遭遇
「…ここは?」
ブオォオォアーン!!
天谷の目の前を大型トラックが通りすぎる。
「危ねぇじゃねぇかよ!ちゃんと前見て歩け!」
運転手は窓を半分ほど開け、怒鳴り散らし、去っていった。
「ここは5年前に俺がトラックに轢かれかけた場所……渋谷スクランブル交差点!!」
という事は?
俺は元の世界に戻ってきてしまったのか?
慌てて俺は電光掲示板に目をやる。
「2019年12月15日 17:46分」
最悪だ……。俺は異世界へと飛び立つ前の時間に戻ってきてしまったみたいだ。
という事は、これから待ち受けるハーレムも、豪華な食事も、ケリーちゃんも、全部なしって事なのか?
服装を見る。
あの時と瓜二つの格好。高校の時から来てる白のパーカーにスキニージーンズ。俺の中での一張羅……。
「そうだ!賢者の知恵は!?あれさえ有れば、俺はこの世界でも!」
決死の思いで叫んだ。頼む。出てきてくれ。何か一つくらい俺に残されていてもいいだろう?
「おい!賢者の知恵!どうなってる?今の俺の状況は?俺はどうすればいい?」
いくら叫んでも、何も返答はない。周りの道ゆく人たちが不審な目で俺を見てくるだけ。
「おい!頼むよ!賢者の知恵!出てきてくれよ!何のための5年間だったんだよ。これからだろ?俺のスローライフはよぉ!」
周りの目なんか気にならない。俺は叫んだ。泣き叫びに近かったのかもしれない。
スマホをこっちに向けてる人もいる。
そういや、現代社会はスマホ、スマホ、スマホだったなぁ。
少しずつ現実を実感してきた天谷は冷静に状況を考え始める。
周りの人だかりも天谷にあっという間に飽きたのか、皆自分の用を優先させる。
天谷の不審な様子に気にかけるのはほんの数分の出来事であった。
「あの5年間は夢だったのか??」
賢者の知恵もいない。服装も勇者の装備もスキルも何もない。
あの異世界での日々は、モンスターや魔王との激闘の日々は俺が見た幻に過ぎなかったのだろうか。
トラックに轢かれかけて見た走馬灯の亜種みたいな奴なのか?
天谷が異世界での日々に疑いを持ち始めたその時、二十メートル先で大きな人だかりが出来ているのが見えた。
「なんだ?あの人だかりは?」
天谷がゆっくりとその人だかりへと歩を進める。
「すいません!ちょっと、いいですか。ごめんなさい」
人を押し除けるように、その中心へと迫って行く天谷。最後の人の壁をかき分けたその先には1人の女が倒れていた。
黒いドレスを纏った女はグッタリと倒れていた。
天谷はその女をどこかで見たことがあるような気がした。




