本当のギャンブル
「本当にありがとう。マーガレットちゃん。このお金はホント大切に使わせてもらうよ。あの会社はもう辞めることにする。母親の介護をしながら働ける会社をまず探すことにするよ」
外はもうすっかり暗くなっていた。浅井さんは最後までお礼を言い続けた。
「あと、天谷くんもありがとう。君達のおかげだよ」
「俺は何もしてませんよ。マーガレットが勝手にやったことですから」
「そんなことないよ。君と同僚じゃなかったら、こんなことにはなっていなかったんだ」
競馬場を明るく照らすイルミネーションで、浅井さんが赤くなったり緑になったりしている。
「浅井さん、いつでも連絡してきてください。また会いましょう!次会うときは転職祝いですね」
浅井さんと俺は連絡先を交換した。会社でいるときはそういえば連絡先とか交換してなかったなぁ。
「それじゃ、また!」
浅井さんの大きな背中がだんだんと小さくなっていく。
色とりどりのイルミネーションで催された舗道を片手に紙袋を持ち、とぼとぼと歩く浅井。
傍目にはクリスマスで一人ぼっちに見えるかもしれない。寂しそうに見えるかもしれない。しかし彼は今、やっと自分の人生を歩き出したのだ。
イルミネーションが浅井の歩く舗道を照らす。
浅井が豆粒ほどになったとき、彼は振り返りもう一度手を振ってきた。
マーガレットと天谷はそれに呼応するように手を振る。
とうとう彼は見えなくなった。
「行っちゃいましたね。浅井さん」
「そうだなぁ。幸せになってくれるといいよな」
「幸せになりますわよ!私見えたんですもの」
「本当かぁ?」
俺は笑ってマーガレットを見る。マーガレットも笑っていた。
「あーあ、結局天谷様の思い通りになっちゃったって感じかなぁ」
マーガレットが大きく伸びをしながら言う。
「何がだ?」
「私に馬券を買いに行かせる時、おっしゃってましたよね。【今お前が持ってるお金全額馬券に突っ込むんだ】って。あれは【浅井さんから貰っている分も】ってことだったんでしょう?」
天谷は笑いながら目を逸らす。
「天谷さんは浅井さんの現状を何とかしてあげたかった。でも、ただお金を天谷様が渡したんじゃ浅井さんは恐らく受け取らないでしょう。元同僚から大金は受け取りにくいです。だから【私に買いに行かせた】。私からなら受け取るんじゃないかって予想したんですね」
いや、とマーガレットは考え直す。
「予想じゃないですね!天谷様の予知ですね」
なんだ……そこまで分かっていたのか。あの言葉だけでマーガレットが真意に気づくのかは俺の本当のギャンブルだった。浅井さんのお金で馬券を買ってきてくれるかというギャンブル。
俺がただ単にお金を渡しても浅井さんは受け取らない。そういう人って言うのは分かっている。
だから、マーガレットに賭けたのだ。マーガレットに託したのだ。
天谷はこっそり行っていた本当のギャンブルに勝利していたのである。
「いや、何のことだか知らないなぁ。マーガレットが勝手にやったことだろ」
天谷はしらをきる。なんだか照れ臭いのだ。
なぜだろう。マーガレットなら絶対に買ってきてくれると、あの言葉で伝わるはずだと、不思議と思ったのだ。
しかし、天谷はそんな事恥ずかしくて言えない。
「ふふ、素直じゃないですわね。天谷様は。絶対そうなるように仕組んでたでしょ!」
「いや、お前が勝手にやったことだろ」
「じゃあなんであの時あんなに念押して……」
2人は押し問答をしながら帰路に着く。いつの間にか再び降り始めた雪に2人は気づかない。それほど2人はお互いに夢中になっている。
イルミネーションの光が雪に化粧をほどこす。色取り取りの雪玉がゆっくりと2人の周囲を落下する。
まるで大勝を祝福する紙吹雪のように。
これにて「お馬さん編」終了です!
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次話にて新編スタートします。




