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ビヨンド・ザ・モルド・ホライズンズ  作者: 四重茶
スランブリング大洞窟篇
4/14

3 現状把握





『終わったぞ。うーん中々の心地』


満足げなスランブリングの声が頭の内側へと響いた。

その言葉からして【移譲】は終わったようだ。


『今、お主の肉体に住まわせてもらっておるが魂が何個でも入りそうなぐらいの身体であるな』


スランブリングは何らかの欠損等は覚悟していたらしいがすっぽり、あっさりと自分が納まったことに驚いている様子だ。

アイサンス自体の感触は、やる気というか活力が漲っている。

スランブリングの意識とその力は分離され、力の行使権はアイサンスの方にあるようだ。

ホントに譲渡されたけど良かったのだろうか、と自分に実の入りが多すぎて勘ぐってしまう。


『しかし、これだけ(アビ)(リティ)が溢れておるのに【常駐型】を除いてひとつも使用していないのはちょっとどうかと思うぞ』


呆れ口調でスランブリングはその事実を語った。


「え、能力持ってたんですか俺」


『やはり把握しておらなんだかぁ・・・』


というわけで、この先をしっかりと生き抜くためにスランブリングから実践を交えての能力講座を開いてもらうこととなった。

能力には大まかに2種類の分類が存在しており、常に何かを消費せず作動する【常駐型】と生力を媒介に作動させる【立上型】がある。

まずはすっかり真っ暗闇に戻ったこの視界を何とかする為の能力を使用することとしたいのだがこれら当然の事だが【立上型】である。


『ふむ、暗闇を制するならまずは【フィールドスキャナー】による地形把握と不可視光線を視る【アンラインキャプチャー】の複合使用が良いだろうよ』


「何で二重使用?」


二つの能力を使う意図がいまいちアイサンスには分からなかった。

何となくは浮かぶのだがそれが本当かどうかは聞いてみなければ判別は出来ない。


『前者だけでは生体を把握することが出来ん、というのが主な理由だ。

後者は物体が放つ熱線等も視界に収めることができる。

目の前に光線を放っている【何か】が現れれば姿を確認できる寸法だな』


「この時点で敵生体との遭遇を考える必要あるわけかぁ・・・」


『周囲の環境は多少はマシとなったからその可能性が出てきたという訳であるな』


脳筋かと思ったら意外と深慮深いな、とアイサンスは思わずには居られない。

というかこういう思考と言うのは身体を間借りしている以上バレていそうで怖い。

何も言って来ないとこをみるとそうではないとは思うが。


「取りあえず、能力ってどうやって使うんです?」


『呼吸をするのってどうやってやるのか、というぐらい俺たちの世界では常識ではあるから少し言葉にするには難しいな』


呼吸をするぐらい自然なことなのか、とアイサンスは唸る。

こうなれば念じろ!気合だ気合。

破れかぶれで目を閉じて能力、能力と頭の中で唱えるが当然ピンと来ない。

禅とかそういう瞑想しないと行けないのだろうか?


「深呼吸と手を握ったり話したりでっと」


母がやっていた瞑想による睡眠方法が頭によぎったのでそれを真似て思考を静かにしてみる。

余計なことを考えずに、静かに、静かに、心を落ち着かせる。

心を明鏡止水にし、己の深淵を掻き分ける。

ふと、何かの引っかかりを感じた。

瞬間、目の前の真っ暗な空間がいきなりモデリングラインみたいに構造物が線で表現された世界へと変貌した。

これが【フィールドスキャナー】という能力か。

しかし、名前はもろ英語っぽいのだが何故だろうか。

自分の言語記憶の中から意味の通じるものが出力されているのだろうか?


