第一章(8)死への抵抗
シリアスな場面ですが、後半主人公がちょっと下・・・なことを言います。伏字なので超ライトです。
サンドワームに襲われた後、サラたちは生き残ったラクタ3頭と、物資の使い道を考え直した。
日程的には、荷物を捨てて、3人がラクタに乗るわけにはいかない。
結局3人が交代で、といっても主にカリムが、荷物を積んだラクタを引くように徒歩で進んだ。
スピードが遅くなる分、進む時間を増やさなければならないので、6日目の夜からは、休憩時間を削っていった。
またサンドワームが出たら危険なので、夜の見張り当番も決めた。
* * *
9日目。
疲労がたまりすぎて、ムダな会話はできなくなっていた。
1日3回ごくりと飲み込めるくらいだった水の量は、舌をしめらせる程度に減らし、ほし肉をかじるだけの生活。
サラが毎日の鍛錬でキープしていた筋肉も、衰えてきた。
筋肉が落ちたことで、夜の冷えはより厳しくなり、ほとんど眠れず目を閉じるだけだ。
肌には、触りたくない。意識したくもない。
なぜかというと、手の甲を見たときに、まるで老婆のようにシワが寄っていたのを見てしまったからだ。
とにかく水分不足が、生死ギリギリのところまできている。
それでも、リコもカリムも何も言わず、少しでもサラに多くの水と食料を回そうとするから、サラは歯を食いしばり、口の中に石ころを入れて耐えた。
石ころという異物を感じて、少しでも唾液が出ればと思ったが、焼け石に水だ。
* * *
夜になり、サラはカリムに質問した。
「順調なら、あと1日で国境でしょ?」
「ええ、順調なら」
「だったら、残りの水と食料をある程度消費して、残りは小分けして、寝袋と衣類を捨てて、3人でラクタに乗ろうよ」
この発言は、火事のときにベランダから飛び降りようというレベルの、見当違いな提案なのだろうか。
ラクタ1頭分のロスをフォローするために、徒歩を余儀なくされたカリムは、どれだけ体力を削ったのだろう。
サラも、リコもだが、カリムが一番限界のように見えた。
「わかりました。今の私が徒歩でついていけば、ラクタの3倍の時間がかかってしまいますからね」
提案が受け入れられたことにホッとして、サラは不安そうなリコと視線を交わす。
「では私はここに止まりますので、お二人で先に進んでください」
ギョッとして、サラは立ち上がった。
乾いた喉からは、ヒューヒューと掠れる声しか出ないけれど、思い切り叫ぶ。
「あんたバカじゃないの!」
「カリム様!それはあまりにも!」
悔しいけれど、砂漠の旅を甘くみていたのは事実だ。
サラが、一番水を飲み、食料を食べている。
残りの水と食料を見ると、もう3人が明日明後日生きていくのが限界だろう。
それでも、カリムが自ら死を選んで、リコと2人生き延びるという選択肢はありえない。
だったらあと1日2日、全力で進むしかない。
誰かが力尽きて倒れるまで……
* * *
そのとき、カリムが立ち上がったので、リコが声をかけた。
「カリム様、どちらへ」
「失礼。小用です」
サラがのぞき見たカリムの表情は普段と変わらず、本当か嘘か分からない。
少し頭を冷やしに行くのかもしれない。
でも、もしかしたら、そのまま1人遠くへ去っていくのかもしれない。
自ら死を選ぶ人は怖い。
なぜか、自分が死ぬことより怖い。
サラは恐怖に震えた。
「カリム、待って」
サラは、静かに声をかけた。
振り向いたカリムは、サラのブルーの瞳に縫いとめられ、目をそらせなかった。
「なんですか?」
「本当に小用?ひとりで遠くへ行ってしまうんじゃないの?」
「さすがに、お二人を騙してそれはしません」
「本当に?」
「はい」
「絶対?」
「しつこいな、本当だ」
何度も念をおされて、カリムは少しむっとして答えた。
すでにカリムの中で、サラは姫ではなくなっているが、サラの方も一向に気にしていない。
サラは、その答えを聞いてにっこりと笑った。
水分不足で顔はしわくちゃだけれど、美しい微笑みだった。
「だったら、ここでして」
一瞬、無表情で固まる、カリムとリコ。
「は?」
「姫さま?」
サラは、うふふと笑った。
「どうして気が付かなかったんだろう。お○っこは、99%の水分と1%のアンモニア。私の国では飲○療法というのもあるらしいし、ちょっと特殊なマニアの中にはそんな行為で興○する人もいるって馬場先生も言ってたような?」
2人には、サラの使った言葉の半分も理解できなかったが、なんとなく言いたいことは分かった。
「さあカリム、するなら私の口に向かってして?」
小首を傾げて可愛くおねだりするサラ。
カリムは、首を横に振りながら、後退った。
この時から、カリムはサラに頭が上がらなくなった……と懐かしく回想するのは数年後のことである。
↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたくない方は、素早くスクロールを。
なんでこんな展開にしたのか、自分でも??とにかくすぐ死ぬっていう奴は悲しい。どんなもの飲んでも食べても生きてりゃいいことあるさ!という青春メッセージが伝えたかったような・・・。
次回は、ついにアレが来ます。作者も忘れてたアレ。そう、ラブの足音。