AI
天谷は大急ぎでFXの口座を開設した。開設にあたって銀行の貯金通帳と紐つける必要があったため、急いで通帳を探した所、シンプルに引き出しに入っていた。
残金17万円だった。
「俺?こんなに貧乏だったったけ?」
天谷は過去の自分を呪った。
「何はともあれ開設だ!元金はかなり少ないけど」
天谷は必死でパソコンの画面に必要事項を入力した。
鬼のような形相でパソコンに向かう天谷に対しマーガレットは恐る恐る聞いた。
「ねぇ、私のスキルってどういう事なの?あんまりよく分かってないんだけど」
「あぁ、ちょっと待って。いま忙しいから」
「そんな事言ってたら、もうあの線、見ないよ」
キーボードを叩く天谷の後ろからマーガレットが囁く。
「……すいません」
くるりと椅子を回転させ、いつの間にかベットに横たわっているマーガレットに話す。
「おそらく、お前のスキルはだな、簡単に言えば【AI】だ」
「えーあい?」
布団にくるまったまま、顔だけを出しているマーガレットは初めて聞く言葉になれない様子だ。
これは、あくまで俺の予測に過ぎないが当の本人には説明しておこう。
「まぁ、異世界から来たお前は分からないと思うけど、今この社会は空前のAIブームでな。artificial intelligence の略で日本語だと人工知能とも言われてる」
「そのえーあいってのは、わたしのスキルとどう関係があるのですか?」
「おそらく、マーガレットのスキルは見たものをデータとして処理してそのデータを元に未来を予測するって言うスキルだ」
「はー、凄いんですわね。とりあえずは」
「まぁ、深いところまでは分かんなくてもいいよ。予想ができるスキルって思ってくれれば。ハイパー高精度で」
「高精度って、どう言う事ですか?この国のAIってやつは精度が悪いんですか?」
「普通AIで高精度な事をしようと思うと大量にデータが必要なんだ。だから今、実用化レベルまで言ってるのは将棋だったり囲碁だったりデータベース化しやすいものなんだ。最近では人の画像のデータを大量に使って自動で止まる車とかも開発されてるな」
「……なんだかよく分からないけど、天谷様って詳しいんですね。AIってやつに」
「……いや、この国の人ならみんな知ってるような事だよ」
少し話しすぎたなと思い、天谷は再びパソコンに向かった。
「だからまぁ、なんか予想ができるくらいに思ってくれればいいよ。マーガレットの場合は極少ないデータから高精度な予想が出来るってのが凄いんだ」
「へー、話戻していいですか?」
「なに?」
天谷は必要事項をあらかた入力し、口座開設を終えようとしていた。
「さっき言ってた、車ってなんですか?」
……そうか。車もこいつは分からないのか。
「いつか乗せてやるよ」
マーガレットは何のことだかさっぱり理解ができなかったが、なんだか嬉しかった。