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ビヨンド・ザ・モルド・ホライズンズ  作者: 四重茶
スランブリング大洞窟篇
5/14

4 ファースト・コンバット

自身でも訳が分からないぐらいテンションが跳ね上がり、勢いでアイサンスは目の前のミミズもどきに右手を拳にして吶喊した。

ミミズもどきことスランブムルは完全に不意を衝かれる格好となり、迎撃も防御もできなかった。

もっとも後者は自身の身体がほぼぴったりと収まっている以上、望むものではなかった。

アイサンスは額と思われる部位に狙いを定めた。

構え方はずぶの素人、ひと昔の喧嘩番長のほうがまだマシなものであろう。

技術は無い、だが。


速度と、威力だけは桁違いであった。


肉と肉がぶつかり合う強烈な鈍い音が常闇の洞窟に響き渡る。

ついで、スランブムルの絶叫がこだます。

それだけで、全長は9メートルはあろうかという巨体を十数センチ押し退けるほどの威力である。


「いっっっでぇええええええええええ!」


なので当然の如く、反動と言う形でアイサンスの右手首にもダメージが入るのである。

意外にも【拳で殴る】という行為はそれ相応のリスクが伴う。

相手に肉弾するのは当然だが、自分の肉体を自分の攻撃で傷つけながら戦うのだ。

サーベルタイガーの鋭い牙や鳥の嘴みたいに、攻撃をする面で大きな武器となる肉体部位をアイサンスは保有していない。

まるで、ホモ・サピエンスのようにである。

予想よりも重い結果が両者が襲い、間の抜けた時間が流れる。

最初に動き出したのは意外にもスランブムルであった。

怒りの表情をむき出しに、まるで臼のような歯がある口を大きく開けて突撃してくる。

小さい洞窟の岩などお構いなしにアイサンス目掛ける。

はたと我に返るとアイサンスは咄嗟に走り出す。

洞窟の空洞をほぼ埋め尽くす顎を見て全力で走り抜ける。

相手は避けることはできないがそれはこちらも同じと言うわけである。


「うおおおおおおおおおおお!」


身体の力を振り絞るように走り抜ける。

フィールドスキャナーで取りあえず動き回れる空洞を探して回るがそう都合のいい場所など―――。


「んん!!?」


あった。

どうにも程よく攻撃を避けれるだけの空間がこのまま走れば存在している。

何がなんだか分からないがラッキーである。

どちらかと言うとハードラックと言うべきか。

アイサンスは一度振り向くと怒りを滲ませている声を叫びながらスランブムルが追いかけてきている。

現状、二体の速度はそれなりに拮抗しており距離は縮まりもしなければ広がりもしない。

これはこれで厄介だが今の状況なら歓迎するべきであろう。

確実に仕留める必要があるのだから。

走りぬけ、意味深な空間に入ったときであった。

アンラインキャプチャーやフィールドスキャナーで作られてる視界に変化が起きた。

暗闇で構成されていた部分にほんのりだが赤い色が加わった。

これは、目を瞑って太陽などの光源に向いたときにこうなった気がする。

すなわち、視界が確保されたというわけだ。

2つの能力を解除すると元の視界が現れる。

目の前に少し眩むほどの光が溢れている。

入ったと同時に光が発生したとなれば自動点灯するような機構が組み込まれているのであろう。

壁には強い光を発する石のようなものがいくつも等間隔に壁と天井に配置されておりさながらイベント会場に使われる大型ホールのようだ。

明かに人によって人為的に作られた物である。

この世界に来て初めて目にする【知的な痕跡】に思わず立ち止まっていたが後ろから壁ごと噛み砕きながらスランブムルが飛び出してきた。

反射的にアイサンスは横へ飛びのき突進を避ける。

早速、その程よい広さが役に立ったといえよう。

横に回避できるというのはすばらしいとアイサンスがこれほど強く思ったのは初めてだ。

数瞬、スランブムルが怪訝そうに辺りを見回す感じに頭を振る。


(何か、心当たりがあるって反応だな・・・)


