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第四章 プロローグ2 〜再会がもたらすもの(3)〜

 サラとリグルの手により、カリムがある程度の制裁を受けた頃を見計らって、クロルが声をかけた。


「おーい、そろそろいい?」


 床に足を伸ばして座り込み、壁にもたれかかったカリムが、ほっとため息をつく。

 チッと舌打ちしつつ、カリムから離れるサラとリグル。

 クロルは、いつもどおりのクールな表情で話しはじめた。


「僕はあの日、予選が始まるのを物見の塔からずっと見てたんだけど、その中に挙動不審なキノコ頭が居てね……」

「ちょっと、余計なことはいいから!」


 思わず突っ込んだサラに、まあ大事なとこだから黙っててよと、軽くいなすクロル。


「隙あらば女の子の魔術師に擦り寄ろうとして逃げられる、危険なキノコ……よりもっと挙動不審なヤツが居たら、それは注目しちゃうよね? あの中に、刺客かと思うくらい殺気を身にまとった男がいたんだ。一番最後に会場へやってきた、二人の騎士なんだけど」


 サラは、その台詞にピンときた。


「まさか、あの、ファースを襲った……」

「うん、たぶんそうじゃないかなーと」


 勝手に腰をまさぐる、サラの右手。

 そこに黒剣は無いけれど、サラの頭にはダイスの姿が再生された。

 犯人探しのラスト、自分はこんな質問をしたのだ。


『我は命じる……カリムを襲った犯人を、見定めよ』


 サラの言葉を受けて、ダイスはすぐに消えた。

 それはちょうど、車椅子の二人が退席した直後。

 ダイスは、ちゃんとヒントを与えてくれていたのだ。


「リグル兄さん見てて思うけど、騎士ってみんなバカがつくほどお人好しだよねー。トップに居る人のせいかなあ」


 あちこちに皮肉という名の火種を撒き散らしながら、クロルは笑う。

 未だ怒りがおさまらないリグルが、猫の子のように首根っこを掴むと「いや、騎士道のマジメな教えのせいかな?」と慌ててごまかすクロル。


「それにしても、たかが“武道大会の優勝”なんてモノに、騎士道って負けるもの?」


 たかが優勝者の二人が睨む中、話を逸らされたリグルはぼんやり考えつつ答える。


「そういわれれば、俺もバルトもおかしいと言ってたんだ。彼らが騎士として、そこまで堕落したのかって……」

「そうだよね。だから彼らも“薬”の被害者なんだろうね」


 国王が、ため息とともに大きくかぶりを振る。

 エールは押し黙って靴先を見ている。

 ルリは犯人を知って、淡い夢から醒めたようにギュッと唇を噛み締めている。


 被害者のカリムが、「まあ誰だって、道を踏み外すときはあるんだろ」と、小さな声で許しを与えた。


  * * *


 再びパーティ会場へ戻ったサラたち。

 国王は、魔術師長、文官長、騎士団長を呼びつけ、なにやら相談を始めた。

 デリスは、ルリの脇にぴったりとはりつき、大事な姫君の視線の先にいる男を凝視している。

 リコとリーズは、舞台袖で仲良く料理をつついているし、幻の勇者アレクは騎士や魔術師から引っ張りだこだ。

 そして、エール、リグル、クロルはサラの元へ。


「サラ姫! アイツ、いったい何者だよっ!」


 リコとリーズの近くで、一人モクモクと料理を食べているカリムを指差し、吠えまくるリグル。

 サラが「そんなの、剣を交わせば分かるんじゃないの?」と、美味しい餌を放り投げると、バウワウと叫んで飛んでいった。


「アイツは、魔力は低くてパワーで押すタイプか……リグル兄と一緒だね」

「ああ、でも今のリグルでは勝てないな。身軽さが違う」


