終わりよければ全て良し。終わりよくなかった僕はどうしたらいいだろうか
お
わ
り
「どうしてこうなった」
最近の僕はいつもこう言っている気がする。
確かに昔に比べたら楽しいこともある。
でも最近のほうがよほど酷い目に合っているような気がする。
「遅れるから早く行きましょうゆうきちゃん」
とても楽しそうに僕の所属する衣装研究会の会長。町田紡さんが僕の手をひっぱる。
女性と手をつなげるのは嬉しいが、僕にはそれを喜ぶ余裕は無かった。
僕は日曜の今日彼女との約束を果たしに彼女のうちに行き。
彼女の両親になんかごめんなさいと切ない顔をされ、
そのまま女装して町に彼女と繰り出すことになった。
僕の格好は白いフリフリのワンピース。足を隠すためにロングで。全開と違う所はわずかに生えていたすね毛を全て脱毛されて素足なことだ。
そしてウィッグが今日はショートタイプのものだった。ボブスタイルのショートで今風のふわっとした感じらしい。ロングだとひっかかった時大変だかららしい。
衣装だけでなくバックなどチョーカーや髪留めなどの装飾品にメイクまでフルセットだった。更に追撃の地獄が僕を絶望に導く。
「それで町田さん。今日はどんな映画を見るの?」
そう僕はしゃべれた。しゃべれてしまったのだ。
町田さんにもらった謎のスプレー(イチゴ味)
これを使ったら声が高くなり微妙に女性っぽい声になった。
流石にお腹に力を入れて声を出すと元の声が出せるが、喉からの声は大体女性声だ。元から僕の声が高いからなおのことそれっぽくなるらしい。
「今日は町田さんじゃなくてつむつむって呼ばないと駄目でしょ」
町田さん改め、今日の悪魔つむつむが僕に言ってくる。
ちなみに僕の知り合いに悪魔は3人いる。
まず今日の悪魔。衣装と装飾に人生をかけている服の悪魔。衣装製作を無理やり手伝わせ、場合によっては学校に寝泊りすることすらある。その場合は教師も付き合わないと駄目なため教師がまず悲鳴を上げる。
他にも服のことになるとよく暴走する。あと僕を女装させる。
二人目の悪魔。人生の享楽を求めると書くと本当に悪魔にしか見えない。面白ければ多少の自分の被害を気にせず暴走する。この前はコスプレせずに僕の教室に来て僕に赤いバラの花束を持ってきて。
「今日。いつものとこで待ってるよ」
と非常に甘い声で僕に言ってすっと帰って言った。その後の女子の反応は最悪だった。おかげで僕は完全にそっちの人と思われている。
以外なとこで三人目の悪魔。顔が怖いだけで最初は地味だと思った畑田さんだ。結局二人の類共だったのだ。僕が女性と話しているのを見るだけでやっぱり貴様は裏切り者だとよくわからないことを言う。
そして限界点を突破すると謎のコスプレをしだして僕の後ろをずっとついてくる。おかげでの僕のあだ名がどんどん変なことになる。ちなみにこの前は上半身裸っぽい肉襦袢に白いマスクを付けて延々と嫉妬嫉妬と言って付いてきた。
これ以外にも3人とも思いつきで突拍子もないことをするため僕は大体被害にあっている。僕がいない間は畑田さんが被害にあっていたと言っていたが、僕が出来てから何故か畑田さんははっちゃけ出したようだ。
「はい。じゃあつむつむ。今日の映画はどんなのだい?」
「もう照れなくなったのか。成長したのはいいことだけどつまらん」
やっぱりからかってたのか。6月も終わりにさしかかろうとしたくらいで。僕は思い返した。まだ一月ちょいしかたっていないのか。僕はもっと日にちがたっていると思っていた。
「今日の映画はちょっとわからないね。パンフレットでも見て決めようかなと。タイトルは【明日の風と】だからまあ無難なものだと思うけど」
「映画館にいくとか何年ぶりだろう。ちょっと楽しみ」
「そうね。ゆうきちゃんと映画楽しみにしてたんだからね」