やはり、この区画はこのミミズもどきと戦うために整備されたものか、と思考を走らせる。

何者かが恒常的にこの山脈を掘って鉱石を集めているのだろう。

そりゃあこんなものが出てくるのであれば少ない確率とはいえ遭遇するであろう。

こちらを獲物として捉えていたということもあって闘争心もべらぼうに高く、割と洒落にならない被害を出しているのであろう。

その対策として整備されたものならば奴にとってここは不利な場所であり、戦いを放棄する可能性がある。

しかしアイサンスの好戦的な懸念を他所にスランブムルは逃げる素振りを見せず、身構えるように鎌首を上げる。


「はんっ上等だぜこの野郎・・・!」


目の前に居るのが単騎だからか勝てると見込んだ動きにアイサンスはボルテージを上げていく。

やる気満々なのは功を奏したといえよう。


再びスランブムルがアイサンスの方へ向き、大口を開けて突進してくる。

体格とそれを支える各種身体能力を最大限活用したスランブムルお得意の攻撃である。

部屋の高さは3メートルより少し高め。

その殆どを占めるスランブムルの体高とまだ洞窟内に留まっている身体の長さを考えるとそれが差し迫ってくる光景は大型トラックが突っ込んでくるのを正面で見るようなものであろう。


「うおっぷちょちょちょ!?」


変な声を上げながら堪らずアイサンスは横への回避行動を取る。

人間であったときならば恐らく恐怖で竦み、動けなくなっていただろう。

危機感は感じたが不思議と恐怖は感じなかった。

スランブムルの巨体はそのまま地面に一回バウンドしながら壁に衝突する。

しかし意に介さぬと言わんばかりに壁の岩塊を口で食いちぎり、咀嚼しながら顔をこちらに向ける。

真っ暗で把握してなかったが円形に広がる大量の歯は生理的嫌悪感を覚えざるをえない。


「きもちわりぃ・・・」


その見た目にアイサンスは思わず嫌悪を吐き出す。

それとは別に大きな問題があった。

攻撃をしたくとも有効打を与えられないのだ。

いま、アイサンスが出来るのは殴る、蹴るなどの肉弾戦術のみである。

しかもずぶの素人であり、負担軽減等の心得すらも一切ない。

つまり初撃の通り自身への反動がとても大きい。

これでは殴り倒すにしてもその前に手が使い物にならなくなる可能性がでてくる。

思考する間にも体勢を整えたスランブムルの突撃が来る。

はたと我に返り、アイサンスは再び横に大きく跳躍して避ける。


「こなくそっ」


悪態を吐いてアイサンスは地面を反復横跳びの応用で蹴り跳ぶ。

そのまま隙だらけの胴体へ殴りつけた。

パン!と肉同士がぶつかり合う独特な音が響き、スランブムルは再び痛みに咆哮を上げる。

しかし、アイサンスもやはり手に掛かる大きな反動で表情が歪む。

痛い、割と洒落にならない痛みだ。

あっという間に拳に力が入っていかなくなる痛みだ。


「せめて――――」


ナックルガード的な魔法みたいなものがあれば思いっきり殴れるのに。

着地しながらアイサンスはそう羨望した。

洞窟探検のことで頭が一杯だったためこういう戦闘に役立つ(アビ)(リティ)の把握をすっかり忘れてしまっていた。

何とかなるか、と考えていたがこんなのが出るとは聞いていない。

どうしたものか、と思案を巡らせた時にスランブリングの言っていた(アビ)(リティ)を思い出す。


「そうか、【ステータススキャナー】!」


分からないことがあれば調べればよい。

スランブリングが一言だけ発したその能力の名前は恐らく自身の【状態】を客観的に把握するためのものであろう。

取りあえず、自分が何ができるのか、把握しなければならない。

フィールドスキャナーと似たような感覚で【ステータススキャナー】と唱えると身体の何かが駆け抜けるような感覚がしたのち、脳裏に文字が浮かび上がる。

適当な願望であったがどうやら使えたようだ。

スランブリングがいろいろなものが使えるぞ、と言っていただけある。


病気はなし。


手に若干の損傷あり。


などと淡々と自分の状況が羅列されていく。

正直なところ言うと。


「・・・・分かり辛い」


自身のヒットポイントゲージとかゲームのような各種ステータスの一覧表みたいなのを予想してたのが悪かったのか最初の部分の読み取りが上手くできなかった。

しかし、今の欲しい情報は能力関連だ。

つらつらと脳裏に文字が浮かんでいくがその間も戦いは続いている。

スランブムルは二度にわたる攻防で把握したのか大降りの体当たりをやめ、鋭く、動作の少ない噛み付きに変更してきた。


「学習性AIかよ!」


決まったパターンで動くようなものではなくある程度賢いということがこれで分かった。