 試合前だというのに、冷静なジャッジをする兄弟。

 サラは、リコが持ってきてくれたロースとビーフをもごもごと咀嚼しつつ、頭を縦に振った。


 武道大会に出られなかったカリム。

 サラの優勝を喜びながらも、内心焦れていたのは分かっていた。

 きっとこの短期間で、アレクにみっちりしごかれたことだろう。

 王城では修行をサボってしまった今のサラにも、果たして勝てる相手かどうか……。


「それで、本当にアイツ何者?」


 パーティ開始直後のように、サラの腕にまとわりつきながら、クロルが問いかけてきた。

 大きな肉塊を飲み込んで満足したサラが、次の塊にフォークを突き刺しつつ、笑顔で答える。


「何者って……本人も言ってたでしょ? カナタ王子の側近。ネルギでは一番腕が立つ剣士だよ」

「そうじゃなくって、アイツはサラ姫の……」

「クロル、お前は余計なことを言いすぎだ」


 クロルの言葉を遮ったエールが、吐息を漏らしながら、サラを見つめて呟いた。


「彼には、あらためて礼を言わなければな。もしもルリの命が絶たれていたら、今頃俺は……闇に飲まれて、とっくに命を失っていたかもしれない」

「エール王子……」


 口から漏れかけた励ましの言葉を、サラは飲み込んだ。

 エールは自力で立ち直ろうとしている。

 そこに苦しみが伴うのは、当たり前のことなのだ。


 とりあえずパワーをつけさせるべしと、サラがフォークを刺した巨大な肉塊を差し出そうとしたとき。


「サラ姫にも、礼を言わなければいけないな。君の髪がこんなに短くなってしまったのも俺の責任だ。リーズを連れてきてくれたことも、感謝している。あとは、あの緑の」

「――ワァァァッ!」


 突然サラが叫んだせいで、全員の視線が集まる。

 サラの側には、床に座り込むエール。

 いつも引き結ばれている薄めの唇からは、ねじ込まれた肉とフォークがぼろんと飛び出している。


「なっ、なんでもありませんからっ! ゴメンナサイね……オホホホッ」


 不自然極まりない、裏返った笑い声をあげるサラに、クロルの視線が刺さった。


「ふーん……エール兄、サラ姫……僕に、何か隠し事があるみたいだね?」


 サラは「さて、そろそろ侍従長に会いに行こうかなー」と鼻歌まじりにささやき、エールはひたすら肉を噛んでいた。


  * * *


 侍従長と月巫女が居る場所へは、少人数で向かった。


 案内役はクロルとエール。

 リグルはカリムとのバトルのため、訓練場へ向かった。

 こちらの用事が済んだら見学に行こうと思いつつ、サラたちは地下牢へと歩む。

 そこに着いてきたのが……一組のカップル。


「おい、王子様。このバカ女、なんとかならねえ?」

「バカとおっしゃる方が、本当のバカという格言がございます。そのようなご発言は、勇者としての品位を疑われかねませんので、お控えになられたほうがよろしいのでは?」


 アレクと、コーティだ。


「だいたい、あなたがなぜ“幻の勇者”と呼ばれているか、お考えになられたことはあります? パーティをすっぽかすなんて大人気ないことをされたと知る前から、私の中では“幻”でした。なぜならあなたより強い方が、不運な結果であの場を去っていたのですからね……まさに幻の優勝というところでしょう」

「あー、うるさい! 俺は王子様と話したいんだよ! てめえは黙ってろ!」

「そうやってごまかされるところが、思慮の浅い……魔術師ファース様との埋められない差に繋がっているのでしょうね。あなたのような方が勇者とは、残念で仕方ありません。今後は“幸運の勇者様”と呼ばせていただくことにしましょう」