一体女装の何が楽しいのだろうか。しかも慣れて来た自分が嫌だ。
ごめんなさい。慣れてきたとか生いってすいませんでした。
僕は心のそこから言葉の神様に謝罪した。たった30分。僕とつむつむはただ歩いただけだ。
ナンパ3回
怪しいスカウト2回
ガチのアイドルスカウト1回
しかもほとんどがつむつむ目当てでなく、僕目当てだった。
よくみたら多くの男性が僕を見ていた。見られているのに気づいた僕はバレるかもしれない怖さと緊張でいっぱいになった。
「大丈夫よゆうきちゃん。私が守ってあげるから」
もう1つの気持ちがあった。隣の悪魔が満足してくれるかの不安である。場合によっては今日の予定を続行で別の場所で何かありそうだった。
「はい。そのときは助けて下さいね」
男として情け無いが僕は先輩に頼っているおかげで今があるのを知っている。本当に危ないときは頼るようにしよう。出来たら僕が助けるくらいにはなりたいが。
「キャー素直になったゆうきちゃんかーわーいーいー」
そういって彼女は僕に抱きついてきた。
「ちょっと。離れて下さい!」
僕は叫んだ。喉からの声なのでそんなに大きいこえは出なかったが。
「恥ずかしい?嬉しい?」
小さい声でつむつむが僕をからかう。
僕は真っ赤になることしかできなかった。
「ねぇ?胸あたってるけどドキドキする?」
「えっごめんなさいどこかわかりません」
つい真顔になって返してしまった。
つむつむも真顔になった。
抱き合ったまましーんとした時間が過ぎる。僕の背中に何か冷たい風を感じた。
「次はないと思え」
「はい。申し訳ありませんでした」
つむつむの冷たい声に僕はつい真顔で答えた。
ワタシダッテスコシハアルノニと小さい声でつむつむが何か言っていた。
映画館についた僕達はまずパンフレットを買うことにした。
「ネタバレは怖いけどそれでも事前知識いれて見たいのよね私は」
「わかります。僕もそんな感じですね」
そうしてつむつむがパンフレットを買ってきて二人で肩を並べてそれを見る。
あらすじはこうだった。
ゴールデンレトリバー号という宇宙船から降りてきたネコ型宇宙人。きゃっつらは銀河を攻撃する謎の宇宙軍が隠したと言われる兵器を破壊するために地球に下りてきた。地球は今文明開化まっさかり。そんな中ネコ達は普通に人に話しかけて化け猫扱いされる。
猫型宇宙人達は宇宙の秘密の兵器を破壊できるのだろうか。人間と和解できるのだろうか。
「……やばいわね」
「ええやばいですね」
僕達は冷たい汗が流れるのを感じた。
「実は私映画とか好きで、B級映画も好きなの。でも流石に素人にこれはつき合わせられないわ。別のにしましょうか?お金なら出しますし」
彼女はそういった。わかります。【よく知らない人にB級映画を見せる】のは悪いという気持ち。
「つむつむ。実は僕黙ってたことあるんですよ。実は僕、好きなんです。サメとかの映画。頭が二つあったりたつまきになったり砂漠を走るサメの」
その言葉に彼女が僕をはっとした顔で見て、そして僕を見つめていた。熱いまなざしで。
「行きましょう。僕達はきっとわかりまえます」
「今日。初めてあなたを男らしく感じたわ、ゆうきちゃん。一緒に地獄を見ましょう」
そう言いながら僕達は戦場の中に足を運んだ。
終わった後僕達は喫茶店にいった。らしい。
というのも映画を見たショックが大きすぎて二人とも我に返ったのが喫茶店の中で注文をしたあとのようだった。
「まさかあそこまでダメージがでかいとは。久々の大物ね」
「そうですね。ただつまらない虚無系とは違い、非常に疲れるものでしたね。何に疲れたかわかりませんが」
「そうね。悪い意味で傑作だったわ。まさか人間と猫が殺し合いを始めたのは犬のしわざだったのだとかどこから犬出てきた。しかも犬は宇宙人ですらないし」
