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人間と自動人形

 

 人間は自動人形(オートマタ)を造り、愛して、密接な関係にまでなった。

 けれど、愛し合う事までは叶わないんだ。

 それは、自動人形が自動人形であるが故……。




 ここは二十二世紀の日本。


 最先端の科学技術を持つこの国には、もう解決出来ない問題はないかのよう。

 その代表と言えるのが、ここ五十年の間に急速に改良された自動人形。


 僕達人間と自動人形は、寄り添うように生活している。

 彼女達は人形ではなく、人間と同様の扱いをされている僕達の家族だ。

 子孫を遺す事は出来ないけれど、人間と自動人形の婚姻が許される程に、身近な存在。

 彼女達を〈家政婦〉と見なす人もいる。自動人形は家事を含め、人間が生活する上で必要な事が全てインプットされているため、付き合い方によっては間違いとも言い切れない。

 そして彼女達がそう言われてしまう決定的な所以があった。それは――。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 玄関を開けると彼女は跪き、機械的な声で僕を出迎える。

 僕が中学校から帰る時間を知っているから出来る事だけど、フランス人形のような長い金髪とサファイアを思わせる蒼い瞳が哀しい。

 そう、人間と自動人形の最大の違い――それは、自動人形は人間に〈仕える〉ように〈造られて〉いる事。

 どんなに両者が密接な関係になろうと、これだけは変わらない。

 



「ご主人様、お食事が出来ております」


 感情を含まないその声は、僕の心を冷たく突き刺す。たとえ、彼女に悪気がないと分かっていても。


「うん、いつもありがとう……お母さん」


 精一杯の感謝の気持ちを伝える。それが、お母さんに伝わっているかは分からないけれど。


「全てはご主人様の為でございます」


 その言葉を聞きながら、僕はリビングの定位置に座り、出来立ての食事に手を伸ばす。

 傍目から見れば、彼女はよく出来た自動人形だ。

 けれど僕が欲しいのは、絶対的な忠誠なんかじゃない。

 お父さんが、お母さんに注ぐような――愛情が欲しいんだ。


 僕はお父さんとお母さんの本当の子供ではない。

 孤児院にいた僕を、妻が自動人形であるが故に、子供を作れないお父さんが引き取ってくれたんだ。

 お父さんは仕事がとても忙しくて、一年のうちに片手で数えられるくらいしか会えないけれど、僕を愛してくれる。けれどお母さんは……。


「ご主人様、どうしたのですか? お食事が冷めてしまいます」


 お母さんの冷たい声で現実に呼び戻される。

 感情の起伏がない自動人形にも、表情はある。だけどそれは、唯一人の相手――お母さんだったらお父さんだけに向けられるよう、精巧に造られているから、お母さんの笑顔が僕に向けられる事はない。

 ゆっくりとスープを口に運ぶと、長い時間僕は惚けていたのだろう。既に温くなっていた。

 それを飲みながら僕は思いを馳せる。二十一世紀、彼女達が生まれた悲しい理由に――。




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