共感覚
お婆ちゃんは曲げた腰をさらに曲げてお礼を述べる。
「あんがとね。兄ちゃん。あんまり電話はかけんようにするけど。たまにはかけてもええわな」
「いつでもいいですよ。俺かこのマーガレットがいつでも話したいですし」
「めんこいお嬢ちゃんもかい?それは嬉しいねぇ」
マーガレットは笑顔を返した。何を話していいか分からなかったから、とりあえず笑顔でいた。
「そんじゃあね。さいなら」
お婆ちゃんは杖をつきながらトボトボ帰っていった。
丸い背中を首を動かさずに見つめ続ける天谷。その後頭部にマーガレットは話す。
「天谷様、どういうことですか?なぜ、あのお婆ちゃんとここでお食事を?それになぜ、お婆ちゃんはお金があるのに泥棒を?」
マーガレットは天谷の顔を覗き込む。
天谷は泣いていた。正確に言えば、天谷の目には涙が溜まっていた。
「……ど、どうなさいましたか?天谷様。私、変なこと言ってしまいましたか?」
「い……いや。ごめん。何もマーガレットは悪くない。俺が変なだけなんだ」
天谷は涙を素早く拭い、普段の顔に戻ろうと努める。
「俺な……なんかよく分からないけど、異常に他人に感情移入してしまう所があってさ。小さい時からなんだけど。あのお婆ちゃんの気持ちがむちゃくちゃ伝わって来たんだ」
マーガレットは思い出した。競馬場で浅井さんから聞いた話を。天谷は確かそんな性質があると浅井さんも言っていたような。
「お母さんが昔気味悪いがってさ、病院に連れて行ったら「共感覚」の一種だって診断されたんだ。別に病気でも何でもないんどけどね」
マーガレットは天谷のその性質に今まで深く考えた事はなかった。しかし、自分も昔言い当てられてるのだ。自分が気づけていない自分の面まで。
「それであのお婆ちゃんさ。お金はあるのに万引きしてただろ?その理由はさ、【寂しい】からなんだ」
マーガレットの胸がズキリと痛んだ。寂しいから物を盗む。その行動理由の動機の切なさを受け入れられない。
「だからさ。俺なんかが偉そうかも知れないけど、力になれたらいいかなって思って、ちょっとお婆ちゃんの話相手をしたんだ。単純にお菓子が欲しかったわけじゃないんだ。あのお婆ちゃんは」
マーガレットは自分がお金で解決しようとした事が少し恥ずかしくなった。ただ単にあのお菓子が欲しかったんだろうと思ってしまったのだ。
天谷が異世界でずっとパーティーも組まず1人で戦ってきた理由がなんとなくマーガレットは分かった。
彼は理解しすぎてしまう。それ故に人を遠ざけてしまったのだ。
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