つまり【嵌め】は難しいと言うわけだ。

こうなれば短期戦に持ち込まないと早晩アイサンスが詰む状況に陥る。

そも、致命打を与えられる攻撃オプションを持っていない現状はそれに近いものだが。

細かく攻め立ててくるため、どうしても大げさに避けないと行けなくなりアイサンスは距離を持った。

少し冷静になってきたのかスランブムルの動きも無駄がなくなってきている。


「・・・不味いなぁこれ」


冷や汗を掻いたとき、ふとその言葉が脳裏に浮かんだ。


フィジカル・ブーステット。


呟いた途端に、その能力の概要が知識としてインプットされる。

単純明快、この能力は肉体機能を()(ラーナ)を使って増強する。

自分でも直ぐに意味が分かるように知識の中にある言語にローカライズされたのだろうか。

兎も角、攻撃力強化のチャンスが巡って来たのだ。


早速、アイサンスは能力を念じて起動させた。

イメージとしては攻撃力よりも殴っても痛くないように抗堪性を上げるか、とふと考えると火山の地響きのような音が内側から鳴る。

筋肉がかなり活発に動いているようだ。


「う、うおおお!?」


その感じたことの無い触感にアイサンスは思わず変な声を上げる。

スランブムルはその変化に対して敏感に反応した。

奏上された薄暮色を湛える生力が溢れ出ている姿に大きく警戒する。

それは【いつもの連中】が攻勢を仕掛けるときに出すものと良く似ているからだ。

だが、無強化の段階で既に凶悪なまでの肉体能力を持っていたアイサンスがそれをより増強したらどうなるか。

自信をつけたアイサンスが景気づけに殴るために跳躍した瞬間。


一瞬で7,8メートルはあった間合いが詰まった。


「いっっ!?」


咄嗟にアイサンスは右手の殴打から突き出していた左肩のショルダータックルへと変更してスランブムルの額に再度突っ込んだ。

まるでポリバケツを木の棒で叩いた様な軽快で鋭い爆音が響く。

軽く1メートル近くスランブムルの巨体がインパクトで押し退けられる。

反動でアイサンスも弾かれるがそのまま平然と着地できた。

肩が外れた形跡も痛みもない。

フィジカル・ブーステットは痛覚を遮断する訳ではないので純粋に負荷を弾き返したのだ。

思ったより増強されておりきょとんとしていたアイサンスだがスランブムルが蠢くのを見てはたとする。

同時に高揚感が再び湧き上がり自然と笑みが浮かんでしまう。

これなら思いっきり叩ける。


「ウオオオオオオオオリヤアアアアアアアア!!!」


気合を込めて吼えながら拳を作って再び吶喊する。

初手の頃とは比べ物にならない速度だ。

速度はそのまま威力にも繋がる。

吶喊を感知したスランブムルも危険を感じ取ったのか口を開く。

カウンターでアイサンスを飲み込もうとする算段であろう、しかし増強されたアイサンスの動体視力はそれをしっかりと把握した。

水を掬うように、地面の岩ごと削り取りながら下顎がアイサンスを捉えようとするも、身体能力を増強させたアイサンスはスランブムルの予想を超える動きでそれを避けた。

顎すれすれの箇所で圧倒的スピードを【踏ん張る】ことで急減速したのだ。

殺人的なブレーキでスランブムルのカウンターを流したアイサンスであったが、逆に速度と言う要素を失って火力が減退した。

だが、目の前には無防備晒された下顎が広がっている。

ならばやることはひとつ。

すぅっと深呼吸をし、狙いを定める。

次に足を屈め、太ももとふくらはぎに思いっきり力を込める。

構えっぱなしであった拳を更に深くし、準備は整った。


「ダアアアアアアアアア!!!」


一気に足にためた力を放ち、下顎目掛けて跳躍する。

スランブムルも対応できない速度で、アッパーが炸裂した。


「―――――――ッ!!?」


その声にもならない悲鳴をスランブムルはあげる。

9メートルはあろうかという巨体は半分ほど浮き上がり、勢い余って頭部は空間の天井に突き刺さった。

手ごたえはあったとアイサンスは思う。

人間なら失神物であろう。

だが、致命傷に至ったかと言えばまだといえる。

撲殺、というのは単騎でやるには意外と時間がかかるものである。

今ので脳挫傷とか起こしてぽっくりするならそれはそれで終わるのだからいいのだが。


「・・・なんかまだ動いてるよねぇ~」


沈黙のなかに新たな動きがあった。

やはりミミズっぽいがスランブリングの残滓を何となく感じ取れるだけあって頑丈なようだ。

しかし、身体増強を加えてもまだ致命傷を与えられるかアイサンスは自信を持てなくなってきた。

ギッとなにかを覚悟したかのようにスランブムルは眼光を煌かせた。