「おお・・・何だこれ」


『ほう、少し瞑想するだけで自力で能力を発動させるとは。やはりお主は見ていて楽しいな』


スランブリングは立つ瀬がないではないかと、ボヤいていたがアイサンス的にはこれまた困った事態である。

何故なら上手く言葉にできない方法で能力が作動したからだ。

これでは止め方がわからないのである。

好き好んでブレーキが壊れた車を走らせる馬鹿など居ない。

最初は驚きであったがふとその考えがよぎって身震いしてしまった。


「というか自分の能力ってどの程度の数があるんだろうね・・・」


『確かめ方はある。俺が使ったように、【ステータススキャナー】を使用すれば自身の【状態】を確認することが可能だ』


「そんな便利なものもあるのかぁ」


ますますゲームチックである、とアイサンスは不気味さを感じる。

いや、どっちかっていうと近未来的であろう。

自分の状態を客観的に自身で確認できる、胡散臭くても便利なものは便利だ。

なら使うしかあるまい。

実に、人とは面倒くさがりである。

今はトカゲではあるが


「その前に、能力の制御を何とかしないと不味いよなぁ・・・」


取りあえず念じてみる。

フィールドスキャナー停止・・・・と念じてもこの視界が暗闇に変わる事は無い。


「むう・・・・」


意外と難儀なものである。

諦めずもう一度念じてみる。

ああだ、こうだ、と試行錯誤しているうちにぶっと視界がデジタル調から再び真っ暗な闇に戻った。

また訳の分からない能力の使い方をして雁字搦めになりそうになったところでスランブリングが声をかけた。


『ふむ、(ルラー)()が上手く操れていないようだな』


「生力・・・ですか・・・」


そのスランブリングの言葉にアイサンスは思考する。

確かに自分は自分の生力というのを一切確かめてはいない。

普通なら意識が定まるまでに身体の機能が色々と使って脳に染み込ませながら成長していくのだから確かに意識がはっきりする年にでもなれば呼吸をするぐらい自然に操れても不思議ではない。

