神田主任
「おいおい、上司待ってんのにタバコ吸ってポケット手ェ突っ込んで。何様だぁ?浅井」
「神田主任……すいません。ちょっと寒かったんで」
神田は浅井の手に持っているタバコを奪い取り、地面に捨て踏み潰した。
「副流煙がね。体に悪いからね」
神田という男は基本的に自分が1番でないと気が済まないタイプだったな。天谷は思い出したくないことを思い出した気がした。
「あれれれれ?そこにいるのは天谷じゃないか!君達何してるのさ。こんなところで」
「いや、別に。ちょっと競馬しにきたら浅井さんと会ったんで話してただけです」
「もう、体は大丈夫なの?あれ、俺のせいだっけ?」
細くて鋭いメツキで見つめてくる。その目が嫌だった。その声が嫌だった。
「で、浅井。席とってくれてんの?」
「あっ!!!すいません。忘れてました!!」
浅井はこれでもかというくらいら頭を下げた。
「何やってんだよ!!!てめー!!良い席から馬見ねーと予想できねーだろうがよお!!!!」
神田は周りの目も気にせず怒鳴り散らした。浅井は下げた頭を上げない。上げられない。
公衆の面前でこんだけ恥ずかしい目を受けたのだ。顔は上げられない。
「神田さん、馬見たいんだったら、俺良いとこ知ってますよ」
天谷は助け舟を出した。会社員時代を思い出す。理不尽に怒られる浅井さん、それを庇う俺。そしてたまに降りかかる火の粉。俺も怒鳴られることもあったっけ。
それでも、天谷は自分が怒られるより人が怒られるのを見る方が辛かったのだ。
天谷の性格が頭より早く動いたのだ。頭では早くここから立ち去るべきだと分かっているのに、助けてしまうのだ。
天谷はさっきマーガレットと見たパドックに神田と浅井と行くことなった。
もちろん、マーガレットも。
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「おおー!!良いじゃん。ここ。レース前の馬がよく見える!!」
神田は機嫌を少し取り戻し、馬を見定め始めた。
「……ごめんな。天谷くん。……また、助けてもらっちゃって」
「……そんな。浅井さんは悪くないですよ……」
さっきまで明るかったマーガレットが神田のせいで静かになってしまった。委縮してしまったのかな。
「ごめんな。マーガレット。もうちょっとで分かれるから」
マーガレットは神田が馬に夢中なことを確認してこういった。
「あいつ、ムカつきますわね」
「え」
「あいつムカつきますわ。礼儀のれの字も知らない奴が何語ってるのって感じですわ」
マーガレットが静かになったのは萎縮していたからではなく、怒っていたからだった。
なんだ?俺の居ないうちになんか話したのか?