何か来る、そう確信したときにスランブムルの側面が橙に輝きだすのが見えた。

如何にも、超高温ですよという感じの雰囲気である。

そして頬と思わしき部分がぶくっと膨れ上がり、大きく息を吸って何かを溜める動作をする。

ヤバい、と本能が警告を発した途端、スランブムルの口から大量の橙に輝く液体が噴射された。

狙いは直線的だったので避けることはできた。

だが、その液体がもたらした結果に息を呑む。

液体が吹きかけられた岩石は熔解し、皮膚を焼くような熱を感じる。


「マジかよ・・・」


これは、溶けた岩石だ。

岩石の溶解温度は摂氏1200度ほど。

まともに浴びれば炎熱耐性持ちとはいえひとたまりも無い。

今までただ突進してくるだけだったので、これが彼の【戦い方】なのだろう。

つまり、本気を出してきたのだ。

遅きに喫しているようには感じるが。


「やる気になりやがったなこんちくしょうが・・・」


今までなめられていた、という事実を突きつけられてアイサンスは軽く苛立ちを覚える。

そして、油断している間にしとめ切れなかったのは厳しい事態を生んだ。

ここからは更に大変で、面倒くさい。

再びスランブムルが動く。

今度は溜めの動作が少なくまるでスイカの種を器用に吐き飛ばすように小さい溶岩弾を連射してくる。


「クソ!無駄に制圧射撃しやがって!」


悪態を吐きながらアイサンスはその溶岩の驟雨を避ける。

肉体言語しかダメージソースがないアイサンスにとって飛び道具はそれだけでも脅威だ。

如何せん近寄ることができなくなるのだから相手が一方的に攻撃してくる。

当たるかどうかはともかくとして回避で削られる神経の磨耗でいつかは当たってしまうだろう。

ジリ貧、そのような状況であり実際に何発かは掠めてしまう。

「あっつ!」と思わず声を上げてしまうアイサンスであったが、症状は熱湯が若干かかった程度で収まっている。

常駐型の能力である【炎熱耐性】の結果であろう。

1200度の溶岩相手にその程度で済んでいるのはかなりの性能だ。

しかし即死するものが手痛いものになっただけで痛いものは痛い。

アイサンスとしては至近弾でなんとか済ませたいし、当たるわけにもいかない。

何とか突破口を見つけたいが連射による手数で精度を補うスランブムルの射撃にアイサンスは避けるので手一杯だ。

また一発が頬の近くを掠める。

肌を食いちぎるかのような熱気で表情が思わず歪む。

そして時間を掛け過ぎればそれだけ不利になる。


「―――ッ」


溶岩弾を避けている最中、身体に鈍い痛みが一瞬走りぬける。

アイサンスの前世、片沼駿太の経験で言うと【筋肉痛】に近い痛みだ。


「冗談きついぜこれっ」


フィジカル・ブーステットにも【効果時間】みたいなものがあるようだ。

突破口が無い段階で時間も無いと来た。

どうする、と自問するが焦燥と消耗で上手く答えが浮かんでこない。

ここまでか、と諦めかけたときであった。

スランブムルの動きが目に見えて鈍くなった。

身体がかなり橙に発光し、熱気が身体から漏れ出している。

息もかなり上がっているところを見ると、オーバーヒートでも起こしたのだろうか。


「そら、溶岩を身体の中で作ってるとなりゃあそうなるか」


どうやらあまり時間が無いのは向こうも同じなようだ。

だからギリギリまで奴はこの戦法を使わなかったのであろう。

互いの疲労によるひと時の睨み合い。

お互いボロボロになり次の一手で決着を付けなければならない。

そう確信したがアイサンスは敵を倒しきれるほどの手札が無く、万事休すなことに変わりは無かった。

何か手は無いか?どうするればいいか?

思いがけぬ猶予でステータススキャナーをもう一度かけるも自分の状態が脳内に提示されるだけだ。


「何か・・・っ」


歯軋りしながら、ふと拳を見たときであった。

身体の表面になにか橙の色をした靄のようなものがにじみ出ているのが見えた。

湯気でなく、もっと粘性があるように感じる。

はっとしてアイサンスはスランブリングか語った能力に関しての出力の仕方を思い出す。

能力は【生力】を媒介にして作動させる、つまりこの靄は自分の生力なのだ。


「だからなんなんだよ・・・」


靄が生力である、それで問題解決には至らない。

どうしたものかとアイサンスは眉をひそめるがもう一度拳を眺めた。

せめて。


「せめて、あいつを貫ける槍みたいなのがあればなんだけど・・・」


そう呟いたとき、生力の靄が一瞬形がぶれたように見えた。


「・・・?」


どういうことだろうか。

スランブリングの気配は無い。

彼がひっそり起きてサポートしているというのは恐らくないだろう。

では今の靄の動きはなんだ?

