実験
脱衣所から出ると机の上に一杯のミルクが置いてあった。
「これ、私に?」
マーガレットは木製のカップを包み込むようにして持つ。
「まぁ、それ飲みながらでいいからさ。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
やっぱり、さっきの顔見られちゃったのかな。急に優しくなっちゃって。
心の中でマーガレットはすこしだけ笑った。
「なんでしょうか?聞きたいことって?」
マーガレットは天谷の大き過ぎるジャージの袖を萌え袖のようにしてきている。
ドサっとベッドの上に座った。
「お前、遠慮もなくベッドの上に……」
「何か悪いのですか?この世界のベッドはふかふかですね!」
他人をベッドに入れたくない主義の天谷だったが、ふわふわだとはしゃぐマーガレットを見ていると何も言えなくなってきた。
「で、聞きたいことなんだけどさ。昨日の居酒屋の火事の話」
「あぁ、あれですか?私もあのことはちゃんと整理したかったんですよね」
「あの時、お前火事になるって分かってたみたいだったけどさ、だから居酒屋の中に入ってきてくれたの?」
「いえ?あの時はただ外で待ってるのが寒かったのと、木田って人が天谷様をボロクソに言ってくるのが聞こえてきたので思わず入っちゃいました」
「あ、そうだったんだ。それはなんというか、ありがとうと言えばいいのか……」
何はともあれ、重要なことが分かった。マーガレットは火事になるとその時点で分かっていたわけではなかったのだ。
「それで、私中に入ってから色々散々言いたい放題した後くらいに、火事になる!って思ったんです」
「入ってから、しばらくして分かったんだな?」
「そうだと思いますが」
マーガレットはあったかいミルクをそーっと飲む。
「でも、それが私のスキルなんでしょうか?かんてんぼうきって言う。火事になるかどうか分かるって言うスキルなのかしら」
「いや、そんなちっぽけなスキルじゃないと思うぞ……お前のスキルは」
天谷はマーガレットの話からある一つの可能性にたどり着いていた。
「なぁ、マーガレット今ここに乱高下する線があるだろ?」
天谷はスマホの画面をマーガレットの前に差し出した。
「これをしばらく見てみてほしい。で、これがどうなるか考えてみてほしい」
「そんなこと私に分かる訳ないでしょう?それになんですか?これは?」
「いいから、いいから。ちょっとやってみて!」
「天谷様がそこまで言うなら」
マーガレットは両手でコップを包みながら、スマホの画面を見つめた。
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数十分が経過した。
マーガレットはまだ無心でスマホを見ている。
そして急に呟いた。
「下です。2分後くらいにこの線は下に下がります」