「それより文明開化の時代になんで織田信長がいたんでしょうね。しかも豊臣秀吉徳川家康は猫で出るし」
二人はB級映画(マイルドな表現)の感想を言っていたら注文したものが届いた。
僕はチーズケーキでつむつむはアップルパイ。そして二人とも紅茶を頼んだらしい。
「僕達これ頼んだんですね。つむつむどっちがいい?僕はどっちも好きなんでどっちでもいいですよ?」
「ああできたら私アップルパイでいい?私りんご好きだから」
無意識でも好きなものは頼めるらしい。僕はこれでラーメンとか来なくて安心した。
「そういえばそちらの紅茶もアップルティーみたいですしりんご好きなんですね?」
「そうね。特に加工したリンゴが好きなのよ。何度も頼んでいい加減飽きたらって家族にも言われてるわ」
そう言いながら彼女はアップルパイをフォークで上手に切り取りながら食べた。
「んーおいしい」
彼女は満面の笑みでアップルパイをほおばる。別に何故かわからないがちょっとドキッとしてしまう。
「じゃ、じゃあ僕も食べますね」
僕は意識をケーキに集中する。あまりつむつむに反応するとドキドキしてしまうしそれが後でバレたら酷いことになるだろう。
僕はフォークで小さめに切り取る。サクッとチーズケーキの底のビスケット生地ごと切りとる。
つむつむほどうまくフォークが使えないがまあいいや。食べれたら一緒でしょう。
さくっ。
もーぐもーぐ
ぱー
僕はつい笑顔になる。やっぱりケーキは美味しいなぁ。
「ちょっちょっと!」
つむつむが僕を呼んでいた。
「ん?どうしたの?」
「いやあんたもうちょっと顔抑えなさい」
つむつむは顔を抑えて震えながら僕に言ってきた。
「んー?」
「いやあんたそれ卑怯だわ。なんだその攻撃」
よくわからなかった。
「いやあんた女性の私から見ても心臓が締め上げられるほどドキドキしたわ。あんたもうちょっと笑顔抑えないと本当にヤバい」
きょろきょろと周りを見る。確かに私のほうを見ている人が凄い多い。
「そんなに目立っていた?」
僕は小さい声で彼女に聞いた。
「はっきり言ってやばい。私ですら女性が好きになりそうなレベル。傍にいた老夫婦はこっちを微笑ましく見て、ケーキを作ったと思われるパティシエさんはガッツポーツをとってこっちを注目してる。若い男性はあんたに見ほれてるわ」
「うわー」
知りたくなかった僕の特技。
「早く食べて出よう。これはやばい」
「そ、そうだね」
そして僕達は急いでケーキを食べる。
さくっ
もーぐもーぐもーぐ
……ぱー
「だからそのぱーって笑顔やめい!」
彼女が顔を抑えてプルプルしながら怒鳴った。後ろのケーキ職人は満足いったのか男泣きをしながら仁王立ちをこっちを見ていた。
「無理だよだって美味しいんだもん!」
僕はもう開き直った。
結局1時間以上いてしまった。
なんとかケーキを食べて帰ろうとしたら隣の老夫婦がこっちに話しかけてくれて。
「あなた美味しそうに食べるのねぇ。都会に言った娘の若い頃を思い出すわ。奢るから良かったら私達と話をしてくれないからしら?」
と老夫婦が言ってきた。とても断れる雰囲気でなかったから僕は受けた。ケーキに負けたわけでは決してない。
そしていくつもケーキを老夫婦に奢ってもらい、楽しいお話をして、最後にパティシエに割引券まで貰って帰った。
つむつむが頭を抑えている。
「あんたをスカウトした上山の目は確かだわ。確かにあんたうちの部活の仲間だわ」
失礼な。
「あんたはそんなにケーキが好きなの?」
「いえ別に。甘いものなら大体好きですよ。和菓子でも洋菓子でも」
その言葉に彼女は顔を青くした。
「甘いものだけであの破壊力か。絶対やばいことになるのにまた見たい自分がいるのも確かだわ」
つむつむがずっと頭を抱えながら悩んでいた。そんなにいけないかなー?
