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こよみのうた  作者: sathor
7/10

ごめんなさい

実行キーを押せば、プログラムの更新が完了する。

「ごめんなさい」

背後で小さな声がしたのは、その瞬間だった。

俺は飛び上がるように振り返った。

そこにいたのは、どこか見慣れた白の服を着た、少女だった。こんなところに、子供が入れるはずがないのに。コヨミたちと同じくらい、に見える。うつむいた彼女は、手に何か、円形のものを握りしめている。

「ごめんなさい」

少女は、もう一度言った。

「わたしが、わたしのせいで、キラさんや、他にも、たくさんの命が失われたことは知っています」

キラ。その名前に俺は動けなくなった。靄に囚われたような頭で、必死に考える。

その名前を知っているのは、俺と、雫と、コヨミたち精霊。

まさか。

「ごめんなさい……でも、沢山の方々がわたしにここにいろって言うんです」

見慣れた白。

「わたしは、生まれたくて生まれてきたんじゃない……けど、必要だと、思ってくれてる人たちがいるなら」

ああ、この子の服の色は。

「だから……ごめんなさい。その機械を悪くして、わたしを、殺さないでください」

この、処分場の壁の色だ。

「――君は」

俺は、判っていることを訊いた。判っていても、訊かずにはいられなかった。

「わたしは、コヨミさんたちと同じ……霊魂、です。ごめんなさい……」

少女は、手に持っているものを俺に差し出した。それは、短い配線やら針金やらが円形にまとめられたものだった。

「給湯室にあった、コヨミさんのをまねして作りました……だから、ごめんなさい。わたしも友達にしてください……」

給湯室。雫が忘れていった、あるいは、置いていった、コヨミと交換したリースがある。

そう。よく見ればそれはリースだった。藤蔓製の、俺たちが作ったリースとは違うが、リースではあった。……おそらく、この処分場内で手に入るもので作ったのだ。

俺は動くことができなかった。プログラムの更新キーを押すことができない程に。

 そして。

「やれやれ、なんとか無事終わったな。お疲れ様、タキオ君」

 見原室長の言う通り、監査は無事に終わってしまった。

 俺は、あの後何もせずに、ただ家に帰った。ゴミくずのようなリースだけを持って。

「はい。ありがとうございます」

 あとは惰性だ。見原室長や俺、その他の監査担当となった同僚たちの尽力の結果、監査はつつがなく終了した。つまり、この処分場の公正さが保証された。……保証、されてしまった。

 それ以来、処分場の中であの子をよく見かけるようになった。見原室長について回ったり、俺の後ろから計器をのぞき込んだりしていた。しかし、処分場の外には出られないらしい。

ただ、コヨミたちと同じように、他の職員たちには見えていないようだった。会議室に入る見原室長についていこうとして、目の前で扉を閉められて泣きそうになっていた。仕方ないので別の会議室の扉を開けてやると、喜んで入っていった。仕事を片付けて、もう一度その会議室の前を通りかかると、扉は閉まっていた。誰かが閉めたのだろう。もしかして、と思って扉を開けると、泣きながら飛び出してきた。そんなこともあった。

俺の部屋には、雫が置いていったリースとあの子が作ったリースが並べておいてある。

結局のところ、俺はほだされたのだ。俺の横でパソコンを背伸びして見ているこの存在に。

当然、そんな俺の態度は雫を怒らせた。

「準備できた、って言ったじゃない!!」

雫の部屋のドアの向こうで、雫は叫んだ。扉を開けてすらくれなかったのだ。

「処分場にコヨミみたいな子が、いるわけないでしょ!コヨミもヒメもキラも、あの子たちは自然の存在なの!くだらない嘘ついてごまかさないで!!」

そのあと聞こえてきたのは嗚咽だった。

雫を納得させるにはあの子を見せるのが手っ取り早い。が、あの子を処分場から連れて来れない以上、雫を処分場に連れていくしかない。だが、俺には無理だった。

「……雫。それでも、あの子はいたんだよ」

俺たちは、コヨミたちのことは自然の精霊だと思っている。だが、あの子は明らかに自然の存在ではない。処分場、人工物に由来している。だが、コヨミたちと全く変わらない存在に思える。

俺たちが、俺が、「自然」と思っていたものは、何なのだろう。

雫の家の庭にある、ヒメボタルが入っている籠に問いかけても、応えはなかった。


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