうするのかと思ったサラの目の前で、水の粒が一口大に丸まった。

 透明なシャボン玉状の物体が、サラの口に直接飛び込んではじけた。


「……んぐっ……ちょっ、ケホッ!」


 気管のほうに少し水が入り、サラは咳き込んだ。

 その様子を見ながら、キール将軍は少し溜飲を下げたようで、しゃあしゃあと告げる。


「ここでは、水は貴重だ。一口飲めただけでもありがたいと思え」

「うーっ……ありがとうございましたっ!」


 アゴを上げ、まったく感謝のカケラもないという表情で、サラはうわべの謝意を伝えた。

 どうやらこの相手と仲良くなるには、それなりに時間がかかりそうだ。

 最初は、そうじゃなかったのに。

 初めに自分を見たときは……。


 サラは、にっこりと天使の笑顔を作りながら言った。


「お礼にイイコト教えてあげる。彼女は、無事よ」


 形勢逆転。

 私が助けてあげたからーと皮肉げに笑うサラに、キール将軍はぐっと唇を噛み締めながら、ごく僅かに頭を下げた。

 優位に立つうちにと、サラは思い浮かんだ疑問を次々とぶつけていく。


「彼女の他にも、この砦には“贄”として送られてきた少女がいるのね?」

「ああ、そうだ」

「彼女たちは、無事なの?」

「生きているかという意味では、無事だな」


 ため息とともに、キール将軍は無意識に前髪をかきあげた。

 一瞬のぞいた赤い瞳が、妖しく輝きながら、キール将軍の言葉を補った。


『今日までは……』


 ビクリ、とサラは体を震わせる。

 心臓が嫌な音を立てながら、訴えてくる。

 この赤い目は、危険な存在だと。


 きっとキール将軍は、自覚しているのだろう。

 だから、たった一人大事な者を、無理にでも逃がした。


「あなたは、明日何が起こるか、知っているの……?」

「明日?」


 怪訝そうにサラを見返すキール将軍の黒い瞳に、陰りは無い。

 サラの体からは、緊張による汗が吹き出てきた。

 動揺を抑えようと右手が腰の位置をまさぐるけれど、そこにあるべきものは無い。


「異界のサラ姫……何を隠している?」


 懐かしいその呼び名に、サラは正気を取り戻した。

 そう呼ばれたのは、たったの一週間だけ。


「キール将軍、あなたに、一つだけ確認したいことがあるの」


 キール将軍のサラに関する知識は、断片的なものだった。

 異界から呼び出された、サラ姫の身代わり。

 本物のサラ姫とカナタ王子から、和平の使者としてトリウム王城へ遣わされた。

 その後、和平交渉に失敗し、直接戦争を止めるために戦地に乗り込んだ……馬鹿な女。


 それらの情報を得たところで、キール将軍のやるべきことは変わらない。

 彼は、トリウムという国を滅ぼすために操られる人形なのだから。


「あなたの本当の敵は、誰だと思う? トリウム国民か……それとも、ネルギ国家?」

「――っ!」


 サラは、背の高いキール将軍を見上げながら、黒騎士の声である予言を発した。


「明日、この戦場には死の雨が降る。トリウム軍も、ネルギ軍も、すべてを巻き込むような……」


 キール将軍の黒い瞳に、わずかな怯えが見えた。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











 ついに出してしまいました『オッドアイ』キャラ! 王道また一個クリアだー。ヤター。ついでに血管はわせてみたのは、筋肉少女隊好きにより。正直、リアルにこんな人が居たら気持ち悪いのですが、ファンタジーだとカッコヨク思えるのはなぜだろう。赤い瞳のパワーについては、若干お茶濁してしまいました。なぜかというと、すぐに……まああまりネタバレせずにおきましょう。そしてキール将軍、性格はチキンです。ビビリです。なぜかというと……ま、このへんもおいおい。サラちゃんは相変わらず微アニマルモードで、鋭いことズバビシッと言ってしまいます。クロル君が居ないから……話進めるのに勘を働かせてくれるのは大事であります。一個だけネタ補足。「すみませんでしたっ!」は、お笑い芸人響のミツコというキャラから。一発屋脱出目指してガンバレ。

 次回は、予言回避のためにサラちゃん奔走します。まずはキール将軍をしっかり落としてから。

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