だが自分は最初から意識をはっきりと持って生誕した。

日本人が英語の授業を大人になってからやるようなものだ。

思わぬ転生のデメリットが把握したところで見えた課題にアイサンスは着手することにした。

もう一度瞑想し、先ほどの引っ掛かりを探す。

きっとそれが生力なのだろうと(あた)りを付けたがこれが思いのほか苦労することになった。

探しても先ほどの引っ掛かりを掴むことはできなかった。

手掛かりが見つからず、困惑するアイサンスだがふと生力とはなんぞや、という疑問が思い浮かんだ。


「・・・なんなんだろうか」


『何がだ?』


スランブリングがその呟きに反応したがアイサンスはそれが意識に入ってこなかった。

生力ってなんだ?どういったものなのだ、液体なのか気体なのか、それとも熱や電気といった力場、といった少し曖昧なものなのだろうか。

何でもいいから感覚で捉えたい、捉えられたのならば何かが出来るようになるはずだ。

そう思ってますます集中する、とはいっても循環器の感覚なんか一切触れることはできないだろう。

半分、寝ているような瞑想をしていたとき、突然暗い視界の中にうねりの様なものを見つけた。

これだという確信を持ってアイサンスはそのうねりをでて掬うようなイメージで集めて【フィールド・スキャナー】を念じてみると再び視界がデジタル調に変わった。

なるほど、【立上型】は使いたい能力を念じて生力を捧げれば応えてくれる、という感じなのだ。

作動させ続けるのには生力を捧げ続ける必要がある。ならば逆に止めるときは供給をやめれば能力が止まる。

まだおぼつかないが慣れればスムーズに起動することができそうである。



―――――――



更に時間をかけて何とか能力の使い方を覚えたアイサンスは再び暗闇の洞窟の中を進み始めた。

スランブリングは『ちょっと疲れた』と言い残して深めの眠りについてしまった。

どうやら今までの蓄積していた疲労が思ったより響いたらしく、しばらくは会話するのも難しいだろう。

しかし、足取りは軽やかである。

スランブリングのエネルギーを受け取ってからは熱中症寸前だった身体は快調そのもの。

おまけに視界もデジタル調であるが地形が分かるようになったので足元を必要以上に気にすることなく洞窟を闊歩できる。

しかし、それとは別に新たな問題が浮上した。


「スランブリングさん。この洞窟、でかすぎない?」


眠っている彼にその言葉は届かない。

探知範囲を広さ重視・・・大体1キロ程度にしてみたが全く出口らしい構造が見当たらないのだ。

蟻の巣のように上下左右、乱雑に洞窟が広がっている。

なんというか、天然で片付けるには難しい構造のものもある。

人の手が掛かっているのだろう。

だということは天然のものと人工のものが入り混じり、大迷宮と化しているのだ。

スランブリングから活力を貰ったのだがそれも有限、能力で生力が垂れ流れるので早めに補給の目処を付けなければいけないのだが先が思いやられる。


「まあ・・・進むしかないよね・・・」


観念して、アイサンスは進み始める。

幸い、自分の位置は把握できるのでマッピングをしながら進むことは出来る。

当てずっぽうに進むよりかは希望が持てる。


――――


熱中症寸前までいったのはどこ吹く風やら、モリモリと洞窟内を探検して回って数時間が経過した。

すっかりと洞窟内の暑さも和らいで、かなり快適に動けるようになってきた。

どっちかっていうと肌寒さを感じるぐらいだがこれは外界へ近づいているという証拠だ。

ただ、数時間も動き回れば流石に空腹感というのを誤魔化すことができなくなった。


「腹へってきたなぁ・・・」


活力は湧けども肉体の空腹は発生するみたいだ。

どうやら生力と肉体のエネルギー補給はまた別、ということか。

ダンジョン探索系ゲームの空腹数値みたいなものか。

ちょっとゲームチックに考え過ぎたが考えればお腹が減らないというのは中々凄まじいものである。

要は生命の代謝が発生していないのだ。

もはや生き物と呼ぶべきか怪しい、微生物だって何らかの代謝を行っている。

とりあえず腹が減ったということはちゃんと生命やってます、という確かな証拠だ。


そろそろ、生き物にも出会えそうなのだが・・・アンラインキャプチャーでは何も捉えていない。

壁越しでは見つからないのだろうか、まあ言葉の意味を考えれば【不可視光線の可視化】だ。

当然、不可視光線が拾えなければ【視えない】のである。


フィールドスキャナーは今のところ444メートルほど進んだあたりで分かれ道を表示している。

死が三つとはこれまた縁起が悪い。

判然としない嫌な予感を覚えつつもアイサンスは足早に進む。

さっきから壁の向こう側からガリガリ、となにかを齧る音が聞こえるがスルーで行く。

隠し扉なら、その向こうからそんな音が漏れているのは間違いなくモンスターハウスと呼ぶようなエリアであり、エリア全体範囲攻撃でもない限り触れるべからず。

敵の音で隠蔽がばれるって考えてみれば残念極まりないトラップである。

だが、歩みを進めても進めても、壁の向こうからガリガリと評するべき破砕・・・いや、咀嚼音は鳴り止まない。

というか近づいていると言うべきか。

モンスターハウスが長い?いや、部屋がそのまま近づいてる?もしそれが答えなのならば狂ってるというレベル超えている。


「・・・・あーもう」


何で、こう面倒くさいことが立て続けに起こるのだろうか、とアイサンスは溜息を零す。

生まれて十数時間でこれとかどんな重い業でも背負ったのやら。

まったく身に覚えもないし、思春期特有のイジメはどっちかっていうと被害者の方である。

むしろ前世の死に様的にこれでもかって言うぐらい不幸なのだが。


「待てよ・・・」


腹の虫が鳴いたとき、アイサンスはよからぬ事が頭をよぎる。


これは要は生物が迫っている音だ。

そして今の俺は空腹、腹が減った。

腹に食い物を放り込みたくて仕方がないという状態だ。


アイサンスの喉が動き、生唾を飲み込む。

その明かにネジが飛び出したような思考が過ぎった途端にモリモリとやる気が湧き上がる。

そう、生きるための糧が必要で、それが向こうからやってきてくれたのだ。

どっちかって言うと恵みに感謝する場面ではないだろうか?


咀嚼音が耳を澄まさなくても聞こえるほど大きくなった。

そのたび、アイサンスの湧き上がる期待感もまた大きくなっていく。


(早く来い、早く来い、こっちは待ちくたびれているんだ)


そして、それは巨大な音を伴いながら、洞窟の壁を噛み砕きながら現れた。

けたたましい方向と共にそれは自分のテリトリーに入った哀れな餌を見つけた。


スランブムル、とそれは呼ばれている。

スランブリングが眠っている山脈の地下の覇権を握っているミミズのような姿をした竜だ。


「――――」


崩れる壁の破片を避けながらスランブムルと対峙したアイサンスはアンラインキャプチャーで捉えたその姿を見て息を呑んだ。

次に押し寄せてきたのは。


「―――――えへへ」


なんと、歓喜であった。

嬉しい、予想通りお出でなさったのだ。

やっと。


「餌だ」


やっと、あり付ける。


「餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ餌だ」


それは、まるで【ハカ】と呼ばれる踊りのようにも見える。

その只ならぬ雰囲気に、スランブムルすらも怯む。

いつものような【小さい連中】とは明かに違う。

自分がいつも食んでいる災いの残滓そのものが、目の前に立ちふさがっている、それを感じ取れた。


「餌ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


たがが外れたようにアイサンスは目を血走らせながら叫ぶ。


「いただだきまああああああああああああああああああああああああああああああああす!!!!」


それが、戦闘開始の合図となった。



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