第一章(10)盗賊
盗賊は8人いた。
全員が、戦いを生業とし、血に飢えた目をしている。
腰には左右に1本ずつの長剣と短剣。
やや距離を残したまま、円形になって3人を取り囲み、短剣を投げつけるタイミングをはかっている。
カリムは舌打ちした。
今の状況で、8人の盗賊を倒せる自信は無かった。
もしラクタが襲われるというアクシデントがなければ、リコの魔術と自分の剣で撃退することもできただろうが。
どうする?
カリムは剣術は得意でも、実戦の経験は少ない。
こんな状況で、冷静な判断をするには経験が足りなかったが、必死に頭を回転させた。
じりっと、盗賊たちがにじり寄ってくる。
ただ単に、自分たちをなぶり殺しにしても、手に入るのは疲れ切ったラクタが3頭だけだ。
きっと生きて3人を連れて行くに違いない。
大人しく捕まるのが正解か……
カリムが、降参の意思を示そうと、腰の聖剣にかけた手をはずそうとしたとき、ラクタにぐったりと寄りかかっていたサラが、パッと顔を上げ、叫んだ。
「あっ!」
その勢いで、頭のフードがはずれる。
皮ひもで一つに束ねた、サラの長い黒髪が零れ落ちた。
* * *
盗賊たちは、いきなり動いた人物に一瞬臨戦態勢になったものの、その顔を見て、声を聞いて、ニヤッと笑いあった。
「坊主かと思ったら、女じゃねえか」
「しかも、けっこうな上玉だぜ?」
カリムは、思わず頭をかかえたくなった。
捕まったら、結局サラもリコも女とばれるだろうし、今ばれたところで同じだろう。
しかし、この状況で自らばらすヤツがいるか?
「ね、頭領って、だれ?」
サラは、盗賊たちに向かって身を乗り出そうとして、バランスを失い、ボタッとラクタから落ちた。
「リコ!」
「リコッ!」
リコとカリムは、訓練したとおり、サラのことをリコと呼んだ。
これもサラはしぶしぶ承諾したことだが、何か問題が起こったときには、サラとリコは立場を入れ替えることになっていたのだ。
慌ててラクタを降りようとしたリコは、盗賊たちの制止命令で固まる。
「俺を縛ってもいい!彼女を介抱させてやってくれ!」
カリムは剣を捨て、両手を挙げた。
盗賊たちは目配せした後、そのうちの1人が前に進み出た。
「そこのお嬢ちゃんは、魔術師だろう。指輪を全部取って、こっちに投げるんだ」
リコは慌てて指輪を外す。
杖や指輪は、魔術師にとって魔力を集約するために必須のアイテムだ。
これがなければ、魔術は発動できない。
反撃の芽は、全て摘まれてしまった。
* * *
カリムの捨てた剣と、リコの指輪を回収したあと、盗賊たちは2人をうつぶせに寝かせ、両手を後ろ手に縄でしばった。
ラクタから落ちたままぴくりとも動かないサラには、盗賊たちもさすがに縄をかけなかった。
「おい、起きろ」
8人組の中でも、命令系統のトップにいると思われる、ひときわ眼光の鋭く、日に焼けた顔一面にヒゲを生やした大男が、サラに近づき足蹴にする。
ううーん、とうめいて、サラは目を開けた。
「おい、水が飲みたいか?」
大男の問いかけに、サラは答えなかった。
代わりに言った。
「なんだか、目がかすんで、良く見えないの」
近づいてくる男に、問いかける。
「あなた、頭領さん?」
サラの視界に映るのは、輪郭のぼやけた、ひげもじゃの大男だ。
こんなに顔のでかい男は、みたことがない。
いや、テレビで見たプロレスラーと、お笑い芸人にも居たかもしれない。
本当に私は、このひげもじゃを、好きになるの……?
でも、ヒゲを剃ったら案外イケメン的な展開も……
「俺は……違う」
サラはぼやけた頭で、あーこの人じゃなくて本当に良かったと、かなりのん気なことを思った。
* * *
ひげもじゃ男の近くに、残りの7人も集まってくる。
サラはもう一度、頭領はだれだと尋ねた。
盗賊たちは戸惑ったように顔を見合わせる。
どうやら、このメンバーの中には頭領がいないようだ。
縛られた苦しい体勢で、カリムはそのやり取りを冷静に観察していた。
彼らはこう考えているのだろう。
この女は、めったに見かけないレベルの上玉だ。
もしかしたら、頭領を知っているのかもしれない。
頭領の知り合い、または頭領がすでに目を付けていた女だとしたら、今ここで手荒に扱うのはまずい。
「ねえ、頭領に、会わせて……」
その言葉を最後に、サラは意識を失った。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。
ヒゲ出しました!ヒゲラブ!サブタイトル「ヒゲ」と迷ったし!(嘘)
あそこでサラちゃんが「お水のみたいょ」って言ったら、奴は口移しで・・・じょりっ。そっちでも良かったか。
次回は、サラちゃんたちようやくごく貧生活脱出です。ラブの準備は身だしなみからってことで。