「そういえばどっか寄りたい場所ある?」
つむつむが僕に聞いてきた。
「あ。文房具かえるとこない?シャー芯とかノートとかちょっと買っておきたい」
「あー。流石にファンシーショップは……。止めておこう。んじゃ学校指定の画材屋があるからそこいきましょうか」
店の前までいった。普通の画材屋で、学校指定なのもあって基本的な文房具から美術用の画材まで一通りありそうだった。
店の前で僕は心臓がどくんどくんと跳ね上がるのを感じた。よくわからなかった。何も見ていないはずなのに。
見ていないのではなく、視界がうけつけなかった。それを見るな。思い出すなと体が喚鐘を鳴らす。でも視界に入ってしまう。
そこにいるのを僕は見間違えることはなかった。それは僕をいじめていたやつだった。
僕は外なのに膝を落とす。スカートの端が地面につく。僕は町田さんの服を汚しちゃったかなとか考えた。
口が渇くめまいがする。吐きそう。苦しい。
1つだけよかったのは。吐く前に僕の意識は落ちた。流石に吐くとこは見られたくなかったからだ。
目を覚ますと僕に涼しい風が吹いていた。ぼーっとする。そしてなんとなく後頭部があったかいような。
「目覚めた?」
優しい声で僕を呼ぶのは町田さんだった。
町田さんは僕を膝枕しながらうちわで扇いでくれていた。
「大丈夫?熱中症みたいな感じではなかったけど。何か体がほてっていたからとりあえず扇いでるけど。冷たい水もあるよ?」
優しい声に僕の心は落ち着いていった。
徐々に先ほどの出来事が頭にリフレインする。
「すいません迷惑かけました」
「いいのよ。うちの部活に迷惑を断っていいってルールはないから」
「それは怖いですね」
「だから話してくれる?どうしたのか?体調悪いだけならこのままお父さん呼んで送るけど」
もちろん着替えてからねと町田さんは言った。
「前少し話しましたが、僕はいじめられて逃げました。そのいじめをしていた主犯がさっきいたんです」
口が渇くのがわかる。また前みたいにどもりそうになる。
「そう。そりゃつらいわね」
「頭ではわかってるんです。大したことはされてないって。数人で影口を叩いたり、僕が1人になるようにしたり、軽い口調でからかったり、かるく小突いたり」
そう大したことではない。でも中学の自分からは回りが全て敵で、誰も助けてくれないと思った。実際教師は軽い口調で注意しかしなかった。
「そうねつらいわね。でも……こう考えてみて」
「どんなでしょうか?」
心臓がばくばく良いながら答える。町田さんは助けてくれるという期待と、誰にも僕は救われないという考え、ずっと頭の中でリフレインしていた。
「簡単よ。あなた。高校と中学どっちが酷い目にあった?」
「んんm!??」
はっ?
「僅か入学して二月ちょいで、変態においかけられ、女装させられ、嫉妬魔人に睨まれ」
思い返せば他にも沢山あった。主に生徒会長のせいで。ホモ扱いをうけ、同情と奇異の目で見られ、よくわからないコスプレさせられたりえとせとらえとせとら
「他の人の人生の何倍もいろいろな経験をしていて逆に聞くわ。どっちが腹が立つ?」
「……あの生徒会長に一泡吹かせる方法あったら教えて下さい」
「……私の叶えれる願いを超えているわ。一緒に考えて頂戴」
僕は何故か笑いが出てきた。町田さん。いやつむつむも微笑んでいた。
「大丈夫よ。あなたは前よりもっと酷い目にあってきた。そのくらいなんともないわ」
「そうですね。生徒会長に仕返しするまで僕は休む暇もないですね」
「そうね。まあ今日は休みなさい。今のあなたはもう大丈夫だから」
「いえ。せっかくなのでちょっと手伝ってくれませんか?本当いい機会なので仕返ししておきましょう」
つむつむの目が光った。やっぱり僕も同類らしい。
念のため生徒会長を呼びたいと思って電話をする。内容を話す。
「10分で行く」
一言いって電話を切り、そして5分で生徒会長は来た。
「楽しい仕返しをすると聞いて」
生徒会長は非常に楽しそうな顔をしていた。
敵に回したらこれほどうっとおしいのに。これが仲間ならなんと頼もしいことか。
正直やりたくない手段だが。僕のもっているもので最高の武器といえばコレだった。だったら全力でいくしかない。
まずアイツの位置を把握する。もう名前も呼びたくないのでターゲットAと呼ぼう。
次にAの前に現れる。つむつむと一緒に。生徒会長は影で隠れてもらっておく。念のためだし。
そして後は臨機応変にだ。うまくいったらいいしだめならそれで諦めよう。
Aを見つけた。公園の自販機でジュースを買っていた。周囲を見る。人があまりいない。迷惑かける人もいないしチャンスだな。
「いきます」
「おういってこい」
生徒会長は答えて隠れた。
僕とつむつむでAの前に行った。
最初で最後の仕返しの時間だ。
僕は出来るだけ女性らしい歩き方をする。
今までは意識していなかったがこんなにまだ女性らしさを極める方法があるのかと自分に驚く。こんな才能はいらなかった。今はそれを使うが。
出来るだけゆっくりと歩く。そっちのほうが目立つからだ。
Aがこっちを見た。そのタイミングにあわせて僕は全力でにっこりと微笑む。
さあうまくいけ!
