霊魂
「ウソじゃないもん!サンちゃんはサンちゃんだもん!!」
頬を膨らませるコヨミの後ろで、サンが泣きそうになっている。俺は、サンの頭を撫でてやった。
「よければ、君たちはいったいなんなのか、教えてくれないか」
サンは頷いた。
「はい……あの、私たちは、霊魂、のようなものです。アニミズム……をご存知でしょうか、あらゆるものに霊魂が存在するという考え方で、宗教の初期段階とも云われます」
あ、なんかこの子難しいこと言い出した。
「私たちは、その霊魂です。コヨミさんは、この土地の。私は、あの処分場の」
「……処分場にも、霊魂があるのか?」
言ってから、酷い質問をしたと思った。その霊魂本人に、何を言ってるんだ。
「あり、ます。そこを、大切に思う人がいるなら。コヨミちゃんたち自然のものは、その生き物がいるだけで存在し得ますが、私たち人工物は、それを大切にする人がいれば、霊魂が生まれます」
「見原室長とか?」
「はい……従業員の方々だけじゃなくて、本社の方々も、この処分場に運ばれてくる物を扱っている業者さんたちも、処分場が機能しているから助かっている住民の皆様も。……私は、沢山の人に支えられています」
あ、なんか説教されてる気分になってきた。完全に惰性で仕事していた自分が恥ずかしくなってきた。
「まえにもレイちゃんがいたんだよ!」
コヨミが胸を張る。
「レイちゃん?」
「レイセン、さんのことです……」
答えたのは、サンだった。
「江戸時代、ここは宿場町として栄えていました。その頃、この土地ではレイセンが湧き、それを温めてお風呂にしていたそうです」
レイセンって冷泉、温度の低い温泉のことか。
「そこで、私のような人工物の霊魂、レイさんが存在したそうです……ごめんなさい」
「サンは賢いな」
サンは小さく頭を振った。
「わ、私は、人工物なので、ヒトの世界に詳しいだけです……コヨミさんは、自然の存在なので、ヒトとは生きている体系が違います……こうして、お話しできるだけでも奇跡です」
「そうか、奇跡か……」
心に穏やかな風が吹いたようだった。何となく、納得できた。
「奇跡なら」
しかし、雫はそうでなかったらしい。
「奇跡なら、キラやヒメの方が奇跡でしょ!?あの子たちを返してよ!」
「ご、ごめんなさい……」
小さくなるサンの前にコヨミが立ちはだかった。
「サンちゃん悪くない!レイちゃんの頃だってマっちゃんしかいなかったもん!それからヒメちゃんとキラちゃんが来たんだもん!もっともっと前だって、リュウちゃんたちいなくなったの!みんな入れ替わるの!サンちゃんのせいじゃない!」
うむ。
「サン、通訳」
「はうぅ……冷泉、さんがいた頃は、木材で火を燃やしていたので、周辺ははげ山……のような状態で、松さんしか生えていなかったそうです。その後、エネルギー源が石炭や石油に移行するにしたがって、木々は伐採されなくなりました。そのため自然が回復し、ヒメボタルさんやキンランさんが住めるようになったそうです」
……歴史ってすごいなー。
「リュウちゃんたち、っていうのは?」
思考停止している俺とは逆に、雫が口を開いた。サンへの態度は、若干優しくなっている。それでも、サンはびくりと体を震わせた。
「は、はい……あの、えぇと、コヨミさんは、土地の霊魂なので、この山々が隆起したころ……遥か昔から、存在していたと考えられます。リュウさんとは、恐らく恐竜の絶滅のことを仰られているのではないでしょうか……」
恐竜。なんかもうよくわからん。いや、だいぶ前からよくわからん。
「コ、コヨミさんはたくさんの生き物の進化と絶滅を見てきたのだと思います……なので、霊魂が生じたり、その、滅びたりすることは当たり前と考えていらっしゃるのだと思います……ごめんなさい」
「……そうなんだ」
雫はコヨミの頭を撫でた。
「ねぇ、ヒメはまだいる?」
コヨミはきっぱりと答えた。
「いるよ!寝てるだけ!」
「いるんだ!」
雫が目を輝かせた。一方で、サンが俺の袖を引く。
「あ、あの、か、籠の中だけでは難しいですが、ヒメボタルの生息域が広がれば目覚める可能性はある、そうです……ごめんなさい」
「……そっか。そうだよね……やっぱり森がないと」
「ごめんなさい……」
視線を落とす雫を見て、サンがますます小さくなる。俺はその頭を撫でてやった。
そして、唐突に思いついた。
「……生息域か」
「タキオ?」
「みんな、協力してくれないか」




