億万長者
「下です。この線は2分後くらいに下に下がります」
マーガレットは長過ぎる袖の隠れた手のひらでスマホを持ちっている。萌え袖ってやつだ。
「本当か?何か見えたんだな?」
「はい、この線が下がっていくのが見えました」
「よし分かった。じゃあ、ちょっともうそれ返して」
「これ?この四角の?」
「四角の、じゃなくて、スマホな。現代社会での必需品だから」
「へぇー、こんな小さい四角が人気なんですね。この世界って変です」
「まぁ、そう客観的に言われるとただの四角だけど、これ凄いからね」
「じゃあ、私にも買ってください」
「……まぁ後でな」
「いや、絶対嘘ついてます。買ってくれないでしょ!」
俺はマーガレットの愚痴を無視してスマホに目を戻した。無駄話をしすぎてしまったので、もう二分経ってしまったか?
俺はスマホを凝視する。
線とはFXの事だ。乱高下しているのは各国の通貨の価値である。
異なる通貨の売買で儲けを出すのがFXなのである。
いわばギャンブルの一種だ。しかし、ギャンブルと言っても複雑なことは何もなく、ただただ選んだ通貨の価値が上がるか下がるかを予想するだけなのだ。
予想するだけと言っても、とんでもなく賢い人達が日夜集まって論議を交わしたとしても予想は困難だと言われているが。
そんな、予想が困難なFX。
今回マーガレットに試しに見てもらったのはアメリカの通貨ドルのページだ。
マーガレットは下がると言っていたが、果たしてどうなるか?
そろそろ二分が経過するはずだが……。
スマホの中ではアメリカのドルの価値が微妙に上がったり下がったりしている。極端な変化はないと思われたが……
「……ん?おおっっっ!!」
クククッと上下に微動していたドルの価値が一気に下がっていった!
「おい!マーガレット下がってるぞ!本当に下がってるぞ!」
「……え?ほんとですか?いや、まぁ、だから言ったでしょう!下がりますよって!」
「いや、これは凄いぞ。凄い事だぞ!」
「……そうなのですか?天谷様に凄いと言われるなんて、1日前の私のことを思うと考えられませんわ」
マーガレットは声を震わせる。
「いや、こんな事をしてる場合じゃない!急いで開設しないと!」
俺はWikipediaで観天望気を開いているページを閉じ、FXのサイトに直行した。
「おい、これで俺、億万長者になれるぞ!」