大人にもサンタさん
神田はマーガレットに煽られて完全に戦意を喪失している。目の前で見せつけられる600億の馬券に心がポッキリと折れてしまったようだ。
実際、今でも俺は信じることができていないのだが。
「すごいよ……凄すぎるよ。天谷くん、マーガレットちゃん。今日はいいもの見させてもらったよ。ホントありがとう。クソみたいなクリスマスかと思ったけど君達と過ごせて楽しかったよ」
浅井さんは興奮気味にお礼を言った。
「あっ!そうですわ。浅井さんに渡すものがあるのでしたわ!」
マーガレットは到着時、神田が来たため渡せなかった「あるもの」を差し出した。
「はい、これ。浅井さんの分です!」
「え?なんだいこれ?」
浅井はマーガレットから長方形の紙をもらう。
そこには「4-12-6」という数字が書かれた紙があった。
「浅井さん、私に小銭くれましたよね?このお金で温かいお茶でもかってきてくれ!って。ごめんなさい。私間違えて馬券を買ってしまいました」
その馬券は神田が怒り出し、心配した浅井がその場からマーガレットを遠ざけようとした時に渡したお金である。
マーガレットはそのお金で馬券を買っていたのだ。
「確認したら浅井さん、私に500円渡してくれていました。ですので、500円の馬券です」
500円の10000倍。つまり、500万の馬券だ。
「こ……こんな大金、貰えないよ。マーガレットちゃん。これは君たちの戦果だ」
「いえ……この500円はもともと浅井さんのものです!受け取ってください!」
「いや、でも申し訳ないよ」
「申し訳ないことなんてありません!元々浅井さんのお金で、浅井さんの言う通りお金を使っただけです。お茶じゃなかったけど、それに……」
マーガレットは弾けるような笑顔で言う。
「これはマーガレットサンタからのクリスマスプレゼントです!子供だけじゃなくって、大人にもプレゼントを配るのがマーガレットサンタなんですわ!」
この笑顔でこのセリフを言われて、断る男はこの世にいないだろう。
「…はは。すごいや。天谷くん、君の彼女は凄すぎるよ」
「浅井さん、俺からもお願いです。この金でひとまず会社辞めて転職してください。浅井さんならもっといい会社絶対見つかります」
浅井は二人の熱意に押される形でとうとう馬券を受け取った。
「ありがとう、マーガレットちゃん。ホントに一生感謝する。このお金は大切に使わせてもらうよ」
浅井はハニカミながら言う。
「最高のクリスマスプレゼントをありがとう、マーガレットサンタさん」
「マーガレットサンタには見えますわ。数ヶ月後、転職に成功してお母様と楽しそうに生活されてる浅井さんのお姿が」
浅井さんは笑っていた。
浅井さんも俺も分かっている。本当に見えたわけじゃないと言うことは。
でも、マーガレットの言葉には不思議と説得力があって、本当にそうなるんだろうなという気がする。
寒空の下で、3人の間に温かな空気が流れる。
マーガレットサンタは最後に優しい嘘をプレゼントした。




