第一章(9)救いの神の足音
「男って、本当にいくじがないんだから!ねえ、リコ?」
サラは不満気に呟いた。
同意を求められたリコは、焦りながらも反射的に頷き、カリムはそっぽを向いた。
* * *
結局、サラの提案の、最初の方は採用された。
残りの水と食料を、ほんの1食分だけ残して、3人で分け合って食べた。
そして案外ずっしりと重量のある寝袋と、予備の衣類や医療品など、余計な荷物をすべてを捨てた。
3人でラクタに乗って、ラクタを潰さない程度に行ける限り進む。
ラクタそのものは、自分のこぶの中にためてある栄養分で、14日分くらいは飲まず食わずでも生きていけるというから、本当に偉い。
この際、サンドワームを見習って、ラクタを1頭潰してみんなで食べてもいいな。
生肉は危険かもしれないけれど。
生き血すするのも、美味しくないかもしれないけれど。
サンドワームが飲めて、人間様が飲めないわけがないもんね。
あ、いっそサンドワームを捕まえて食べてみるか。
マッ○のハンバーガーも、アレ系だって噂があったし。
ぐちゃぐちゃに潰してミンチにして、火であぶったら案外美味しかったりして。
「サラ姫さま……」
「ん?なぁに、リコ?」
「お考えが、すべて口から出ております」
カリムは聞いていない振りをしているが、きっと聞こえていたのだろう。
少し顔色が青ざめている。
* * *
11日目。
もう、手持ちの食料は無い。
自分たちとラクタの力が尽きるまで進むのみ。
握力がなくなったサラは、ラクタの操縦を諦めて、ぐったりとラクタにもたれかかっている。
カリムのラクタと縄でつないであるので、勝手に変な方向へは進んだりしないが、繋がれたラクタは少し歩きにくそうだ。
日が昇って、落ちて、薄闇につつまれても、そのまま進む。
もう、サラの独り言も聞こえなくなっていた。
リコはサラの声が聞こえなくなったことを心配していたが、リコ自身にもサラを気遣うような余裕はなく、ラクタの上で体を起こしているのがせいいっぱいだった。
もしもサラが力尽きたら、リコは魔力の全てをつぎ込んで、サラに治癒の魔術を使う覚悟だ。
リコの魔力はとうに尽きていたが、自分の命を贄として水の精霊を召喚することはできる。
水の精霊の癒しを与えれば、サラはもう数日生き延びることができるはずだ。
カリムは、サラの意識があるかどうか、何度も声をかけて確認しながら進む。
カリムも、サラの意識がなくなったときには、少ない魔力と自分の命、そして相棒でもある聖剣と交換で、彼女を救おうと考えていた。
しかし、砂が少し硬くなってきたから、もうゴールは近いはずだ。
どうか私たちに、神のご加護を。
絶望の中で、ささやかな希望にすがりながら、カリムは神殿に描かれた翼のある女神をイメージし、心で祈った。
* * *
「ああ、そういえば」
サラが、気力を振り絞って、ラクタから身を起こした。
しかし、その行為で力尽きたのか、次の瞬間にはまたラクタにもたれかかってしまった。
「サラ姫さま?」
「余計なことを話す体力があるなら、黙っていろ」
まだ心配そうなリコと、もうすでにサラの発言を意味の無いものと決めてかかっているカリム。
サラは、ぼんやりした意識の中で、ふっと笑った。
そうだ、なんでこんなに大事なことを、今まで忘れていたんだろう。
「とう……く」
サラの声はかすれて聞こえない。
リコとカリムは、仕方なくラクタの歩みを遅らせて、サラに近づいた。
「とう……く……くる……」
「は?遠くに来る?」
カリムは聞き返す。
「とうぞくが、くるよ……」
カリムは眉をひそめて、リコに聞いたか?と目配せをした。
「サラ姫さま、どういうことですか?」
サラはぐったりしたまま、いっそ来るならきやがれと思った。
その声を、神は聞き届けたのだろうか。
突然進行方向から砂埃が上がり、複数のひづめの音が聞こえてきた。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。
サラちゃん美少女設定が・・・いや、死にかけるとどんなカワイコチャンもこーなるはずだ。母ノート(カンニングアイテム)もすっかり忘れてるし・・・
ラクタが好きになってきました。彼らはみんな男の子で2コブです。名前はまだ無い。
次回、サラちゃんがヒゲにアレコレされる回・・・天然小悪魔の勝利目指します。