「あの……すいませんそっちの女性の方」
僕のほうにAが話しかけてきた。うまくいったか?
「この子男性が苦手なんです。あまり近づかないでください」
つむつむにカットしてもらう。
「いえすいません。そちらの女性のお名前を教えて下さいませんか?」
Aが下手に出ながらつむつむに話しかける。
釣れた!僕とつむつむは心の中で魚が食いついた釣りの映像を思い浮かべながら作戦を続けた。
まさかうまくいくとは思わなかった。自分で立てた作戦だが。
僕の作戦はこうだった。僕のことを可愛いといわせた後で僕が名乗り、お前男に可愛いとか何いってんの?と自爆する。
自分のほうがダメージでかいがまあいいや。くらいの考えである。要するに開き直って生きるためのけじめである。
つむつむのほうに行ったら代わりに色々お願いして、最悪の場合になったら生徒会長に救援を頼む。
それだけの作戦だった。ぶっちゃけ僕は自分がそんなに可愛いとは思ってなかった。
ただ僕がその気になって全力を出して女装した場合。破壊力は跳ね上がるらしい。知りたくなかったそんなこと……
「すいませんが誰かもわからない人に名前を名乗りたくも名乗らせたくもありません」
つむつむは冷たく言った。離れないくらいに。でも出来るだけ食いつく。そんな加減をうまく行ってくれている。女って怖いなー。
「あ。俺……自分は……」
普通に自分の高校と名前を名乗っていた。確かに合っているな。
「あの。自分本気なんです。生まれて初めてこんな気持ちになったんです」
とターゲットAがこっちを赤くなって見ている。
あーちょっと可哀想になってきた。ネタ晴らし止めてなかったことにしようか。
そうしたらつむつむが任せなさいといった顔をちらっとこっちにしてきた。何かあるようだ
「名前はわかったけど彼女は怖い人とか苦手なの。人を傷つけたりする人には近づいてもらいたくないの」
つむつむの考えはわかった。本当に良い人ならこのまま無かったことにしようということだ。このまま引いてくれたらお互い何の問題もない。
「大丈夫です!自分は今まで誰も傷つけたことないし、これでも優しい人で通ってるっす!」
Aがそうのたまいだした。
僕は自分の中で怒りを感じる。
1つは人を苦しめておいてこんなことをほざく小物に。
もう1つはもっと早く怒りを感じなかった自分にだ。
つむつむはにっこりしている。でもつむつむの目は僕に別の言葉を語りかけていた。
【全力でいきなさい。容赦はいらないわ】
彼女の目は僕みたいな怒りに任せた目でも、今までの優しい目でもなく。一方的にいたぶる様子を見たい。生粋のサディストの目だった。
そうしてついに僕は自分で言葉をかけていく
「誰も苦しめてない傷つけてない?」
「はいもちろんっす!」
僕の声は思った以上に冷たく出た。
スプレーの効果もとうに切れていて、完全に男の声のはずだがAは気づかない。
「いじめられて、そこから逃げて、別の高校にいった人なんていなかったって?」
「いや自分はそんなつもりじゃなくてじゃれてるだけだったんす。でもなんで知って……あれ?」
「好き放題言うね。人を傷つけたことない。大したことない。それを決めるのはされたほうだ。したほうが決めていいもんじゃない」
「しかもいじめておいた人間に告白して。変態なの?ホモなの?ホモでサディストとか救われないね。病院言ったら?」
僕は出来るだけ冷たくAの顔を見下して言葉を紡ぐ。
「最初に好きになった?まあ嘘だろうけど本当なら最悪だよね。最初に好きになったのが男とか。まあ嘘だろうけど」
Aはぽかーんとした顔をした後。
「いやっ」「その」「ちが」
と言葉に出来ない言葉を吐き出す。
「嘘つきでホモで虐待者でどうしようもないね。禄でもなさすぎて同情するよ」
最後には思いっきり腹に力を入れて。低音で言い聞かす。ここからAが暴れた場合は生徒会長アタックをしかけるつもりだった。