 こちらのバトルは、コーティの圧勝。

 毒舌波状攻撃を操る者同士の対戦だが、やはり愛のレベルが違いすぎる。


「ねー、君たちうるさいから、帰ってくれない?」


 サラのため息と同時に、クロルが後ろを振り向いて言った。


「申し訳ありませんっ。あまりにもこの幸運の勇者が目障り……いえ、この話はまた後日にいたしますわ」

「後日なんてねえっ!」

「あら、そのようなところもまた、幸運を呼び込む秘訣なのでしょうか。やはり敵わない相手からは逃げるが勝ちということ……素晴らしい戦法ですわね」


 クロルも、負けた。

 サラは、ふくれっつらで押し黙るクロルを見て、珍しいこともあるものだと首をかしげた。

 もしかしたら、先日コーティを危機に陥れてしまったという、罪悪感があるのかも……?


 じっと見つめるサラの前で、ふくらんだ白い頬がすうっと縮まり……氷の微笑みが現れた。

 アシュラ面が、切り替わったのだ。


「そろそろ、本当に大人しくしてくれないと……怖いよ?」


 ついに、本気を出したクロルの仲裁に、ピタリと止まる舌戦。

 はい、怖いです……と思いつつも、実はそのクロルが恐れるのが、隣で穏やかな笑みを浮かべるエールだということも、サラは良く知っている。


 パーティの前に、クロルから回収したお守りを手渡したときは、本当に怖かった。

 「これは……いったい誰が?」と問いかけたエールは、テレビの中から這い出てくる悪霊のようで……。

 サラが、エールの横顔を見上げながら「あの長い黒髪で顔を覆ったら……」と、ホラーなイメージを膨らませかけたとき。


「さ、着いたよー」


 ずいぶん深く階段を降り、その後も三角形をした王城居住エリアの中をぐるりと一周半ほど進んだ。

 通路の先に現れたのは、一見行き止まりとも思える、そびえ立つ鉄の壁だった。

 鉄の壁の中央には、ぴったりと閉ざされた鉄の扉が見える。


 侍従長と月巫女が居るこの地下牢は、現在強力な結界で封鎖され、エールと国王にしか開けられない。

 そして、物理的な鍵は国王とクロルが管理している。

 リグルは、うっかり無くすか騙されて盗られかねないという理由で、管理にはノータッチだ。


「侍従長は、言葉が話せない。でも人の感情には敏感だから、あまり怒ったり悲しんだりしないようにな」


 クロルが鍵を開ける横で、エールが念を押す。

 強くうなずく、サラとコーティ。

 二人とも事件の後、侍従長に会うのは初めてだ。


 アレクは「俺は部外者だし、ここで待ってるわ」と言って、扉の中には入らずヒラヒラと手を振る。

 なぜここまで着いてきたのかといえば、たぶんサラの身を案じてのこと……。

 コーティと馬鹿げた会話を続けていたのも、きっとそのせい。


「アレク、ありがと! 待っててね!」


 サラは振り向きざまに、飛び切りの笑顔を向けた。

 扉の中に吸い込まれていくサラの後姿を見送ってから、アレクはようやくクールな表情を崩した。


↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。











 なんだか、書いてて楽しくなってしまいました。やっぱり、このくらいの緩さがいいなー。ていうか、この話本当にちっこい伏線多すぎるような……最終的にツジツマ合いますようにと、七夕さまにお祈りしておきました。さて、今回のメインディッシュは、肉です。ああ、肉が食べたい。肉やその他料理について、もっと細かい描写をしようと思ったけど、あまりの長さに却下。あと、今回のフィーリングカップルは、アレク様とコーティちゃんでした! この組み合わせもどーよ? 作者としては、第一印象最悪なアイツ……みたいなベタさが好きです。(これはチビ犬でも使いましたが) コーティちゃんとは、年齢的に釣りあう独身男子があまり居なくてねー。というか、ここしか無いなと。まあ、どうなるかは最終章のお楽しみ。

 次回は、プロローグようやくラストです。ついにサラちゃん、月巫女さんとご対面。その後、旅の道連れ一人決定でシメ。

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