なぜ、自分の願望に反応したのか。

疑問が疑問を呼んだが取りあえず置いておこう。


「もっと、イメージを強くすれば・・・?」


何かが出来る、言葉に表せないがそのような確信がアイサンスを過ぎった。

まるで粘土のようだ、とアイサンスはこの生力を見て感じた。

小さい頃、良く油粘土で色々なものを作っていた記憶が蘇る。

では武器でも捏ねてみよう、と思ったがイメージを送りつけたら生力の流出量というべきか、抜けていくものが多過ぎるようにアイサンスは感じ取った。

これではフィジカル・ブーステットがいきなり使えなくなりそうな予感を覚える。

ならば、とアイサンスは必要最低限の機能を求める。

拳の先に張り付く【杭打ち】のようなもの。

これでも抜けていく生力はバカにできないものの、何とかフィジカル・ブーステットと両立できそうなレベルに収まってくれた。

杭打ちのようなものを浮かべたとき、アイサンスはスランブムルの撃破構想をひとつだけ思い浮かんだ。

しかし、それには(いささ)か長さが足らない。

ならば針のようにしてしまえば良いではないか、と思い至る。

【貫く】だけなら太さはむしろ邪魔だ、太さの分を長さへと変換する。

拳先にまとわり着く生力の形がどんどん細長くなっていく。

これならいける。

幸いにも、スランブムルはその動きを傍観するに至っている。

彼もこの間にわずかでも身体を冷却し、次に備えているであろう。

チャンスは一度、生力の残量的にもこれが最後の一発だ。


ふっとアイサンスは息を大きく吸い込み、気合を入れて駆け出す。

しかしその速さは最初のほうに突っ込んでいたときより遥かに遅い。

思ったより限界が近くてアイサンスは表情を歪ませる。

スランブムルの方は口をあけ、陽炎と熱気を吐き出している。

初手で撃ちはなっていた広域に溶岩を吐き出す攻撃をしようとしているのだろう。

相手もそれが最後の一撃になると言うのを考えているはずだ。

互いに引き付ける、という目標が一致して距離を狭めていく。

あと4メートルほど、となったときにスランブムルがついに動く。

一気に天井付近まで鎌首を押し上げて口を大きく上げた。

喉奥には橙に輝く灼熱の熔解岩石が見える。

しかしそれは同時にアイサンスが仕掛けるタイミングでもあった。

溶岩を放つ直前にアイサンスは一気に天井付近まで跳躍する。

吐き出される溶岩が足先を掠め、鋭い痛みが走る。

だがちょうど射界の空白地帯に潜り込めた。

そのままの勢いでアイサンスは射撃のために動きを止めたスランブムルの頭へ突撃した。

正確にはその額目掛けてである。


「おおおおおおおお!」


雄たけびを上げてアイサンスは三度その額を捉える。

むんずと左手で体表を掴み、右手の拳に生力を集中させる。

それをパンチの要領でアイサンスはスランブムルの額に打ち付け、生力の針を押し込む。

刃物でも刺さったかのように拳は体表を貫通して内へ潜り込む。

だが浅い、これでは痛みを与えるだけで致命傷には程遠い。

ではどうするか?


「伸びろォオオオオオオオオ!!!」


針を伸ばせばよいのである。

全身を支配する中枢神経を貫くべく、アイサンスは右拳にある生力の針を一気に伸ばす。

同時に身体の中にある生力が一気に消えていく。

それだけでも意識が吹き飛びそうになるが根性で食いしばった。

その光景は漁で釣り上げた獲物を細い針で脳天を貫いてシメるようなものである。

絶叫すらも上げれず、スランブムルはビクビクと痙攣を起こす。


「ガアアアアアアアアアア!!」


持てるだけの生力を針に費やす。

反対側まで貫くその瞬間まで伸びろと強く念じながら。

数瞬ほど経ち、針は消えてしまった。

ガス欠である。

その瞬間、アイサンスの肉体から力が急速に失われていく。


「――――――」


同時に意識も暗い泥の中へと沈んでいく。

やれたのか、どうかわからないままアイサンスの意識はそのまま暗闇に沈んでいった。


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