何も言わずにAは走って去っていた。飲みかけのジュースが地面に転がり落ちていた。
「うーん40点。ボキャブラリが少なすぎる」
つむつむが言った。
「ひどーい。私だってがんばったのにー」
女性声をつくってくねくねしながら言う
なんというか女装に慣れきってしまった自分がそこにいた。
「やめい。笑ってしゃべれなくなるわ」
つむつむが言った。
「まあうまくいったんじゃね?なんか最後泣いてたし」
「本当に?そりゃ仕返しが終わったと思っていいな」
楽しそうにケラケラ笑い生徒会長を回収して僕達は帰っていった。
町田さんの服を返して自分の服に着替える。男物を着ると違和感を感じるほどになった自分の体が今は一番怖い。
「町田さん。今日はありがとうございました」
「私が誘ったんだしきにしないでいいのよ」
「いえ色々お世話になったし最後に復讐まで手伝ってくれて」
普通に考えたらする必要は全く無かった。それでも僕はしたいと考えた。
そしてそれを町田さんは手伝ってくれた。生徒会長は基本なんでも手伝ってくれる。むしろ今回ももっと俺の出番増やせというくらいだった。
「いいのよ。あなた最初は目が死んでたもの。その頃に比べたらそれくらいなんでもないわ。特に相手を物理的に傷つけなかったのだからむしろ偉いわ」
そう言いながら僕の頭を町田さんは撫でた。
「おっと今は女の子じゃないから止めておこう」
そういって町田さんは頭から手を離した。少し顔が赤くなっていた。
「町田さん1つ尋ねていいですか?」
「ん?なあに?」
「実はそんなに男性慣れしてないですよね?」
割と簡単に照れるのに妙に大胆だったりして、自分に余裕が出来てなんとなくそう見えた。今までは何でも出来るヒーローでモテモテなんだと思ってたくらいだ。
「あーばれた?」
町田さんは照れ隠しに微笑んだ。
「なんでそんなに見た目いいのにモテないんです?」
「君だって今はそうじゃん」
……僕達は二人で腹をかかえて笑った。
家に帰り何事もない日常に戻った。
僕は今日色々なことがあったが後悔はしないだろう。そう思った。だが実際は違っ。復讐なんてすべきではなかったのだ。僕は今日のことできっと長いこと後悔するだろう。
例の日曜日から10以上たった。騒がしいけれど、日常の範囲内だった。女装したりコスプレしたりいつもの日常だった。
全校集会で校長が話しを始めた。
「今日は転校生を紹介します。この時期にはあまり無いのですが、どうしても来たいという強い意志を感じ、それなら後回しより今すぐにのほうが他の生徒のためにも本人のためにもいいと思い受け入れました。では自己紹介して下さい」
そこにはつい最近見た顔があった。僕は青ざめた。何故なら彼は僕のほうをじっと見ているからだ。しかも熱い視線を向けて。
「転校して来ました~です。私は誰より優しい男になりたいと思ってます。何か困ったことがあったら是非私にお手伝いさせて下さい」
おーと生徒の中で歓声が響く。だが僕にはそんなことより僕のほうをじっと見ていて視線をそらさないことが怖かった。
ぱちんとこっちに向いてウィンクしてきた。これなら復讐の仕返しにきてくれたほうがマシだ。
町田さんを探す。町田さんも珍しく青い顔をしていた。そしてこちらの視線に気づき口パクで何かを言っていた。
が ん ば れ
あれは見捨てるときの町田さんだな。
復讐は良くない。僕は1つの結論に達し、これからの学生生活どうすごそうか頭を悩ませる。
お拝読ありがとうございました。
今回は起承転結を意識してかつそこそこの長さで完結をさせてみました。
どのくらいの文章量がいいかどのくらいの構図がいいかどんな感じの文章密度がいいか。
まだまだ手探りなので読みにくかったらごめんなさい。
誤字脱字に加えて今回は時間がなく慌ててしまったので、何か不都合があったら教えて下されば嬉しいです。
今回も楽しんでもらえたら幸いです。あなたの時間を奪った甲斐があればそれだけで行幸です。
ありがとうございました。