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12 舞踏会

 その日、白い大きな神殿の中が沸き立っていた。

「ルーヤお兄ちゃんたちが来てるの!?」

「今、ヘスティア様へのご祈祷が終わって、中庭にいるって牧師様が言ってた!」

「じゃあもうお話始まっちゃってるじゃない! 早く行こ!」


「えーっ、それじゃあルーヤお兄ちゃんたち、すごくピンチじゃない!」

 ひざに乗ってじゃれてくる子どもの一人が声を上げた。ルーヤは子どもたちを見て、そうだな、と笑って頷いた。

「それで、お兄ちゃんたち、大丈夫だったの? お怪我しなかったの?」

「いやあ、それがさ、このロキが助けてくれたんだ」

 ルーヤはロキの頭をぽこぽこと叩いた。子どもたちは一斉に声を上げる。

「うそーっ、ロキってお兄ちゃんたちのこと嫌いだったじゃん!」

「……このルーヤたちをぼこぼこにするのは僕なんだから、僕の前に誰かにぼこぼこにされちゃたまらないの。絶対、殺されてたまるもんか」

 ロキがふいっとそっぽを向いた。そんなロキの胸元で守り袋が揺れるのを見つつ、ルーヤは笑った。

「おうおうおうおう、可愛いこと言うようになったなー」

「ほっといてよ、うるさいな」

 あまのじゃくなロキの様子を見て、ジルは数人の子どもに囁いた。

「あーゆーのをひねくれ者って言ってですね、ああなると夜な夜なこわーい怪物さんがお仕置きをしに……」

「こら、ジル。純真な子どもに変なことを吹き込まない」

 リティが刀の鞘でぽん、とジルを叩いた。ジルはぺろっと舌を出した。

「で、お兄ちゃんたち大丈夫だったの?」

「ああ。その後で、俺たちの秘密の友達、番人さんも来てくれたからな」

 ルーヤは歯を見せてにっこりと笑んだ。


「七年?」

 ルーヤはテラスに腰かけて、足をぶらつかせながらつぶやいた。時刻は夜。孤児たちは寝静まり、ついでに子守に疲れたロキもヘスティア張りに爆睡中である。

 ジルがルーヤの横にやってきて座り、うなずいた。

「七年ですね」

「早いなー。みんな笑うようになったよね。初めはおびえるばっかりだったのに」

「ですね。こりゃ、稼ぎがいがあるってもんです」

 ジルは笑った。あの子どもたちの笑顔が、ジルよりもジルの生き方を肯定してくれているような気がした。だからあの笑顔に寄り添いたい。そしていつか、レイヤ姉のように子どもたちに接してみたい。

「さて、お次はどんな依頼が来ますかね?」

 期待を込めた声色でジルが言うと、一人部屋の中にいたリティが、子どもたちの一人からもらった小さなフグリをつつきながら言った。

「まだ稼ぐ気があるなんて驚きね。どれだけ危険な目に遭っても懲りやしないんだから」

「あれー、それは姉御も同じっしょ?」

「あたしは暇なだけよ」

「大事そうにフグリを小瓶に入れてるんじゃあ、説得力ないですよ」

「舌を斬られたいようね、ジル。今すぐ叶えてあげるわよ」

「姉御が言うと冗談にならないんでやめてください」

 ジルがお手上げの姿勢を取ると、リティは澄ました顔で座りなおし、再びフグリに視線を戻した。

 マンモスの刀は、子どもたちを活かすために、確かに別の何かの血をすすり続けている。しかし、命を吸ったのはあの爆弾魔が最初で最後――リティ自身を活かしたあの時だけ。それが今の、彼女の誇り。

 ルーヤは仲間の会話を聞いて笑ってから、月明かりの下で立ちあがった。

「確かにまあ、俺も懲りてないね」

 どれだけ命の危険にさらされようと、どれだけ傷ついて転ぼうと、こうして冗談を言いながら笑いあって生き続けることをやめられない。だって、楽しいから。

 ロキは、かつてそれを愚かだと言った。短い命を苦しみながら生きて、苦しみより少ない楽しみにすがって何になるのかと。自分が生きることで他人が傷つく、そんな命に何の価値があるのかと。矮小で弱小な存在が、この世界に何を与え得るというのかと。

 ロキの言は、おそらく間違ってはいないのだろう。だから思いつめた賢者は死んでいく。そうやって笑えなくなるくらいなら、自分は馬鹿のままでいいとルーヤは思う。そう思うことこそが愚かだというのなら、愚者のままで構わない。だって、こんな愚かな俺を必要としてくれる子どもたちがいるんだから。だからこそ、子どもたちとその笑顔を守っていきたいと思う。――馬鹿親父がルーヤを守ってくれたのと同じように。

「……やっぱ、俺たちって馬鹿なんだな」

 しみじみと言ったルーヤに対して、リティはつっかかった。

「ちょっと、一緒にしないでよ」

「いや、三人そろって馬鹿でいいんじゃないですか?」

「そうだよ。親父さんの刀に対するリティの愛着は馬鹿を通り越して――…」

「あんたも舌とお別れしたいのね」

「いやいやいや! だから! リティがそれ言うと冗談じゃなくなるんだってば!」

 どたどたとルーヤがテラスを走り回る音が鳴り響いた。こうして夜は更けていき、ルーヤの心臓はまた一日を刻む。果たしてこれは愚かなことなのだろうか。ルーヤの頭にはもうそんな疑問は浮かばなかった。当然、その答えも。


 踊る 踊る 胡蝶は白へ 紅へ 雨を降らせたのは だあれ?

 それでも胡蝶は踊りをやめない 守りたいものがあったから

 弱い身であると知りながら 胡蝶は今日も 飛び踊る

誰がこんな気まぐれな詩を語るのでしょう。誰が蝶を雨の中に放り出したのでしょう。


カ ミ サ マ 気 取 り で お 人 形 遊 び を し て い る の は、 だ あ れ ?





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