ホワイトクリスマス
「あーあ、馬鹿だなぁ。あんな予想、ドブにお金捨てるようなもんだよ」
神田は自分の予想が終わったのか、馬券を買いに去っていった。
「浅井さん、大丈夫ですか?」
倒れた浅井をベンチに座らせ、休ませる。
「……ごめんな。天谷くん。また迷惑かけちゃって」
「迷惑なんて、そんな」
「辞めたいんだけどね、母親の介護費用のことを考えるとしばらく収入は途切れさせることは出来ないんだ」
俺は何も言えず、ただ黙ってマーガレットが帰ってくるのを待った。
****
「買ってきましたわ。天谷様」
マーガレットはなぜか全力で走っていたのか、ゼエゼエと息が荒い。しかし、手にはちゃんと600万の馬券を持っていた。
「いや、ありがたいんだけど、べつに走る必要はなかったと思うぞ」
「浅井さんは大丈夫でしょうか?」
「あぁ、ごめんね。マーガレットちゃん。心配させて、もう大丈夫だよ」
「よかったですわ。無理なさらないでくださいね」
マーガレットが何かを浅井に渡そうとしたときだった。
「あっ、浅井元気になってるじゃん。よかったよかった」
神田が帰ってきた。神田も手には馬券を持っている。
「よかったって、あなたが押し倒したからでしょう!」
「そんなに強く押してねーよ。お嬢ちゃんは勝ち目のないレース応援してな」
神田は手に持っている馬券をひらひらと見せびらかす。
「このレースは最終コースを曲がってからの直線が勝負だと見る人が多いけど意外にも先行逃げ切り型が勝つパターンが多いのさ。だから買うべき馬券は7番。2番人気の馬だけどね。手堅く稼いで行くのが本物のやり方なんだよ」
マーガレットは神田の話を全く聞いていなかった。
まぁ、俺もそうなのだが。
「レースを見ましょうよ。神田さん。結果が全てでございますわ。このレースは4-12-6ですわよ」
「へっ、言ってろ言ってろ」
神田がどかっと座り込む。
しばらくして、ファンファーレが鳴り響きレースがスタートした。
今日の最終レースだ。
ゲートが開き、各馬一斉にスタートを切る。
神田の予想通り、序盤から7番の馬が抜け出した。
「よし!ほらいっただろ!7番がくるってよ!俺の言いなりになっとけば儲かったのになぁ!」
神田は興奮し、勢いよく立ち上がりレースを食い入るように見始める。
レースはそのまま7番の馬が体一つ分抜け出した状態で最終の直線に入った。
その時、マーガレットが立ち上がった。
「よーし、今です!抜け出すのです!4-12-6。私の描いた未来の通りに走ってください!」
マーガレットは応援するのが礼儀だと思っているのか、はたまた本気か。競馬に積極的になってきた。
俺も負けてられない。言い出しっぺがなに辛気臭い顔で競馬見てんだ。600万の大金をかけてるんだ。麻痺してたけど。
俺は腹の底から叫んだ。
「いけぇぇぇ!!4-12-6」
マーガレットの未来予測はもう確実だ。
抜け出してくる4-12-6を見て天谷は思う。
この景色にもう驚きをあまり感じていない。
「は?なんでだよ!なんでそんな人気薄い三馬が出てくるんだよ!ありえねえだろ!」
神田が気が狂ったかのように発狂を始めた。
「おい、いけよ7番、今からでも抜け!いけよ!いけよ!」
前半に飛ばしすぎた7番はもう1着になるのは絶望的だ。
「神田さん、7番は前半あれだけ飛ばしてらっしゃいましたよ?もう今更抜かすのは無理ですわよ?もしかして競馬素人ですか?」
神田は顔を真っ赤にするだけで何も言い返せない。
「浅井さんも、ほら、応援しましょうです!」
マーガレットが座っていた浅井さんを起こす。
「私たちの馬を応援してください!ここではそれがマナーです!」
浅井さんはマーガレットの熱に押されてすこし元気を取り戻した。
手をメガホンのように口にあて叫ぶ。
「いけぇぇぇ!4-12-6!4-12-6!」
ストレスを吐き出すかのように大きな声で応援している浅井さんを見て俺は少し安心した。
「いけ!4-12-6、4-12-6」
競馬場が熱気に包まれる。人々が興奮していく。
「「「いけけえけえええええ」」」
馬群が一斉にゴールラインを横切る。
マーガレットの予想通り、4-12-6の着順でゴールラインを馬達が通り過ぎて行ったのだ。
俺の目から見てもしっかりと確認できた。やったんだ。俺はとうとう大金を手に入れたんだ。
その時、競馬場全体に、大量のハズレ馬券が投げ捨てられた。
人気薄の馬が最終レースで勝ったらこうなるだろう。
天谷はこれを分かっていた。これを知っていた。
マーガレットの予想を聞いた時から。
投げ捨てられた馬券は空中に高く舞い上がり、風に乗り、競馬場全体をあっという間に包んでいく。
白い馬券がマーガレットの視界いっぱいに広がる。
そう、まるで、雪のように。
それはあまりにも、一瞬の出来事で、熱狂的で、幻想的で、マーガレットは今後一生忘れることはないだろう。
しばらくボーッと馬券の雪を眺めるマーガレット。
「なっ……行ったろ!マーガレット。雪は必ずもう一回降るって。俺も予知できるんだぜ」
マーガレットの顔に笑みが広がる。思わず天谷の腕に抱きついた。
二人は馬券の雪を眺め続ける。
大量の外れ馬券はこれからの二人を祝福するかのようにいつまでも舞い続けた。
メリークリスマス〜
聖夜の夜に時間を割いて私の小説を読んで下さった読者の皆様、本当にありがとうございます。
面白いと思ったらブクマ評価して頂ければ嬉しいです。
(後から読んでる人すいません。この話は今年のクリスマスに合わせて投下された話なのでこのような後書きになっております。リアルタイムのイベントと話をリンクさせる試みをしてみました。好評?だったと思ってるので小説家になろうでしか出来ない新しい表現をもっとやって行きたいと思っております。今後ともよろしくお願いします)




